My Sweet Chocolate
ラーサーから無理矢理命じられて休暇を取ったバッシュは、何の予定もなく、今日一日どう過ごすか困り果てていた。
無理矢理休む位なら仕事をしていた方がましだと、いつも、休暇を取らずに働いていたバッシュだったが、さすがに、連続出勤が20日も続いていたことがラーサーにバレてしまったのだ。 仕事以外のプレイベートな予定が何も書かれていないスケジュール帳を見たところで、出掛ける先に当てなどない。 家でごろごろしているしかないと諦めて、スケジュール帳を閉じようとした瞬間、ふと、丸印がついている日にちが目にとまった。 「なんだろう?この丸印は・・・まったく覚えがないな」 2月14日。 「誰かの誕生日だったかな?いや、それなら、ちゃんと書くはずだ」 しばらく、考えていたがどうにも思い出せない。 しかし、こういうことは、思い出さないと気になって仕方ない。 バッシュは、自分もそろそろ危ない年齢になってしまったのかとちょっと不安になったが、どう頭を捻っても、出てこないものは出てこない。 「こりゃ、聞いた方が早いな」 バッシュが密かに頼りにしている女性の顔が目に浮かんだ。 年下なのにしっかり者だし、何より心根が優しい娘なのだ。 たとえ、自分が少々可笑しなことをしても、馬鹿にするようなことはないので、ここは思い切って彼女に聞いてみようとバッシュは思い、携帯電話を手に取った。 「久しぶりだね、パンネロ、元気にしてるかい?」 「わ〜小父様こんにちは!こんな時間に電話くださるなんて珍しいですね。お仕事中じゃないですか?」 「いや、今日は休みなんだよ」 「小父様、ろくにお休みも取らずに働きすぎなんですって。たまにはゆっくり身体を休めることも必要だと思いますよ」 「そうだな、ラーサー様のお気づかいには感謝している。ところで、パンネロ、君にひとつ聞きたいことがあるんだが」 「何でしょうか?」 「その・・・2月14日は誰かの誕生日かな?スケジュール帳に丸がしてあるんだが、どうにも思い出せないんだ」 「私の知っている人で2月14日のお誕生日の人はいませんけど・・・」 「そうか、すまない。自分が書いた印を思い出せないなんて、まったく恥ずかしいことなんだが、俺ももう歳なのか・・・」 「ねぇ、小父様、もしかして、誕生日じゃなくって、バレンタインデーじゃありませんか?」 「な・・・!バ、バレンタインデーだと!!」 「だって、それ以外、あり得ませんよ。きっと、そうです。バレンタインデーだから丸をしたんですよ!」 「そっか、バレンタインデーだったのか・・・」 「じゃ、小父様、ミゲロさんが忙しそうにしてるから、この辺で・・・」 「あ、すまない、パンネロ。そ、その今日は忙しいのかな?少しだけでいいから、時間の都合をつけてはくれないだろうか」 「え?今日これからですか?」 「ああ、ちょっと頼みたいことがあるんだ」 「夕方になれば、お手伝いも終わるので大丈夫ですよ!」 「では、5時頃に伺うよ」 「はい、小父様。お気をつけていらしてくださいね」 それから、バッシュは普段あまりできない部屋の片づけをして、午後の時間を過ごし、5時にラバナスタへ着く飛空艇に乗った。 「パンネロ、すまないね、疲れているところ」 「いえいえ、久しぶりに小父様に会えて、嬉しいですよ! 折角のお休みなのに、わざわざお越しいただいて、私に頼みごとって何でしょうか?」 「あ、いや、その・・・き、君なら・・・若い・・・お嬢さんだし・・・流行りの・・・チョ・・・」 顔を真っ赤にして何やらぶつぶつ呟いているのだが、パンネロはバッシュが何を言ってるのかさっぱりわからない。 「小父様、落ち着いてください」 「す、すまない。パンネロに教えてもらいたいんだ・・・私では何がいいのわからないのでね」 「何をですか?」 バッシュの赤い顔を見て、何を聞きたいのかすでに察しているパンネロだったが、ここは敢えて、はっきりとバッシュの口から聞いてみたい。 「おおお、美味しい・・・その・・・バッ・・・バッ・・・チッ・・・チッ」 「ババチチって?」 「バレンタインデーのチョコレートだあああああ!!!」 言いたいことがやっと言えて、バッシュはほっと肩を下ろした。 「まぁ!小父様がバレンタインデーにチョコレートを?」 「そ、そ、それそれ、どんなものが喜ばれるかなと・・・私にはそういうセンスがさっぱりないので」 「小父様!バレンタインデーのチョコと言っても色々な意味があるんですよ! 義理チョコ?友チョコ?ホモチョコ?本命チョコ?どれですか?」 「むむ・・・何だと?そんなに種類があるのか・・・」 「小父様ったら!チョコの種類じゃなくって、どんな思いであげるかって趣旨の事ですよ! 好きではないけど、とりあえず、お付き合いであげる義理チョコ。 たとえば、職場の部下が上司にあげるのも義理チョコね。仲の良いお友達同士で渡し合うのが友チョコ。今は、女の子同士でも渡し合ったりするんですよ。 だから、男の子から男の子にあげるのがホモチョコって言うの。そして、一番大好きな人にあげる本命チョコ。 小父様は、どんな人に渡したいんですか?」 バルフレアとバッシュの関係は、あの戦いを共にした仲間はみんな知っている。 もちろん、パンネロもそんな二人を微笑ましく見守っていたし、陰ながらエールも送っていたのだ。 たぶん、誰にも相談できなくて、わざわざ帝国から自分のところに飛んで来たのだろう。 健気なバッシュの役に少しでも立ちたいと、パンネロは心の底から思った。 「そ、そ、それは・・・男といえば・・・確かにその・・・それはそうかも・・・私も男だし・・・」 「え?ホモチョコなんですか?」 「いや・・・でも・・・私の・・・一番・・・大切な・・・だ、大好きな・・・」 「じゃぁ、本命チョコですね!任せてください!とびっきり美味しいチョコを教えてあげますから!」 「あ、ありがとう、パンネロ。世話をかけてすまない。いい歳して、こういうことは、どうも自信がないんだよ」 「さ、早速、行きましょう!時間がないわ」 パンネロはバッシュの手を引いて、ラバナスタの町を走った。 何軒かのお店を回って、二人は再びミゲロさんのお店に戻ってきた。 道具屋はすでに閉店していて、パンネロは奥のキッチンを借りて、バッシュを呼び入れた。 「本命チョコって言ったら、やっぱり、手作りが一番ですよ!小父様! さ、一緒に作りましょう!」 「は?パンネロ?手作りって?私が・・・?」 「そうですよ!簡単ですから、すぐにできますって!はい、手を洗って。 私のエプロン貸してあげますからね、これつけてください!」 何が何だか分からないうちに、エプロンをつけられて、バッシュはキッチンに立っていた。 それから、言われた通りに、チョコを溶かして、掻き混ぜたり、型に流したり。 何もかもが初めての体験で、細かい作業は難しくて中々うまくできないこともあったが、愛しい人の喜ぶ顔を思い浮かべては、必死に不器用な手先を動かした。 仕上げのトッピングをして、冷蔵庫で冷やして、ついに完成した。 ひとつ味見をしてみたら、何と美味しいこと! バッシュは、自分で作れたことに大感激だ。 「おお!美味い!パンネロ、こんな美味しいチョコは今まで食べたことがないよ」 「そうですか〜!よかった!大成功ですね!」 「びっくりするだろうな・・・」 そう言って、思わずにやけたバッシュの頬にはチョコレートがついていた。 「小父様ったら・・・」 パンネロは、店の棚から、プレゼント用の可愛い包装紙を持ってきて、上手にラッピングしてバッシュに渡した。 「カードはご自分で書いてくださいね!」 「ありがとう、パンネロ。お礼をしなくては。その、何がいいかな?君の欲しいものを遠慮なく言ってくれ」 「小父様、じゃぁ、帝国で一番美味しいって評判のチョコを送ってくださいね!友チョコとして!」 「あぁ、わかった、そうさせてもらうよ。そうだよな、こういうのが友チョコっていうんだな。うん、では、ヴァンの分も送るから」 「わ〜楽しみにしていますね!小父様!」 そして、2月14日の晩ー 仕事を終えて、自室に戻ったバッシュは書斎で本を読んでいた。 約束もなく、連絡もなく、 でも、何故か確信だけはあった。 今晩は、必ず、来てくれると。 文字を追っていても、中身は頭に入っていない。 風の音ー そして、遠くから微かに聞えてきた、エンジン音。 近づいてくる。 間違いない、懐かしい音。 高鳴る鼓動。 カーテンが揺れた。 「何、一人でにやけてるんだよ、おっさん」 抱きしめて、 彼の匂いを吸い込む。 彼の唇を吸い込む。 あぁ 彼の驚く顔を見るまで、あと10秒。 私はデスクの上に置いてあった、グリーンのリボンがかけられた小箱を渡す。 「開けてみてごらん」 「へぇ〜あんたでもこんなことするんだ?」 不思議そうに小首を傾げてから、細い指で器用にラッピングをほどいた。 「マジかよ?これ、あんたが?」 バルフレアは、蓋を開いて、ヒューと口笛を吹いた。 やはり、ちょっと不細工な形は一目見て手作りのものだと分かってしまったのだろう。 「そうだ」 「信じられない、なんか変な薬でも入ってるんじゃないだろうな?」 「そんなことするか」 「いいのか?食って?」 「ああ、もちろんだ」 バルフレアは、一粒摘んで小さな口にそっと入れた。 「・・・・・」 何も言わないバルフレアを不安げに見つめるバッシュ。 「ど、どうかな?」 「美味いぜ、今まで食ったチョコの中では一番だ」 「ほ、本当か?」 「あぁ、あんたが作ってくれったっただけで、十分美味しいよ」 「よかった。そう言ってもらえて、私も嬉しい」 「って、あんた味見してないもの俺に食わせたのかよ?」 「いや、そんなことはない、ちゃんと、パ・・・いや、その味見はしたよ」 「ふう〜ん、ま、何でもいいさ。俺のためにあんたが作ってくれたって、事実だけで」 「あ、そ、その一人でって訳ではないんだ・・・」 「もう何もいうなって」 「バルフレア・・・」 「さ、向こういこうぜ、今度は俺からのプレゼントあげるからな」 バルフレアはバッシュにちゅっと触れてから、バッシュの手をぐいっと引っ張って、寝室へと入って行った。 バルフレアからの甘い甘〜いプレゼントをバッシュは一晩中堪能した。 |
2012/2/14
バレンタインデーのお話です。
どうも私が書くと、バシュバルというより、あふぉなバッシュのお話になってしまうような・・・^^;;
パンネロが好きなので、危うく二人だけしか出てこない雰囲気に・・・
連載放置中のお話と同じパターン・・・あれ?
時間のあるうちに何かひとつでも書ければと思って、やっと書けました。
バルの出番がほとんどないけど、これでもバシュバルのつもりです、すみませんm(__)m