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師匠の日   1
   

サクモを亡くして先生の元で一緒に暮らすようになって、カカシは初めての五月を迎えていた。
夕食後、先生はデザートのプリンを冷蔵庫から二つ取り出した。
 
「はい、カカシの」
 
先生はカカシの前にプリンを置いたが、カカシは手を出さなかった。
 
「えっ? カカシ、プリン嫌い?」
「あぁ・・・ えっと・・・ そういう訳じゃないけど・・・ 
もう、お腹いっぱいで・・・  先生欲しいならあげるよ」
「そっか、じゃぁしまっておくから、明日食べなね〜 とっても美味しいんだよ!
ここのとろとろプ ・ リ ・ ン
って、昨日の甘栗甘の一口羊羹もまだ食べてないし・・・
もしかして、カカシ甘いもの苦手?」
「ん・・・ あぁ・・・ あの・・・ 先生食べていいよ・・・ 食後はちょっとキツイかも」
 
先生が自分のために買ってくれるのは嬉しいのだが、カカシは甘いものはあまり好きではなかった。
折角買って来てくれたものを嫌いとも言えずに、我慢して食べてたこともあったが、流石に食後に羊羹は無理だろう。
二〜三日、冷蔵庫にそのまま残ってると、結局は先生が食べちゃうことになってしまう。
そんなことを何度も繰り返してるのに、甘いのが苦手と気がつかないのか、まぁ、先生は自分が大の甘党だから、カカシのためにと言ながら、結局は自分のために買っているようなものなのだ。  
 
「それからね、今度の日曜日は、いのいちのところにお手伝いに行くからさ、
カカシも一緒に行こうね!」
「お手伝い?」
「そっ、いのいちの家はお花屋さんなんだよ!
オレ等の同期は毎年、母の日と父の日には、手伝いに行ってるんだ。
バイト代はお断りしてるんだけどね、御礼に綺麗なお花をたくさん貰えるからさ」
「オレにも出来るかな・・・」
 
美味しそうにプリンを食べる先生を不安げに見つめるカカシ。
 
「大丈夫! カカシは可愛いから、お店の前に立って呼び込みすれば、きっとお客さんがいっぱい集まって来ちゃうよ〜」
「そっかな・・・」 
「オレもカカシも、もう両親亡くなっちゃたからね・・・
御礼に貰ったお花を持って一緒にお墓参りに行こうよ。
オレも毎年そうしてたし」
「うん、分かった。 お花屋さん手伝うなんて初めて。
オレも頑張るね」 
「ねぇ、カカシは、母の日と父の日って何かプレゼントしてた?」
「えっと・・・ そういえば・・・
去年は、父さんに肩たたき券をあげたかな・・・」
「へぇ〜 肩たたき券か! ん! いいかも、それ!」 
 
先生は何かを思いついたかのように、にんまりと笑った。
 
「母さんが生きてた頃はね、母の日には父さんとオレでご馳走いっぱい作ってあげたよ!
母の日くらいは、ゆっくりしてもらおうって、母さんの好きなお赤飯とか炊いてね」
 
カカシは、家族が三人揃っていた遠い日を思い出し、懐かしそうに言った。
 
「いいなぁ・・・ オレもお赤飯大好き!
えっ、じゃぁ、もしかしてカカシってお赤飯炊けるの?」
「ううん。 父さんの見てただけで、一人では炊いたことない。
母さんは、誰かにお祝い事があると炊いてあげてたみたいで、
父さんにもお赤飯くらい炊けなくっちゃって教えたんだって。
豆を煮るだけだから、簡単だって言ってたような・・・」
「ねぇ、カカシ、もし失敗してもちゃんと全部食べるからさ、オレ、ある日に食べてもらいたい人がいるんだ。
それまでに炊けるよう練習してくれる? お願い!」
 
先生は両手を合わせて、カカシに頭を下げてお願いした。
 
「うん、いいよ。 いつまでに?」
「来週の十五日に」
「えぇ〜 あと一週間しかないよ〜」
「毎日お赤飯でもいいからさ!」 
「何かのお祝い?」
「うん、カカシにも教えるつもりだったし、一緒に連れて行く予定だったから、丁度よかった。
実はね、五月十五日はね、『師匠の日』なんだよ。
海の向こうの遠い遠い異国ではね、この日に師匠に感謝の思いを込めて、お花とか贈り物をするんだ。
下忍になった頃、何かの本で知ってね、オレもその時はもう両親いなかったし。
父の日や母の日なんて、贈る人はいないけど、師匠の日なら贈れる人はいるって、嬉しくなっちゃってね。
それから、毎年、自来也先生にお花とプレゼントあげてたんだ。
今年は、まだ何にしようか決めてなかったんだけど、今カカシの話聞いたら、お赤飯っていいかもって思ってね!」
 
嬉しそうに、瞳をキラキラ輝かせて話す先生の顔を見てたら、カカシもとっても嬉しくなってきて。
今年は父の日も、もう何も出来ないと寂しい思いでいたので、先生の話を聞いて、
自分も何か先生に贈り物をしたいと思った。
 
「先生、じゃぁ、オレが自来也先生と先生にお赤飯を炊いてプレゼントするから。
ねぇ、いいでしょ?
だって、オレの師匠は先生でしょ!
オレも先生に何か贈り物したいよ〜!」
「えっ、カカシがオレに? 
うわぁ〜 嬉しいな!
本当のこと言うとね、師匠の日の事をカカシに話そうかどうか迷ってたんだ。 
だって、話せばカカシもオレに何かって思うだろうから。
欲しい欲しいって言ってるみたいで、悪いかなって遠慮もあったんだけど。
でも、カカシもオレも、父の日や母の日に贈る人いないから、だから一緒に『師匠の日』を大事にしていきたいって気持ちも分かってもらいたかったんだよ。
別にカカシから何か欲しいって訳じゃないからね」
 
一生懸命、言い訳するように説明してくれた先生。
でも、カカシには、先生の気持ちが十分理解出来た。
自来也先生に対する深い感謝の思い、たとえ両親がいなくても、師匠がいる喜び。
カカシには、そんな先生の思いがしっかりと伝わって、胸が熱くなった。
 
「先生、ありがとう。
オレ、、これから、先生に何プレゼントするか考えようっと。
楽しみにしててね〜!」
 
カカシはにっこり微笑んだ。
 

                                                                                 2007/7/12

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