師匠の日 3
「こんばんは〜! お邪魔しま〜す!」
引き戸をがらっと開けて、家にあがった。
去年まで一緒に住んでいたので勝手は分かっている。
自来也は書斎で書き物をしているようだ。
先生とカカシは自来也の前に二人並んで正座した。
「おぉ、カカシも来てくれたか」
「こんにちは」
と、ぺこりと頭をさげるカカシの髪を自来也はくしゃくしゃと掻き回した。
「今年は、オレとカカシと二人で『師匠の日』に、プレゼントを贈るからね!」
とても綺麗なピンクの薔薇のアレンジと一升瓶と、そして、リュックから小さな箱を取り出して自来也の前に並べた。
「自来也先生に感謝をこめて、ハイ、プレゼント!」
先生は嬉しそうににっこり笑って手渡した。
「自来也先生、こらはオレからです」
カカシも、重箱の風呂敷を解いて前に差し出した。
「ほほぉ これはこれは今年は沢山あるのぉ」
まずはアレンジの甘い薔薇の香りを楽しみ横に置いた。
次に、一升瓶を取って和紙のラッピングを剥がし、思わずおぉと嬉しい声をあげた。
もちろん自来他の一番好きな銘柄だ。
そして、綺麗な絹に包まれた桐の箱をそっと開けると、それは、小筆だった。
「おまえもちっとはワシの好みが分かるようになってきたかのぉ」
自来也は本当に嬉しそうに小筆を手にとり眺めていた。
そして、箱の中に、、まだ何か小さなカードのような物が二〜三枚入っているのに気がついた。
「ん? これは何じゃ?」
自来也が手に取って読んでみると、
<マッサージ券>
裏には、<肩がこってる時はいつでもどうぞ!>
と汚い字で書いてあった。
「マッサージ券?」
「そう!自来也先生、いつも長い時間書き物してるからさ、肩こってるでしょ!
いつでもお揉みしますよ〜」
そう言って、先生はウインクして、少し怪しげな表情で肩を揉む仕草をした。
「うぉふぉん」
と、自来也は咳払いをして、先生の方はあえて見ないでカカシの方へ目線を移した。
重箱の蓋を開けると、一段目と二段目には色とりどりの豪華なおかずがぎっちり詰められていた。
そして、三段目には、つやつや光るお赤飯がいっぱい詰まっていた。
「おぉぉ、これはこれは美味そうじゃな。
こんな立派な料理、どこぞの料亭にでも注文したのか?
まるでお節料理みたいに豪華じゃのぉ」
「自来也先生、何言ってるの! さっきカカシからって言ったでしょ。
これ全部カカシが作ったんだよ!」
「えっ? これをカカシ一人でか?
たいしたもんだ。 サクモも料理の腕は中々のもんじゃったが、そこまで受け継いだとはな。
よし、早速頂こう、向こうに行くか」 三人は居間に移動した。
先生は、お皿とお箸を取ってきて、得意げに一つ一つの料理を自慢している。
カカシは昨日の晩から、煮物を煮たり、下ごしらえをして、今日の任務が終わってから、仕上げをした。
先生は自分では何もしていないくせに、味見だけはしっかりしていたから、味の方は自信満々だ。
「おまえも、少し飲むか」
先生は嬉しそうにお猪口をもう一つ持って来た。
自来也はプレゼントに貰ったお酒を早速開けて、お酒を注ぎあった。
「カカシはウーロン茶ね」
「じゃぁ、あらためまして、師匠の日に!
自来也先生に感謝を込めて乾杯!」 「乾杯!」
三人はお猪口とカカシのグラスをカチンと合わせた。
「いただき〜ます!」
カカシはちょっと心配そうな顔で、二人のお茶碗にお赤飯をよそってあげた。
先生は凄い勢いでむしゃむしゃと口に入れている。
「美味しいね〜! 自来也先生!」
自来也も一口食べて思わずおぉと唸った。
「うんうん、これは美味いぞカカシ。
こんな美味い赤飯食べたことないのぉ」
二人の美味しそうに食べる顔を見て、カカシはほっと胸を撫で下ろした。
「二人共ありがとう。
カカシ、コイツは、大食いでアフォでどうしようもないヤツだが、ワシですら知らなかった『師匠の日』の話をどこからか聞きつけて、こうして、毎年、何か贈り物をしてくれるんじゃ。
少し手のかかるヤツだが、これからも宜しく頼むな」
カカシは、伝説の三忍と言われている偉大な自来也先生が、自分のような子どもに頭を下げたのでびっくりした。
「そっ そんな・・・
オレだって、先生にはとっても感謝しています。
いろんな事教えてくれるし・・・
オレ・・・ もし先生がいなかったら・・・」
カカシは、急に下を向いてしまった。
サクモが亡くなって、いったいこれからどうやって生きていこうかと、絶望のどん底にいたカカシに、真っ先に手を差し伸べてくれたのは先生だったから。
自分の気持ちを上手く言葉に言い表せなかったカカシだが、感謝しても感謝しつくせないほど、先生にはありがたいと思っている。
思わず、涙が溢れそうになったのを一生懸命堪えた。
カカシは少し呼吸を整えてから、小さな袋から先生へのプレゼントを取り出した。
「自来也先生、オレも先生へのプレゼント用意してきたんだけど、ここであげてもいいですか?」
「おぉ、偉いのぉ、もちろんじゃ。
ワシもアイツの喜ぶ顔が見たいし」
「はい、先生、これ、オレからのプレゼントです。
先生、いつもありがとう」
カカシは短い言葉ではあったが、心を込めて言った。
もちろん、先生にもその思いは十分伝わった。
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2007/7/16