崖の上の王子
前回のあらすじ
 あれから三年の月日が流れ、カカシは再びあの場所へと・・・ 



あれは・・・
三年前の夏のこと。

日の出と共にここに登り、
突き刺すような夏の強い日差しを浴び、
そして、日が沈むまで。
中忍試験の本選に向けて、毎日、毎日、この崖の上で、
オレとサスケは過酷な修行を続けていた。
サスケは文句も言わず、必死にオレの修行についてきた。
今のサスケなら、もう大丈夫だろう。
そう確信が持てたから、修行中に誕生日を迎えたサスケに、
オレの一番大切な技・千鳥をプレゼントしたんだ。

その時、サスケは、
「今度のアンタの誕生日には、オレも一番大切なものをプレゼントしてやる。
いつもの時間にここで待ってろよ」
と、言ってくれたのに・・・


それは叶わず、
オレの誕生日前にサスケは里を抜けた。


それ以来、誕生日を一人で木ノ葉で迎えるのが嫌で、
必ず国外任務に出してもらえるように、志願している。
今日もこれから、国外に出るところだ。

そのまま、出発すればいいのに、
一年に一度のこの日に、
どうしても、足が向いてしまう。

待っている訳じゃない。
奇跡を信じている訳でもない。

有り得ないって、
わかっている。

来るはずないって、
わかっている。

それなのになぜ・・・?
どうして・・・?
ここに足が向いてしまうのだろうか。

あれこれといろんな言い訳をつけながらも、
これからの一年の始まりを、
ここで迎えたいという、
信じ難いおかしな感情・・・


0.01%もないだろうあの約束が守られる可能性を・・・

どこかで信じようとしている自分が情けない・・・



九月十五日、日の出前に、
オレは登り始めた。

空の端が、少しずつ淡い紫色に変わり始めている。


「くっ・・・崖登りがこんなにきつくなったとはな・・・
・・・ったく この前よりも体が鈍ってやがる・・・」

片手だけで、絶壁を登る。
指の先に、全チャクラと神経を集中させて・・・
あともう少しで登り終えると思ったその時・・・


「よう」

忘れるはずのないその声。
間違えるはずのないあの響き。

見上げれば、
崖の上には・・・

夢を見ているのか・・・?
それとも・・・
幻・・・?

「え・・・? サ・・・スケ? うっそ・・・」

昨日は、誕生日前夜祭とか言われて、ゲンマ達と散々飲んだけど、
二日酔いになるほど、飲んではいないつもりだったが・・・
頭の上の光景が、未だ信じられない・・・
 
一瞬の動揺で、チャクラが乱れて、
オレの指は崖から離れてしまった。

「うわぁっ!」

すぐにチャクラを練り直して、手を伸ばしたが、
ふわりと何かが伸びてきて、
オレの手は、崖の上に引き上げられた。

「何やってんだよ。危なっかしいな」

オレの身体は、サスケの翼の中にすっぽりと包まれていた。

あぁ、懐かしいこの匂い。
サスケの匂いだ。

そっと見上げると、
朝日がサスケの顔を神々しく照らしていた。

誰かの悪戯ではないのか?
変化の術ではないのか?
本体に触れてみなくては・・・

「サスケ・・・?
本物・・・だよね?」

ゆっくりと手を伸ばし、
サスケの指先に触れてみる。

ああ、間違いない、
このぬくもり、
このチャクラ、
本物のサスケだ。

「そんなことしなくても、本物のオレだ」

サスケが指をぎゅっと握り返してくれた。

「どうやって、ここに? 結界は?」
「すまなかった。アンタとの約束を守れなくって」
「覚えていて・・・くれたの?」
「当たり前だ。自分で言ったことだからな。
最初の年は、大蛇丸の元を抜け出せなかった。
次の年は、折角里の前まで来たのに、結界が破れなかった。
今年は、やっと、約束を果たせたぜ」

「サスケ・・・」

うぅっ・・・
駄目だ。

言いたいことも、
聞きたいことも、
たくさんあるのに。

目の奥から、
胸の奥から、
いろんなものが込み上げてきて、
言葉も出てこない。
今は唯、この懐かしいぬくもりに触れていたい。

「サスケ・・・オレの・・・ほっぺを・・・抓ってみて」
「そんなことしなくたって、夢じゃない」

サスケはそう言いながらも、ニヤリと笑って、オレの頬をつんつんと突いてくれた。

「カカシ、誕生日おめでとう」
「・・・ありがとう。まさか、誕生日に会えるなんて・・・思ってもみなかった・・・」
「やっと、来れた。やっと、言えた」

オレは瞼に焼き付けるかのように、写輪眼を発動してじっとサスケを見つめた。
一分一秒も見逃すまいと、サスケのすべてを捉えて、この眼から離さない。

「なんだよ、わざわざそんな目で見なくっても」
「あ、これね、一番最近コピった術なんだけど、すっごい便利なんだよ。
写輪眼のオート撮影機能。後で、写輪眼で見た物体を写真に印刷もできるし、
録画機能もあるから、動画だって大丈夫なんだよ。
感知タイプ系の術なんだろうけど、潜入ミッションには結構使えるよ、これ」
「そんな術があるのかよ」
「ほら、暁のさ、サスケに付いて来た白いの・・・ズズズって出て来たキモイ奴。
えっと、名前は何て言ったっけかなぁ?」
「ゼツか?」
「そ、そんな感じだったと思うけど」
「あの時にこんな術をコビってたのかよ・・・よくそんな時間あったな」
「そりゃあ、使える術は、いつでもコピー!どこでもコピー!が写輪眼な基本だからね。
今、サスケを撮っておけば、家に帰って、一人でゆっくり見れるしね〜♪」
「アンタなぁ・・・感動の再会の雰囲気ブチ壊しだ」
「え〜折角サスケに会えたんだもん。思い出は大事にしまっておきたいし。
次、いつ会えるのか、わからないでしょ!
それにしても、もっと前にこの術欲しかったな。
アカデミー生の頃から、可愛いサスケを見ていたかったよ」
「あのなぁ・・・」
呆れ顔のサスケは、ふぅっと短い息を吐いた。

「オレにもコピらせろ」

「ね、欲しくなったでしょ! もちろん、いいよ。
オレを撮ってくれるんでしょ?」

そう言って、オレはもう一度写輪眼を発動して、サスケの瞳を見つめた。

「ほら、今のうちに」

サスケがまさにコピろうとした瞬間、微かなチャクラの動きを感知した。

「うわ〜ヤバイ! こんなことしてられない!
結界班がここを見つけた!
サスケ、早く逃げて! 暗部が来るよ!」
「おい、コピる位の時間はあるだろ?」
「駄目! 駄目! すぐに飛んで来るって! オレも逃げなくっちゃ!」

「もうすぐ、すべてに決着がつく。待っててくれ。
来年のアンタの誕生日は、木ノ葉で祝ってやれるようにしてみせるからな」
「うん、待ってる」
「カカシ、目を閉じろ」
「え?」
「早く!」

そっと、目を閉じると、
柔らかくて温かいものが、ふわりと唇に触れた。

「時間がない。今年は、これだけだ」
「サスケ・・・」

サスケからもらったバースデープレゼントは、
小さな、小さな、キッス。
サスケから、
オレへ、
初めての。


「嬉しいよ、サスケ。最高のプレゼントだよ」
「続きは来年だな、覚悟しておけよ」
「え〜何を?」
「何って、キスの続きと言ったらな・・・」

その時、暗部がすぐそこまで近づいて来ている気配を背中に感じた。

「来たぞ!」
「来年も、ここで、この時間に待ってろよ」
「うん! 待ってる」
「遅刻したら許さないからな!」
「わかった、遅刻しないように前の晩からここに泊って待ってるよ」


「じゃあな」

「じゃあね」


サスケの影は一瞬にして、朝日の中に消えていった。
それを見届けて、オレも駆け出した。



その後、マダラの「月の眼目計画」は、サスケの手によって、阻止されることとなった。
兄の遺志を継ぎ、
木ノ葉隠れの里の逆スパイとしてマダラに接触し、極秘任務をやり遂げたサスケは、
翌年の夏、無事、里に帰還した。





END


あっきぃ



2010.9.15



☆ カカ誕2010やっつけ委員会あおた様主催の「別冊KAKASHI」に、
 恐れ多くも参加させていただきました!
 テーマが「少女漫画風」ということで、乙女チックサスカカを目指したつもりなのですが・・・
 見事に撃沈か・・・!?
 皆様の作品はそれはそれはお見事でした!サスカカは少女漫画がデフォらしいです。
 そうだったのかぁ・・・(笑)
 そして、広告ページが大爆笑でしたね〜
 「別冊KAKASHI」 また、発売してほしいです!