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Twilight Angel    8

   

(どどどどうなってしまったんだ、俺の身体は?)
 
それは、決して言葉では表せないような、理解し難い感覚だ。
まるで、その少年からオーラのようなものが発せられているような気がしたのだ。
こんなことは生まれて初めての経験だった。
 
(あああ挨拶をしなくては・・・)
と、頭の中では自分に命令しているのに、唇が強張って動かない。
少年は、そんなガブラスを不思議そうに見つめてから、隠れるようにシドの耳元で囁いた。
 
「あの人、パパのお客様?」
「まぁ、パパのというよりはね・・・」
 
シドはにっこり笑って、少年を下に降ろして、頭を優しく撫でた。
 
「ガブラス君。息子のファムランだ」

ガブラスにファムランを紹介した。
そして、今度はしゃがんでファムランの目線に合わせて話しかけた。
 
「ファムラン、今日からね、このお兄さんがファムランに色々なことを教えてくれるんだよ。
ガブラス君という名前だからね」

しかし、ファムランはシドの後ろに隠れてしまって、中々前に出てこようとしない。

「ほらほら、ちゃんとご挨拶しなさい」

ファムランはちらりとシドの後ろから顔を覗かせたが、またすぐに隠れてしまった。

「すまないね、人見知りが激しくてね。 まあ、慣れてくれば、大丈夫だと思うのだが」
 
ガブラスは、シドの横に移動して、ファムランに一歩近づいた。
そして、片膝を付き、胸に手を宛て、公式に挨拶するような姿勢をとった。
 
「ははははじめまして! ガガガガブラスと申します。
どうぞよろしくお願いします」
 
極度の緊張で呂律がまわらないガブラスは、どうにかこうにか自分の名前を告げることが精一杯だった。
そんなガブラスに、ファムランも余計にびっくりして、シドの後ろから出ようとしない。

「ははは〜 ガブラス君、そんなこと子どもにしなくていいんだよ。ファムランが驚くじゃないか」

そう言って、シドはガブラスの肩をぽんと叩いた。

「ファムラン、ガブラス君はね、ファムランの先生になってくれる人なんだからね」
「ぼくの先生?」
「そう、パパはね、お仕事がとっても忙しくなっちゃったから、もう今日みたいに早くは帰ってこられないんだよ。だから、パパの代わりに、ガブラス君がご本を読んでくれるからね」
 
シドはまだ隠れているファムランの手を握り、後ろから引っ張りだして、ゆっくりとガブラスの正面に向けさせた。
 
「さぁ、ファムラン、挨拶しなさい」
「ぼく、ファムランです」

そう言って、ファムランはぺこりと頭を下げた。
ガブラスも、もう一度、挨拶をした。

「ガブラスと言います。ファムラン君、よろしくね」

ガブラスが右手を差し出し握手を求めると、ファムランはぱっとシドの顔を見た。
シドが笑って頷くと、ファムランもおどおどしながらゆっくりと手を出してきた。
ガブラスが小さな手を握ると、ふにゃっとした子ども特有の柔らかさに驚いて思わずはっと目を丸くしてしまった。
不安げな顔で自分を見上げてくるファムランに、戸惑ってしまう。

「ははは〜 ファムラン君と何して遊ぼうかなって考えてたんだよ」

咄嗟にこの場を何とかしなくてはと言葉を発してしまったガブラス。
何でこんなにぎこちなくなってしまうのか、まったくわからない。
こんな状態で家庭教師が勤まるのだろうか、自分でも不安になってきた。
 
「ガブラス・・・先生が・・・ぼくと遊んでくれるの・・・?」
 
(ちょっ、先生なんて恥かしいな・・・)
 
「そうだよ! 一緒に遊ぼうね〜!」
「わ〜い! わ〜い!」
 
普段、一人遊びばかりしているファムランとっては一緒に遊ぼうという言葉が何よりも魅力的だったのだろう。
ファムランのつぶらな瞳がきらきらと輝いた。
そして、両手を万歳のように高く掲げ、微笑んだ。
 
(ななな何なんだ〜??? これって喜んでくれているのか?
 俺も万歳した方がいいのか?)
 
ガブラスは自分の腕を上げたものの、どうしていいのか分からずうろたえた。
ファムランはちょこんと小首を傾げて、何かを待っているようだ。
とりあえず笑顔!笑顔と頬を引きつらせながら、ガブラスも微笑み返した。
 
「だっこ・・・」
 
小さな小さな声で囁くようにファムランはそう告げた。
 
(何ぃぃぃ!? 抱っこだと! そうか、抱っこして欲しかったのか!)
 
ガブラスは、恐る恐るファムランを抱き上げた。
果物のような甘い香りが鼻をくすぐった。
 
「わ〜い! わ〜い! ガブラス先生はパパ゚よりおっきいね〜!」
「おお、ファムラン、良かったね」
「ねぇ、ガブラス先生、もっと、もっと高い高いして」

ガブラスは、今度はファムランを肩車してあげた。

「パパ! 見て! 見て! すご〜い!」
「本当だ、ファムランが一番高いね。さぁ、パパはお腹が空いちゃったよ。食事にしよう」
 
ガブラスがゆっくりとファムランを下に降ろすと、ファムランはさっとガブラスの手を握った。
 
「こっちだよ! ガブラス先生」
 
ガブラスはファムランに手を引かれ、一緒に歩きだした。
ガブラスの緊張もやっと収まり、ファムランの方から抱っこして欲しいと言われたことが、何だかとっても嬉しかった。 
ガブラスはほっと息を吐いた。
 
 

                                                           2008/8/30
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