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 声   1
   

突然、バ〜ンという轟音がして、ゲンマはベッドから飛び起きた。
さらに、連続で爆音が響き渡り、窓の外を見ると、あちらこちらから、煙が昇っている。
長期任務が明けたばかりで非番のゲンマは、自宅で休養中だった。
何が爆発したのだろうか?
ゲンマは急いで忍服に着替え、火影公邸へと向かおうと、表に飛び出した。
逃げ惑うお年寄りや、幼い子ども達。
悲鳴が聞こえる。誘導班はどうした?何をやっているんだ?
ゲンマは、転んでいる子どもを起こした。
泣き叫んでいるが、怪我はしていないようだ。
親とはぐれてしまったのだろうか。
緊急時には戦闘に参加できない者達は、火影岩の下に隠されている非難所で待機することになっている。
ゲンマは、火影岩を指差して、
「あそこに逃げれば、お母さんと合流できる。
走れ!」
と、背中を押した。

「暁来襲! 非常事態警報発令!!」

木ノ葉通りに出ると、前から数人の中忍が、叫びながら駆けて来た。

「本当に暁が木ノ葉に攻めて来たのか?」

アスマの死後、暁対策は里にとっては最重要課題で、いつ暁が攻め込んできても、すぐに応戦できるように、念密な作戦が立てられていた。
しかし、まだ、それを実践で訓練をするまでの時間的余裕はなかったのだ。

非常事態警報が発令されているということは、すでに敵の直接攻撃を受けている状態だ。
忍達は、下忍と中忍は住民の避難誘導班、特上以上が敵への攻撃班とに、あらかじめ決められていて、どんな状況下でも、自分の担当の持ち場に就くことになっている。
ゲンマはライドウとアオバと組んで、大門前の配置だった。
すぐに、向きを変え大門へと向かう。
途中で、大きな口寄せ動物が暴れているのが見えた。
情報がまだ皆に伝わっていないのだろうかと、心配になってきた。
とにかく、一刻でも早く、自分も持ち場に就かなくては。

ドッカ〜ン!!!

突然、目の前が真っ暗になった。

「痛ってぇ…」

身体に覆いかぶさった木の板を取り除き、やっとのことで瓦礫の中から這い出した。
ゲンマは辺りを見回し、余りの惨状に声も出てこなかった。

「何だこりゃぁ??」

周りの建物がことごとく吹き飛ばされて、木ノ葉の里が壊滅している。
身体を動かしてみると、多少の擦り傷はあるものの、大きな怪我はしていないようだ。
ふと足元を見ると、蛞蝓がすすすっと寄って来た。

「これは確か、綱手様のカツユ様か?」

カツユは、するするとゲンマの身体を登り肩に乗った。
「ゲンマさんは、大丈夫のようですね?私達は、怪我をしている人の治療をすると共に、情報の伝達のために、すべての忍に付くよう命じられています。
たった今、カカシさんがチョウジ君に託した情報で、暁の敵の一人の使う術についての詳細がわかりました。
敵には物理攻撃は効かないようです。
引力・斥力の術を使い、こちらの攻撃のすべてをはじく。
術と術との間に5秒のインターバルがあり…」
「カカシが暁と戦ったのですか?で、カカシは大丈夫でしょうか?」
ゲンマはこの状態では、今更大門を守る必要もなくなったと判断した。
敵はすでに、里内部をこれだけ破壊したのだから。
「カカシさんの状態はわかりかねます。私達の誰かがカカシさんに付けばよいのですが…」
「わかったら、すぐに教えてください」
相手の術を見極めるということは、それなりの戦闘があったということだ。
そして、情報の伝達をチョウジに託したということは、カカシは動けないのではないか。
カカシのことだ、無茶をしたに違いないと、ゲンマは愛しい恋人が心配になる。
綱手様のところに行けば、居場所もわかるかもしれない。
どちらにしても、ここにいたって、一人でどう戦えばよいのか?
というより、今は負傷者の救出の方が先ではないのか。
ゲンマは辺りを見回して、助けを呼ぶ声のする方へと走り寄り、瓦礫の下に埋もれている人を救出しながら、火影公邸の方向を目指した。

しばらくすると、肩に乗ったカツユが、
「あっ!」と叫んだ。
「どうしました?」
「たった今、情報が入りました。私の仲間がカカシさんに付くことができたようです。カカシさんは…」
一瞬、カツユは、言葉を詰まらせた。
「カカシが?」
「その…チャクラ切れで、大変危険な状態です。
今、私の仲間がチャクラを注入し始めましたが…」
「カカシはどこにいるのか、教えてもらえます?」
「交信してみます」

(それにしても、命令がまったくこねえじゃないか。一体、どうなっちまったのか…)

ゲンマは綿密に立てられていたと思われていた戦闘シュミレーションが、いざと言う時に、何の役にも立たないことに呆然とした。
いきなり、数分の攻撃でこんな壊滅状態に陥るとは、誰もが想定外のことだったのだ。

「わかりました。木ノ葉デパートの近くです」
ゲンマは、全速力で飛んで行った。
暁と相当派手な戦闘があったのだろう、その辺りは、今まで通って来たところよりも、遥かに酷い有様だった。
「カカシ!カカシ!カカシー!!」
ゲンマは、大きな声で叫びながら、走り回った。
微かにうめき声があがっているところから、瓦礫を取り除いてみたが、カカシではなかった。
身体を引っ張り上げて、「大丈夫だ、カツユ様が治療してくれるからな」と声をかけ、また走り出す。
四方八方から、カツユがたくさん集まってきている。

しばらく走ると、こんもりと身体が横たわっているのが見えた。
近づいてみると、それはチョウザだった。
「チョウザさん!チョウザさん!」
声を掛けてみたが、反応はない。
胸に耳を当てると、微かに心臓は動いているようだ。
ゲンマが肩のカツユに、「仲間を呼んでください」と頼んだ。
緊急時は、同じ一族同士で班が組まれていた。
カカシはチョウジに伝言を託したという。
チョウザがいたということは、カカシも絶対この辺りにいるはずだ。
ゲンマは、その場に立ち、耳を澄まし、目を凝らし、カカシの気配を探った。

「カカシ!?」

そこから、50メートル程先に、項垂れた銀色の髪が見えたのだ。
間違いない、あの髪はカカシだ!

ゲンマは、その方向に一気に飛んだ。
そこには、肩にちょこんとカツユを乗せて、頭から血を流し、下半身は瓦礫に埋もれたまま動かないカカシに姿が。

「カカシ!カカシ!カカシィーーー!」

返事はない。
周りの瓦礫を急いで取り除き、身体を抱き上げて、そっと横たえた。
頭部の出血が酷い。太腿や膝の切傷からもかなり出血している。
ゲンマはカカシを抱き上げ、チョウザの元まで運んだ。
すでに、かなり大きめのカツユが数匹集まっていて、チョウザの身体を治療していた。
カカシを隣に寝かせると、するするとカカシにも張り付き、チャクラを流し始めた。
大きいカツユの方が、チャクラ量も多いのだろう。
これこそが、「伝説の三忍・蛞蝓の綱手」の医療忍術なのだと、ゲンマは改めてそのレベルの高さに感服した。
ゲンマは、冷たくなったカカシの手を握り、何度も何度も祈るように名前を呼んだ。

しばらくすると、チョウジが戻って来た。
医療班も駆けつけて、これから、病院へ搬送してくれるという。
ゲンマは、ほっと息をついた。
病院へ連れて行ってもらえれば、もう安心だ。
このまま、カカシに付いて行きたいが、行ったところで、自分が何かできるわけではない。
今は暁を見つけ出し、これ以上、被害を出さないように、何としても、暁の攻撃を食い止めなければならない。
しかし、里一番の業師と言われているカカシでさえ、このような状態になってしまうのだから、暁のレベルは相当高い。
綱手様は治療にチャクラを回している。
そして、自来也様はもういないのだ。
悪い方へ悪い方へと、考えがちな思考をゲンマは一瞬で断ち切った。

今は、戦うべき時なのだ。
木ノ葉の里のために。

 

                                                                               2009/7/17

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