師匠の日 完
先生がにこにこ顔で、包装紙を開けると、それは甘栗甘の最高級の栗羊羹だった。
「うわぁ〜 オレの大好物! しかも、これ、一番高いやつだよ!
買いたくっても、いつも眺めているいだけで中々買えないんだよ。
カカシのお小遣いが・・・ カカシ、悪かったね・・・」
先生は嬉しいのに申し訳なさそうな顔でカカシを見つめた。
「いいんだよ、先生。 一年に一度の師匠の日だもの!
オレ、小遣いなんか、他に使い道ないし」
カカシはにっこり笑って、先生の手元を見ていた。
「ん? 何だろう・・・?」
小さな封筒の中に、<ご馳走券>と書かれたカードが数枚入っていた。
「えぇぇっ〜 ごっ、ご馳走券!?」
目を丸くして、大きな声をあげた先生。
「そぅ! 先生の好きなもの何でも作ってあげるよ〜!」
「ぎゃぁぁ〜 マジで? マジで? 嬉しい〜 カカシ〜 ありがとう!!!」
先生は、カカシを思わずぎゅうっと抱きしめた。
「ほほぉ 良い物貰ったのぉ。
ワシには付いてなかったし・・・」
自来也が、ちょっと拗ねた顔をすると、カカシは慌てて、
「自来也先生、すっ、すみません・・・
あのぉ・・・ じゃぁ・・・ ご馳走作った時は自来也先生も必ずご招待しますから!」
カカシは、顔を赤くし、言葉に詰まりながらもそう答えた。
可愛いカカシの反応に自来也も思わず笑みが零れる。
「ハハハ〜 カカシも苦労するな〜
この馬鹿は大食いのくせに、自分じゃ何一つ作れないからなぁ。 忍術は、教えたら何でもすぐマスターするのに、料理の方はさっぱりダメだった。
こればっかりは、もうどうにもならんかった」
「もう、自来也先生ったら!」
先生は、ぷっくりほっぺを膨らませて拗ねている。
それから、和やかに会話が弾み、カカシが作った美味しい料理のいっぱい詰まった三段のお重もあっと言う間に空っぽになった。
お酒もどんどん進み、一升瓶もいつの間にか空っぽだ。
ふと見ると、カカシは、眠くなったのか、船を漕いでうとうとしている。
自来也は、目を先生の方に向けて、顎をくいっと上げた。
「おい、カカシを」
「ん・・・ そうだね・・・ 布団敷いてくる」
「お前ももう相当飲んだだろ、一緒に寝てやれよ」
「えぇ〜 そんなぁ〜 まだ飲みたいし・・・
カカシ一人で大丈夫だよぉ〜」
「目覚まして一人じゃ可哀想だろ。
いつもと違うところで寝ているんだし」
先生は、ほんのりピンク色に染まった顔で、自来也の傍にすすっと擦り寄った。
そして、意味ありげな目つきで、自来也の耳元で小さな声で囁いた。
「カカシ、寝かせたら自来也先生の部屋に行くからね!」
「ったく・・・」
「だって、久しぶりのお泊りなんだよぉ〜」
「だったら一人で来い」
自来也は「アフォ」と言って、先生の頭を思いっきりパシリと叩いた。
先生は、「いってぇ〜」と言いながら、渋々立ち上がり、客間に行って布団を二組敷いてきた。
そして、カカシをひょいと抱き上げて、客間に運び、そっと布団に寝かせた。
完全に寝入るまでは一緒にいてあげようと先生も隣に横になった。
カカシがするっと猫のように先生の元に入り込んできた。
まだあどけない寝顔でスースーと寝息を立てている姿がたまらなく可愛い。
髪をそっと撫でてあげると、顔を摺り寄せてきた。
「カカシ・・・ ありがとうね。 オレ、カカシのプレゼントとっても嬉しかったよ!
自来也先生も喜んでくれたしね」
「う・・・ ん・・・ 先生・・・?」
目は開けていないが、折角寝たのに起こしては可哀想と先生はカカシの背中を優しくゆっくりポンポンと叩きながら寝かしつけようとした。
「先生・・・
オレ・・・ 一人で寝れるから・・・
大丈夫だから・・・ 自来也先生と・・・
ゆっくりお話したいんでしょ・・・
いいよ・・・ 行っても・・・」
寝ぼけているのか、起きているのか分からなかったが、カカシは目を瞑ったまま、小さな声で先生にそう言った。
「へ? え? カカシ? 起きてるの?」
しかし返事はなく、スースーと寝息が聞こえるだけだ。
「カカシったら・・・ 先生一緒に寝てあげるからね・・・」
いつになっても戻って来ない愛弟子・・・
自来也は、立ち上がり、客間に向った。
襖をそっと開けると・・・
「ったく、あの馬鹿が・・・」
可愛い弟子が大の字になって、ぐうぐう大きな鼾をかいて寝ている。
しかも、寝相の悪い弟子の足が小さい孫弟子のお腹の上にどんと乗っかているではないか。
思わずぷっと吹き出して、そっと足を下ろして、布団を掛けてあげる。
「今日はありがとうな。
お前もちっとは師匠らしくなったかと思えば、これじゃぁな・・・
全く、面倒見られてるのはお前の方じゃねぇか・・・ のぉ・・・
御礼は、又今度だな・・・」
自来也は、足音を立てずに、そっと書斎へ戻った。
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2007/8/3