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桜の約束   1
   

カカシは、サクモを亡くしてから初めての春を迎えていた。
 
「カカシィ〜 ねぇ〜ねぇ〜 起きてよぉ」
 
珍しくカカシより早く目が覚めた先生は、楽しそうに鼻を突きながらカカシを起こした。
 
「う・・・ん・・・ えっ、先生、もう起きてるの?
オレ、寝坊した?」
「ん! 何かさ、お休みだと思ったらいつもより早く目が覚めちゃってさ〜
今日、いいお天気だから、家で寝てるなんてもったいないよね〜 
お花見でも行こうよ! 今日あたり、満開できっと見頃だよ。 
眠くなったら、桜の下でお昼寝して!
ね〜 いいじゃん!」
 
カカシは、目を擦りながら、身体をゆっくり起こした。
 
「うん、分かった、じゃぁ、お弁当作らなきゃね!」
「わぁ〜い! おにぎり! おにぎり!
カカシのおにぎりって、美味しいんだよね〜!」
 
嬉しそうな先生の顔を見ていると、カカシも何だかワクワクしてきた。
腕まくりをして、さっと顔を洗って、エプロンを身に着けた。
 
キッチンに立ったカカシは、まずジャーからご飯をお皿にいっぱい盛ってさます。
そして、鮭を焼き、次は卵焼きにウインナーと手早くおかずを料理していく。
焼けた鮭は、細かくほぐして、ご飯にささっと混ぜた。
とても、七歳とは思えない程の手つきに、
先生は何もしないで只々見惚れるばかりだ。
カカシのもみじのように可愛らしい手が、次から次へとおにぎりを握っていく。
 
「じゃぁ、先生が海苔巻いてね〜」
「は〜い! オレが握るとカカシみたいにきれいな三角にならないんだよな〜
どうしてだろ・・・?」
 
不器用な先生が握ると、どうしても何コレ?というようなへんてこな形になってしまう。
先生は海苔を巻く係に専念した。
 
「うわぁ〜 美味そう〜 朝ご飯に一つ、いただきま〜す!」
 
美味しそうなおにぎりを目の前に我慢出来なくなった先生は思わず一つつまみ食いをした。
 
「やっぱ、出来立ては美味いなぁ〜」
 
もぐもぐと口を動かしながら、自分が作ったんじゃないのに、
 
「はい、カカシも朝ご飯ちゃんと食べて行きなさい!」
と、カカシにも一つ手渡した。
 
(うん、美味しくできたかな。 良かった)
 
「もう一個だけいい?」
「先生、いっぱい握ったから、大丈夫だよ」
 
先生が、食べている間に、水筒にお茶を入れ、お弁当を包み、押入れから大きなレジャーシートを出してきて、リュックに詰め込んだ。
 
「ハイ! 準備完了!」
「サンキュ カカシ! 
って、カカシ、まだ着替えてなかったね。
あとはカカシの仕度だけだよ〜ん」
 
カカシは恥ずかしそうに、箪笥からTシャツとハーフパンツを引っ張り出して着替えた。
 
「ところで、先生、どこにお花見に行くの?」
「へへへ〜 それは、ヒ ・ ミ ・ ツ!
ちょっと遠いけど、一気に飛んで行っちゃうから平気! 平気!」
 
先生の飛雷神の術は凄い術で、いつでもどこでも、術式の札が貼ってあるところへなら、瞬時に飛んで行けるのだ。
去年、サクモが亡くなってから、先生はカカシを引き取って一緒に住むようになったのだが、カカシは時折、夕飯の買い物と言っては、ふらりとどこかへ消えることがあった。
もちろん、ちゃんと帰ってはくるのだが、その買い物の袋の中身とは、明らかにかかった時間が違うことは先生には見え見えだった。
 
「遅かったね」
と言っても、
「先生に美味しいもの食べさせてあげようと思って色々悩んでた」
なんてもっともらしい嘘をつかれるとそれ以上は問いただせなかった。
 
カカシが下忍になってすぐ担当上忍になったから、もう二年以上も組んでいるのだが、一緒の班で任務をこなすのと、同じ屋根の下で暮らすということでは、大きな違いがあって、カカシもいろんな戸惑いがあって当然のことと先生は思っていた。
だいぶ落ち着いてきたものの、父親の死のショックからまだまだ精神的には不安定な状態が続いていたし、カカシだって一人になりたいことだってあるのは仕方ない。
(先生とすれば、本当はもっと甘えて欲しいのだが・・・)
自分がカカシを育てる!との強い思いでいっぱいだった先生にとっては、たとえちょっとの時間でもカカシの行方が分からなくなるのは、不安でしょうがなかった。
そこで、前々から頭の中では漠然と理論だけは考えていたのだが、口寄せの術を応用して、自分がどこへでも飛んで行ける時空間忍術を開発したのだ。
巻物の代わりとなる術式を書いた札をカカシに持たせておけば、万が一の時すぐカカシのところへ飛んでいけるという術なのだ。
先生は内緒で札をカカシのポーチの裏側に見えないように細工をして縫い付けておいた。
 
カカシが初めて先生と一緒に飛んだ時は、本当に衝撃的だった。
まさか時空の狭間を飛べるなんて想像したってそう簡単に出来る事じゃない。
やっぱり先生は天才だと本当に感動した。
それが、まさか自分のために開発された術であり、自分に札が貼り付けられてるとは知らずに・・・
 
何回か先生と一緒に飛ばせてもらって、カカシはいつも不思議に思うのだが、
「いったい何時どうやって札を貼っているの?」
先生教えてといくら頼んでも、
「カカシがもう少し大きくなってからね〜」
とはぐらかされてしまう。
もちろん、カカシも、自分にはまだチャクラが足りないから到底できる術ではないことは分かっているのだが。
早く大きくなって、そして強くなって、自分も飛雷神の術が使えるようになりたいと思うカカシだった。
 
「よ〜し! カカシ背中に乗って!
さぁ〜、出発!」
 
片手にリュックを持って、背中にカカシを背負い、元気いっぱいの先生の一声で、
二人は一気に時空の狭間を飛び越えて行った。
 

                                                          2007/4/11

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