桜の約束 完
翌年の春・・・
桜の季節が、また巡り来た。
週末になると、ゲンマはカカシの部屋に転がりこむ。
明日は休みとなると、どうしても明け方近くまで起きていることが多い。
だから、翌日は、特にどこに出かけるでもなく、お昼頃まで部屋でごろごろして過ごすことになってしまう。
でも、昨日の晩にカカシがお花見に行こうと誘ったので、いつもより早く寝て、今朝は二人で早起きをした。
「ゲンマ、 おはよ〜 折角だからさ、お弁当持って行こうよ。 オレ、おにぎり握るから!」
ゲンマが目覚めると、カカシはエプロンをしてキッチンに立っていた。
「おぉぉ〜 いいねぇ〜 酒も持っていくだろ? つまみも頼むぜ」
「ん、任せて! ちゃんとおつまみになるものも作ってるから!」
「さっすが〜! よし、じゃぁ、オレは酒とシートでも詰めておくか」
ゲンマは着替えて、持っていく物をリュックに詰め、準備をした。
「で、ところで、どこに花見に行くんだ?」
「うん、良い所知ってるから、大丈夫だよ」
あっという間に、準備は終わり、二人は部屋の外に出た。
「えっと・・・ 悪いけど、荷物はゲンマが背負ってくれる?
飛雷神の術で飛んで行くからさ・・・
その・・・ オレの背中に・・・」
カカシは、少し恥ずかしそうに頬を赤く染め、下を向いてぽそりと言った。
(カカシったら、可愛い〜 何で顔赤くしてるんだよ)
ゲンマは、そんなカカシに思わず見惚れた。
「こうすればいいんだな・・・」
後ろから、両手を前に回してぎゅうっとカカシを抱きしめた。
「うん・・・ 目を瞑って・・・ 離さないでしっかり掴まっててね」
そう言うと、カカシは目にも見えない程の早いスピードで印を組んだ。
「飛雷神の術!」
ぴゅ〜んと、時空の狭間を飛び、二人の降り立ったところは、あの桜の木の下だった。
まさに今が丁度見頃と満開に咲いている。
あまりの荘厳さにゲンマは辺りを見渡し、言葉を失う程だった。
「うわぁ・・・ すっげぇ・・・ 見事なもんだな・・・」
「でしょ〜」
「ここ、どこだよ? 誰もいないじゃん?」
「まっ、どこって言われてもね・・・ オレも先生に連れて来てもらったから、
上手く説明出来ないんだけど・・・
終末の谷の近くらしいんだ。
オレ毎年花見に来てるのに、今までここで誰にも会ったことないんだ。
こんなに綺麗なのに、もったいないよね〜」
「いいのか? 二人の秘密の場所だったんじゃないのか?」
「えへへ・・・ まっね・・・
先生が亡くなってからは、一人で来てたんだけど・・・
何かね・・・ もう、さすがに一人ってのはね・・・
今年はゲンマと来たかったんだ。
いいから乾杯しよ!」
「そうだな・・・」
二人は、シートを敷いて腰を下ろし、カカシの作ったお弁当広げた。
「うわぁ〜 美味そう〜 いいよな、こうして外で食べるのって!」
クーラーボックスに入れてきたビールもガンガンに冷えている。
「とりあえず・・・ っと、何に乾杯だ?」
「そりゃ、満開の桜にでしょ」
「だな」
二人は、「乾杯」と、缶ビールを高く掲げカチンとぶつけた。
「ひえぇ〜 うっめぇ〜 こんな桜を見て飲むビールは、また格別だな」
( 先生・・・ ごめんね・・・ 先生との秘密の場所をゲンマに教えちゃった・・・ )
カカシは、ふんわりと微笑み、地面を愛おしそうにそっと撫でて、先生に心の中で話しかける。
「あっ、カカシ今、先生のこと思い出してるんだろ」
「えっ・・・ イヤ・・・ そっ、そんなことは・・・」
ゲンマには、何でも見抜かれてしまうなと、恥ずかしそうに頭を掻くカカシ。
「カカシはすぐ顔にでるタイプだからな」
「ごめん・・・」
「別に誤ることはない。
俺も今、四代目が俺達の隊長だった時のこと思い出したし。
確かに任務はキツかったけど、何んだかんだ言っても、あの頃が一番楽しかった・・・
俺達、いつも、ハチャメチャな四代目に振り回されていたよな」
「うん」
カカシはこくりと頷いた。
「四代目に就任して、シカクさんが隊長になってからは、もっと大変だったんだぜ。
別の意味で」
「えっ? 何それ?」
「そりゃぁ、あの時は、口には出せなかったけど、俺達は通常の任務以外にカカシの身を守るって極秘任務を言い渡されてた訳で。
シカク隊長、通常任務よりもこっちの方が神経使ってキツイって。
胃に穴開きそうって嘆いていたぜ〜」
「そぉだったの・・・
そういえば、帰ったらすぐ、怪我していないか、チェックされてたっけ・・・」
「四代目ってさ、かなり自己中なのに、何故か憎めないんだよな〜
どうしてだろ・・・ あの笑顔に弱いんだよ・・・
みんな四代目が好きだったんだ。
あの人のためならしょうがないって感じになっちゃうから不思議」
「うんうん、ほんとに」
カカシは、そんな先生を思い出して、懐かしそうに笑った。
ゲンマは、二人の間にあったお弁当箱を、自分の外側に置き直して、ずずずっとカカシの方へ、身を摺り寄せた。
カカシの肩に腕をぐるりと回し、そっと耳元で囁いた。
「四代目には、色々苦労させられたから・・・
俺はここで仕返ししてやるぞ・・・
見てろよ〜! 四代目!」
「えっ? ちょっ・・・ 」
カカシが驚いて、ゲンマの方に顔を向けると、いきなり唇を塞がれた。
「ふっ・・・ ゲンマァ・・・ イヤっ・・・
ここじゃダメ・・・」
「いいだろ・・・
連れて来たのはカカシだし・・・」
言葉では抵抗したものの、身体ではもはや何の抵抗もしないカカシにゲンマはたくさんの優しいキスの雨を降らせた。
( 四代目・・・ 心配するな・・・
カカシは俺が守ってやるぜ・・・ )
ゲンマは、ちらりと頭の上の桜を仰ぎ見て、心の中でそう呟いた。
( 先生・・・ ごめんね・・・
先生のいない世界で一人で生きていくのって・・・
ちょっと苦しかったんだ・・・
ゲンマだから・・・ 許してね・・・ )
何も言えないよう唇を塞いだまま、ゲンマはゆっくりとカカシの身体を押し倒した。
ほんのり桜色に頬を染めているカカシがたまらなく色っぽい。
もう、何年も身体を重ねているのに、いつも、まるで初めて抱かれるような顔をして恥らうカカシが愛しくて。
ゲンマは優しく頬を撫でた。
「それ以上は・・・ ダメ・・・
せっ・・・ ・・・に・・・ 見られちゃう・・・」
嫌々と首を横に振るカカシ。
そんな可愛い顔でダメだと言われたら、益々我慢できなくなっちゃうことをカカシは分からないのか・・・
「いいだろ・・・ ここは誰も来ないって、さっき言ってたじゃん」
「でも・・・ 桜が見てるし・・・
お弁当食べようよぉ・・・」
「はぁっ? そんなの俺は全然構わないし!
弁当は後で、ゆっくりな」
「だって・・・ 先生が・・・ ここの下に・・・ 」
ゲンマはカカシの言ってることが分からなかったが、もうそんなことどうでもよかった。
昨日の晩は、早く寝ようと言われて、途中で切り上げたようなもんだったから。
今はもうすでに、かなりヤバイ状態になっているのだ。
ゲンマは、待ちきれないとばかりに、カカシのシャツのボタンに手を掛けた。
その時・・・
びゅ〜っと強い風が吹き、桜の花びらがはらはらと舞い降りた。
そして・・・
次の瞬間・・・
ドドドドド〜っと大きな地鳴りがして、突然、ぐらぐらと地面が揺れた。
「きゃぁっ! 地震???」
思わず身体を起こして、顔を見合わせ、吹き出す二人。
「ぷっ・・・」
「四代目に見られたか・・・
あ〜あ、四代目ったら、空の上からでも、地面動かせるのかよ・・・
すっげぇな・・・」
( チッ・・・ 邪魔されたか・・・ )
「ゲンマったら、先生に怒られ〜た〜」
「ったく・・・ さすが四代目だな・・・
いったいどこで見てやがるんだよ」
「だから、さっき言ったでしょ!
先生、ここの下で眠ってるって!」 「えっ! そういう意味だったのかよ・・・
そりゃ、空から見るより、近くで見られてたんだな・・・」
「アハハハ〜」
二人は、お腹を抱えて大声で笑った。
( コラァァァァ〜 カカシィィィ〜 ゲンマァァァ〜 )
二人の耳にはそんな四代目の絶叫が聞こえてくるようだった。
四代目は、たとえその身が大地に還ろうとも、 魂が宇宙の果てを彷徨うとも、 カカシをいつも見守っている。
カカシは満開の桜を仰ぎ見て、そして、もう一度、愛おしそうに先生の眠る地面をそっと撫でた。
( 先生・・・ 先生はオレのここにずっと居てくれるから・・・
大丈夫だよ・・・ )
カカシは、目を閉じ両手を胸の前で合わせた。 「さっ、じゃぁ、弁当でも食うか!」
ゲンマは、パチリとウインクをして、カカシの頭をくしゃくしゃっと撫でた。
( 続きは帰ってからな・・・ )
もちろん、そのウインクの意味はカカシにも通じていると信じて、ゲンマはおにぎりを頬張った。
( カカシ・・・ 寂しい思いをさせてごめん・・・
もう、オレは何もしてやれないけど・・・
カカシのこと・・・ ずっとずっと見守ってるよ!
ゲンマ・・・ カカシのことをよろしく・・・
泣かせたら許さないよ〜! )
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2007/6/21