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The fifth dream    

   

ラーサー様がアルケイディア帝国の皇帝に即位して、早5年になろうとする。
幼い面影はすっかり消え、今では精悍な顔付きで、皇帝としての執務も堂々とこなしている。
来月には、即位5周年記念の式典が盛大に挙行されることになっており、私は皇帝警備の最高責任者として、指揮を執っていた。
外国からの賓客を招いての式典では、最高ランクの警備態勢が敷かれる。
平和な世になったとはいえ、不測の事態に備えて、警備体制は万全のものでなくてはならないからだ。この1ヵ月の間、ほとんど休暇も取れずに、準備に奔走していた。

今朝は定時より早く九局の執務室に入った。パソコンを立ち上げ、ワークスケジュールを確認する。
今日のメインワークは、部下が作成した式典への出欠席のリストをダブルチェックし、最終的な出席者リストを完成させることだ。
式典にはイヴァリース中から、数千人の賓客の参加が予定されている。
国、爵位、役職、年齢等、細かなデータを分析して、式典や晩餐会の席順を決めなくてはならないから、その元になる重要なリストの作成は、ミスが許されないとても神経を使う仕事だ。
思わず、大きな溜息を吐いてしまった。
「今日は一日中、パソコンとにらめっこだな」
執務室の隣にあるミニキッチンでコーヒーを淹れてから、覚悟を決めてデスクに座った。
いつも戦闘の最前線で指揮を取っていた私にとって、デスクワークは苦痛以外の何物でもない。
剣を振り回していた頃をいくら懐かしく思っても、もう戦場はない。
剣を握る手で、キーボードを叩くしかないのだ。
只ひたすら、早く、早く。力よりもスピードを求めらている。
まずはリストのファイルを開き、一番上のアルケイディア帝国から探し始めた。

そう、愛しい人の名前を。

バ・・・バ・・・バ・・・バ・・・バ・・・

ない・・・・

もう一度、最初から見直してみる。

バ・・・バ・・・バ・・・バ・・・バ・・・

文字を辿った指先が、むなしく下がっていく。
やはり、その名を見つけることはできなかった。

「来ないのか・・・
『こんな堅苦しい式典なんか、出るもんか』
と、言うのだろうな、君は」
それから、懐かしい名前を発見して、思わず嬉しくなった。
アーシェ殿下、ヴァン、パンネロ、みんな出席してくれる。
「ったく、こんなところに(空賊)だなんて、堂々と書いてくるなんて。
ヴァンらしいと言えば、ヴァンらしいが、パンネロも苦労しているんじゃないのかな」

可愛らしいパンネロの顔を思い浮かべてみたが、最後に会ってから、4年近くは経っているのだから、もう可愛いというよりも、美しいという言葉が似合うような年ごろになっているのだろうな。
もちろん、アルシドやフランの懐かしい名前も発見した。
大きな闘いを共に乗り越えた同志と再び会えることが、楽しみでならない。
式典や晩餐会では、ゆっくり話す時間も取れないだろうから、公式行事が終わった後に、
一緒に食事をする時間を取ってもらえる様に、事前に連絡を入れておいた方がいいな。
そして、もしかしたら、公式行事でなければ、彼も来てくれるのではないかと・・・淡い期待を抱いて。

バルフレアと5年前に思いを通わせた後、私はノアの遺志を継ぐために、ジャッジ・マスターとして、帝国に仕える道を選んだ。
しかし、それは、彼を傷つけることになってしまったのかもしれない。
私の選んだことに対しては何も言わずに、
「今はお互いの進むべき道を歩む時だ」と言って、彼もまた彼なりの道を歩み始めた。
1年に2〜3度位は、ふらっと顔を見せに戻って来てはくれるものの、それ以外は、メールすら数ケ月に1度だ。
寂しいとう思いも正直あるが、それ以上に、確かな信頼感で結ばれているという確信もあるから、
たとえ年に1度でも、「帰ってくるところ」が、「私のところ」であることを、
彼を信じて、今は為すべき目の前の仕事に挑むしかない。

細かい文字ばかりを見続けて、目が疲れてきた。
引き出しから目薬を出して、2滴程垂らして、しばらく目を瞑っていた。
溢れた雫を拭き取ろうとして、ティッシュを取ろうとしたその時、ふわりと風が額にあたった。

「何泣いてんだよ?
そんなにオレが帰って来たのが嬉しいってか?
歳とると涙もろくなるんだってな」
柔らかなティッシュで溢れた雫を優しく拭き取られた。

「バ・・・バ・・・ル?」

いつも音もなく突然現れる愛しい人。
言葉をかける前に唇を塞がれてしまった。

「相変わらず忙しそうだな。コキ使われてんのか? あのクソガキに。
オレから言ってやろうか? オレのダーリンをこんな目に合わせて、いい度胸してるなって」
「私の選んだ道だからな」
「もう、十分努めは果たしただろ? そろそろご勇退してもいいんじゃないのか?」
「まだ、そんな歳ではないぞ」
「それにしても食えない奴だよ、ったく。何考えてるんだか。
今度はこのオレ様まで、コキ使おうってんだぜ。いったい何様なんだ。あの皇帝様はよ」
「バルフレア・・・?」

バルフレアは、ポケットからくしゃくしゃになった紙切れを、ポイッと私に投げてよこした。
私はそれを受け取って、はっとなった。
見覚えがあるその紙は、皇帝の公式文書用のものだ。
心臓の鼓動が急に早くなってきた。
丸められたその紙を丁寧に広げてみると・・・
それは、やはり、帝国の公式辞令だった。
この目に飛び込んできた文字に驚き、すぐには声もあげることができなかった。

「はあっ? バ・・・バル・・・え? なにっーー!!」

バルフレアは窓に視線を移し、私を見ようとはしなかった。
大きく息を吸って、吐いて。
呼吸を整えてから、もう一度、その文字を追った。
見間違いではない。
確かに、書いてある。

「ファムラン・ミド・ブナンザ殿
 3月16日付けで、ドラクロア研究所所長を命じます。
               ラーサー・ファリナス・ソリドール」

信じられない。幻を見ているようだ。
だが、何度瞬きをしても、その文字は確かに見える。
私はバルフレアの正面にまわった。

「き、君が、これを・・・? 本当に・・・・受けたのか?」
「そんなに驚くことないじゃん、ひでえな。
オレにはそんな大任務まらないとでも思ってんの?」

ラーサー様からは、一言も聞かされていなかった。
もしかしたら、私を驚かせようとの計らいだったのかもしれないが。
「なんだか知らないうちに、あれよ、あれよと決まってな。
あいつら、やり方が汚ねえんだ。オレが絶対断れないような隠し玉を持っていやがったのさ」
「隠し玉?」
「そ、あのクソ親父の遺言だとよ。信じられねーよ」
「そんなものが残っていたのか?」
「もちろん、公式文書なんかじゃねえけどよ。
アイツの後を継いだ所長は、一番弟子だった奴だ。
散々、親父の夢だか、妄想だかを聞かされ続けて。
親父の夢を果たすのが、自分の使命だとか何とかでさ、そして、それがあそこの奴等みんながそうだってんだから、ったく、とんでもないクソ親父だぜ。
さすがのオレも何千人に頭下げられて、泣かれちゃあ、な、逃げられなかったんだよ」
「そうか、さすがお父上だ、偉大なお方だったのだな」
「いい迷惑だ。こんなんで、オレ様の人生がさ。
あー、考えただけで、ムカっ腹が立ったきた」
「バルフレア・・・君は・・・」
言葉とは裏腹にどこか嬉しそうな顔に見えるのは、決して錯覚ではないだろう。

「あ、そうだ、オレ、ブナンザの屋敷に帰るから。
あそこからの方がドラクロアは近いし、通いやすい。
ねぇ、アンタも一緒に住まない?」
「はぁっーー!? 一緒にだと?」
「そ、だって、一人じゃ寂しいじゃん」
「そんな・・・そんなことが・・・・」
「これって、一応プロポーズのつもりなんだけど?
部屋代はいらねえからさ。その代り、オレの言うこと聞け」
「プ、プップロポーズだと!? ちょっ、ちょっと、待ってくれ。何だか、その、まだ信じられない・・・」
「ほっぺた引っ張ってやろうか?」

バルフレアが私の頬をむぎゅっと抓ってから、茫然と立ち尽くす私にそっと唇を重ねてきた。

「何だよ、返事とか迷うわけ? 考えさせてくださいとか言うのか? 今更」
「いや・・・その・・・夢を見ているみたいで・・・」
「ちょっとつき合えよ」

バルフレアは私の手を引き、テラスに止めてあったエアバイクに飛び乗った。
ひとっ飛びで、あっという間に、ブナンザ邸の広い庭に着地した。
庭の端の大きな木に歩み寄ると、根元にスコップが置いてあった。

「さっき来て、本当は一人で掘り出そうかと思ったんだけどな、
あんたにも立ち会ってもらおうかと思って」
バルフレアはそう言いながら、悪戯っ子のように目を輝かせて、小さな木のプレートが刺さっていた地面を掘り出し始めた。
50cm程掘ったら、中からビニールシートに包まれた綺麗な缶が出て来た。

「これ、オレが7歳の時に埋めたんだ。
親父が20年後に開けようって。タイムカプセルってやつ。
20年後の自分はこうなりたいって夢を5つ書けって言われてさ。
20年なんてまだずっとずっと先だと思ってたのにな」
バルフレアは缶の中からきちんと折りたたまれた古びた紙を取り出し、私に見せてくれた。

「ドラクロアに入る
パパみたいなエトーリアになる
パパといっしょにひくうていをつくる
パパといっしょにつくったひくうていのパイロットになる
ママみたいな人とけっこんして、パパみたいなパパになる」

「笑えるだろ、どんだけパパ命なガキだったんだ。
シュトラールを飛ばせるようになって、1つだけでも叶ったから、それで満足してた。
今度ドラクロアに入って、エトーリアになって、飛空艇も作るんだから、
あとは5番目の夢だけで、全部叶ったことになるんだな。
ま、あんたはママみたいってわけじゃねえけど」

バルフレアはくすっと笑って、私の鼻の頭をぴこんと弾いた。
「バ、バルフレア・・・私なんかで、君の夢を叶えられるのか?」
「オレの欲しい言葉はそんなんじゃない」
「すまなかった。そうだな、バルフレア。
愛している。ずっと一緒にいてくれ」
「オレの傍から離れるな」
「もちろんだ」
「あ、それから、あのクソガキに言っておけ。
ドラクロアに予算をがっつり回せってな。
この5年で、試してみたい事がたくさんできたんだ」
「引き受けよう!」
「親父の夢も、オレが継いでやるんだ。
あんな半端なのじゃなくて、本当の夢をな」


誇らしげにそう言ったバルフレアの瞳から溢れた、ミストのように輝く雫に、
今度は私が口づけた。



 
 

                                                           2011/5/1
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                          FF12発売5周年おめでとうございます。
                          「5」をテーマにバシュバルのお話を書いてみました。
                          誤字脱字日本語おかしいところがたくさんあるかと思いますがスルーしてくださいね〜!お祭りなので!
                           FF12も、バルフレアもずっとずっとずぅ〜っと大好きで〜す!
                          そして、記念企画にご賛同くださった皆様ありがとうございます。
                          ステキなサイトを作ってくださったぐれなな様もありがとう!
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