四代目の思い切った改革のお陰で、お正月をのんびり過ごせた里の忍たちは、四日から通常任務に戻った。
今まで、親兄弟の死に目にも会えず、盆暮れもなく任務に就くのが当たり前のように思っていた忍にとって、初めて普通の人間らしいお正月を過ごすことができたのである。
皆、四代目に感謝し、たとえどんな辛い任務でも、愚痴や文句を言う者も無くなったし、四代目のためなら何でもしようという気持ちになった。
恩に報いようとする心ほど強いものはない。
その心が集まれば、里の平和のためには、さらに大きな力となっていくのである。
自来也の別荘で楽しいお正月休暇を過ごした四代目とカカシも、また、忙しい任務の毎日を送っていた。
四代目は、一日も休みを取らずに、朝早くから夜遅くまで一生懸命働いている。
そうして一月もあっという間に半ばが過ぎたある晩の夕食後。
カカシはキッチンでデザートの林檎をむいてあげて、小さくふうっとため息をつき、四代目の待つテーブルへと運んで行った。
サクサクといい音をたてて林檎を頬張る四代目と、壁に貼ってあるカレンダーを交互に見ながら、カカシは、お正月以来ずっと悩んでいることを、思い切って打ち明けることを決心した。
「先生・・・ 仕事忙しいの? 今年になってから、休み取ってないけど、大丈夫?
あのさ・・・ もうすぐ・・・ 誕生日でしょ・・・ 先生、休めるの?」
「カカシィ〜 そんなこと心配してくれてたんだ〜! ありがとう、嬉しいな〜!
もっちろん、休むよ。 自分で決めたんだからね。
まっ、そのために今のうちから、仕事溜めないように頑張ってるからさ〜!
大丈夫、 先生だって、そのくらいちゃんと考えてるから!」
「そう、良かった・・・」
「でもさ〜 一月生まれって損だよね〜」
「損って? どうして?」
「だってさ、クリスマスからお正月にお誕生日まで、一ヶ月の間にさ、一年の楽しいイベント全部あっという間に終わっちゃうんだよ〜!
あとの十一ヶ月は何にも楽しみ無し・・・!?」
「そっ、そうかな〜?」
「絶対一月生まれの人は可哀想です!
そうだ! お正月に行った自来也の別荘、暖かくて良かったよね〜
自来也に鍵借りてさ、今度は二人っきりで行こうか・・・? ニシシ〜
カカシも、早めにシカクに有休申請出しておいてね。
まぁ、アイツなら、理由は聞かなくても分かるだろうから」
四代目は、怪しい笑みを浮かべて、カカシを見つめた。
「うん・・・ 先生の行きたいとこならどこでもいいよ!
それから、プレゼントなんだけど・・・
その・・・ ずっと考えてたんだけどさ、色々迷っちゃって・・・
先生、何か欲しいものある?」
「美味しいケーキとカカシの微笑!
欲しいのはそれだけだから!」
「あぁ、もちろん、ケーキは作るつもりだけど・・・
ほら、お正月に、着物作って貰ったから・・・
その御礼に、今年はオレも先生に何か残るものプレゼントしたいんだ!
オレだって、上忍になって少しお給料上がったし・・・
マフラーとか、パジャマとか、色々考えたんだけど、迷っちゃって・・・」
毎年、四代目はケーキだけでいいと言って、プレゼントは受け取らなかった。
お正月に、カカシの着物を見て、自来也から、
「カカシ、良い着物作ってもらったな〜」
と何気なく言われた言葉をカカシは気にしていたのだ。
自来也が良い着物と言うくらいだから、相当高価なものという意味だと、そのくらいはカカシにも分かったからだ。
「あっ、もしかして、着物のことなんか気にしてるの?
あれは、オレが楽しむために作ったんだからさ〜!
カカシはそんなこと気にしなくっていいの!
十分楽しませて貰ったしね・・・」
「でも・・・」
「カカシ、 『微笑は大なる力なり』って昔の人の言葉があるんだよ。
微笑は、春風のように、人の氷のような心を溶かす力がある。
微笑が人の心を豊かにして、希望を与える大きな力になるっていう意味なんだよ。
オレは、カカシの笑顔を見ていると、元気になれるし、幸せになれる。
『カカシの微笑』が生きる力なんだからさ!
オレにとっては、すっごく大きな力なんだよ!
だから、いっぱいいっぱい欲しいの!
とにかく、お金で買ったものなんていらないからね。
カカシの気持ちだけで十分だから。 絶対受け取らないよ〜」
「先生・・・」
カカシにも、先生の言っている意味は、よく分かった。
自分だって、過酷な任務でへとへとになって帰ってきても、先生の優しい笑顔で迎えてもらえば、疲れなんていっきに吹っ飛んでしまう。
先生の笑顔にどれだけ力を与えてもらったことか。
でも、せめて、先生が四代目になって初めての誕生日くらいは、何か形に残るものを贈りたかったのだ。
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