忍法吸い寄せの術
雲一つない爽やかな秋晴れの日曜日、任務がお休みのミナトは、朝食をぱぱっと済ませて、すぐにカカシの家に吹っ飛んで行った。
「おはようございます!」
と、ミナトが玄関の扉をがらがらっと開けると、カカシがダダダダダッと駆けて来た。
「おはよう、ミナト!」
嬉しそうに満面の笑みでミナトを迎える。背中には小さなリュックを背負って、靴を履き始めて、すぐにでも出かけられるように準備をしている。 「カカシ、おはよう!今日はさ、オレの作った新しい術が完成したから、見てもらいたいんだけど。 最後にカカシにちょっと手伝ってもらって、どこまで威力があるのかも試してみたいしね! お手伝いしてくれる?カカシ!」
「うん、いいよ!ミナト!どこでするの?」
「広いところがいいから、演習場に行こうか」
「うわ〜楽しみだな、どんな術なの?」 「えへへ〜それは、向こうについてからのお・た・の・し・みだよ!
さっ、行こう!サクモさ〜ん、演習場で遊んでますね〜」 「父さん、行ってきます!」 「あぁ、昼飯には一度戻ってくるんだぞ」
ぼさぼさの頭を掻きながらサクモが出てきて、まだ半分寝ぼけているような声で言った。 「は〜い!」 二人は、きちんとサクモに挨拶をして出かけた。
さすがに日曜日の朝早くから演習場にいる人はいない。
ミナトとカカシの二人きりで貸切状態だった。
心地よい風が、カカシの柔らかい銀髪をふわふわと揺らしている。
「カカシ!今度の術はね〜すっごいんだよ〜!」
ミナトはしゃがんで、カカシの顔を見て誇らしげに笑った。
カカシはつぶらな瞳をきらきらと輝かせて、ミナトを見つめた。
新しい術がどんな術なのか、早く見たくてドキドキしている。
「ねえ〜ミナト、早く見たいよぉ!」
「じゃぁ、これから、オレの新しい術を見てもらうけど、どのくらいの力があるかカカシで試してみたいんだ。いい?」
「うん、どうすればいいの?」
「カカシはここで、立っててね。絶対に動いちゃいけないよ」
「立ってるだけでいいの?」
「そう、そのままずっとね」
ミナトはにこりと笑うと、そのままぱっと5m程後方に下がった。
カカシは肩をあげて、ぴしっと気をつけをして、唇を真横に引き結び、緊張した面持ちで立っている。
「カカシ、そんなに緊張しなくても大丈夫だよ〜はい、息を吸って、吐いて〜」
カカシはミナトの言う通りに深呼吸をして、身体の力を抜いた。
ミナトも、ふうっと息を吐き、呼吸を整えた。
目を閉じ、チャクラを練り上げる。
そして、ゆっくりと目を見開き、カカシに向けて右手をさっと翳して、
「吸い寄せの術!」
と、叫んだ。
その次の瞬間、
カカシの身体は一気にびゅ〜んとミナトに吸い寄せられた。
「うわ〜」
と、声を上げた時にはもうミナトの腕の中だった。
ミナトはぎゅうっとカカシを抱きしめた。
「大成功!!!カカシ、大丈夫?」
「うん、でも、びっくりした。ミナトにぐぃ〜んって引っ張られた!」
「ねっ!凄いでしょ〜!この術はね、カカシのために開発したんだよ!
もしも、カカシが悪い人に誘拐されそうになったら、この術でカカシをびゅ〜んとオレのところに、吸い寄せられるからね!安心!安心!」 「大丈夫だよ、ぼく、怪しい人には付いて行ったりしないから!」
「何言ってんの!カカシが付いて行く気なくても、無理やり連れて行かれちゃこともあるんだよ! カカシったら可愛いからさ〜!オレ、心配で心配でしょうがないんだよ」
「もう、ミナトも父さんも心配しすぎだよ。ぼくだって、早く走れるんだよ!」
いつものことながら、カカシはミナトの心配症ぶりに、ぷぃっと頬を膨らませた。
自分のことをここまで心配してくれるのは嬉しいものの、子どもながらにも、飴玉に釣られて知らない人にのこのこ付いて行ってしまう程、お子様ではないとのプライドもあるのだ。
ミナトはカカシを降ろして、人差し指をぴんと立てて、ウインクをした。
「ねっ、今度は、もうちょっと離れてやってみたいんだけど、いい?」
カカシはわざとらしく、渋々といった顔を見せて頷いたが、内心はもう一度あの空を飛ぶような感覚を味わいたくて、わくわくしているのだ。
「うん、いいよ!どこまでぼくを吸い寄せられるか、楽しみ!」
「おぉっ!言ってくれるね!カカシ。オレ、頑張っちゃうよ〜!」
そう言って、笑いながらミナトは、すすっと10m程後方に下がった。
「えっへん!今度はここからね」
「ミナト、がんばれ〜!」
カカシも手を振りながら、もう緊張することなく、笑顔で立っていた。
ミナトがチャクラを練り、右手をすっと翳した。
「吸い寄せの術!」
カカシは再び空を舞い、びゅ〜んとミナトの腕の中に吸い寄せられた。
「わ〜い!大成功!」
「すごいね〜!ミナト!」
ミナトは嬉しくなって、カカシを抱き上げたまま、ぐるぐると回った。
「もっと、出来るかな〜?でも、これ以上の距離は、カカシも怖いよね?」
「大丈夫だよ!ぼく、全然怖くなかったよ!」
飛んでいく先がミナトの腕の中と分かっているので、何の恐怖もなく、安心して吸い寄せられると言う
カカシに、ミナトもこの新術はそれだけでも大成功だなと確信した。
「じゃぁ、もうちょっとだけね。これで最後にするから」
「うん、ぼくもミナトのところに飛べるようがんばる!」
「あはは〜カカシは何もしなくていいんだよ。オレの術なんだから。
でも、カカシがそう言ってくれたのは嬉しいよ。ありがとうね」
ミナトはカカシを降ろして、カカシのふわふわの髪をぽんぽんと優しく撫でた。
そして、今度は15m程、後方に下がった。
(うわ〜、結構遠いな・・・大丈夫かな・・・?)
吸い寄せる力には自信があるけど、カカシの受ける衝撃の方が心配なのだ。
(ん!カカシがオレの腕の中に入る最後の瞬間に、チャクラで衝撃を柔らげた方がいいな)
「カカシ〜!準備はいい?いっくよ〜!」
「うん、いつでもいいよ〜」
ミナトは、さっきよりもチャクラを慎重に練り上げた。
そして、右手をカカシに向かって翳した。
「吸い寄せの術!」
カカシの身体は、一気にミナトに吸い寄せられたが、最後の一瞬は今までよりも、ふんわりとミナトの
腕に中に収まった。
「大丈夫?カカシ?」
「うん、最後は、何だか前のと違って、いっぱい飛んでも、全然怖くなかったよ!不思議だね?
すごいよ!ミナト!」
チャクラの違いを敏感に感じてくれたカカシにミナトも嬉しくなった。
ミナトはカカシを降ろして、二人でその場に座った。
「カカシが手伝ってくれたおかげで、もうこの術は完璧だよ!ありがとうね、カカシ。
まっ、この術を使うようなことが起こらなければそれが一番なんだけどね」
「だから、ぼくは誘拐なんかされないから大丈夫だって!
それに、ぼく思ったんだけど、そんなにぼくのところにすぐ来たいなら、ミナトの方から瞬身の術で飛んで来た方が早いんじゃないの?」
カカシの鋭い突っ込みに、思わずどきりとしたミナトだったが・・・
「あはは〜そりゃそうだけどさ・・・ほら、あの術はね、カカシを敵から遠ざけるのが一番の目的なんだからさ!
だ〜か〜ら、カカシをオレの方に吸い寄せる方がいいんだよ!」 「そっか・・・」
「そう!オレがカカシを悪い奴等から守るんだから!ねっ!」
「ぼくも早くアカデミーに入って、早く下忍になって、ミナトみたいに強くなりたいよ!」
「そうだね!オレも早くカカシと一緒に任務に行きたいよ〜!」
「ぼく、父さんにお願いしてみる!」
「よっし、オレからもサクモさんにお願いしてみるね!
さぁ、これでオレの新術のテストは終わったから、今度はカカシの好きなことして遊ぼうよ! 何がいい?」
「えっと・・・そうだ!ぼくにも忍術教えて!」
「う〜ん、それはまだオレ一人じゃ勝手に教えられないからね。
サクモさんから良いって許可がないとね、だめなんだよ」
「じゃぁ、ウチに帰る!帰って父さんに聞いてくるから!」
カカシはがばっと立ち上がって、ミナトの腕を引っ張った。
カカシの真剣な眼差しに、ミナトも腰を上げた。
(サクモさん、オレが教えるなんて許してくれるのかな・・・?)
家にはそれぞれその家なりのきちんとした教育方針ってものがあるのだ。
もちろん、はたけ家にだって。
というより、あのサクモのことだから、カカシにはそれはそれは大きな大きな夢と希望を抱いているのだから。
そう簡単には、他人に忍術を教えさせることなど許してくれそうにもないよな。
と思いつつも、
カカシの真剣な顔を見たら、胸がきゅんときた。
ミナトはダメ元でも、頭を下げてみようと思った。
「じゃぁ、二人でサクモさんにお願いしてみようね!」
「わ〜い!ありがとう!ミナト!早く父さんのところに行こうよ!」
カカシは嬉しそうに、ミナトを見上げた。
そして・・・
にっこり笑って・・・
「ミナト・・・だっこ」
と、言って両手を挙げたのだ。
「えぇぇ〜 どうしたの?カカシ?」
「だって・・・だって・・・
お空飛んだら疲れちゃったんだよ・・・
ぼく、もう、歩けないよ・・・」
「え〜何それ・・・!?
カカシったら、このくらいのことで甘えていたら、アカデミーになんて行けないよ〜!」
(ちょっと・・・あの術って、そんなに負担がかかるのか?)
カカシはしゃがみこんで、上目使いでじっとミナトを見つめている。
一向に立ち上がろうとする気配はない。
「はいはい、わかったよ。今日はオレがカカシにお手伝いを頼んじゃったからね、特別だよ!」
そう言って、ミナトはカカシを抱き上げた。
その瞬間、カカシのお腹がぐぅぅ〜と鳴った。
「あれ?カカシ、朝ごはんちゃんと食べたの?」
「あっ・・・ううん・・・食べてたら、ミナトが来て、途中で止めちゃったの・・・」
「こらこら!ご飯はきちんと食べないと、大きくなれないよ〜!」
「ごめんなさい・・・」
カカシは恥ずかしそうに顔を真っ赤にした。
「お腹空いて歩けないのか〜?カカシは!」
「うぅ・・・」
「じゃぁ、早く帰って、お昼ごはんいっぱい食べようね〜!」
「うん!」
ミナトは、カカシのおでこをつんと突いて、もの凄いスピードで駆け出した。
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2008/10/31