最後の願い 1
サスケが大蛇丸をやったとの情報が自来也様から伝えられた。
新たな力を得て、強くなったんだろうな・・・サスケ・・・
もう、後はイタチとの対決に向って動き出したに違いない。
もしも、あの時、イタチの真実をお前に話していたら・・・
お前が木ノ葉を抜けることはなかっただろうに。
すまなかったな・・・サスケ・・・
あの時はオレもイタチの真実を知らされて、まだ少ししか時間が経ってなかったから、動揺が残っていたんだ。
まさか、お前がそこまで思いつめてるとは。 そして、力を求めて里を抜けるなんて、思ってもいなかったよ。
本当にオレが甘かった。
綱手様が五代目に就任した時、ホムラ様とコハル様から伝えられた里の極秘事項のいくつかの内の一つがイタチのうちは一族虐殺のことだった。綱手様の判断でそれが自来也様とサスケを担当しているオレにも伝えられたんだ。
イタチがうちは一族を虐殺したのが木ノ葉の里から命ぜられた極秘任務だったと聞かされた時は、あまりの衝撃でしばらく何も手につかなかった。
イタチはあの時まだたった十三歳だったんだよ。
あの歳であんなに壮絶な任務を・・・ しかもたった一人で・・・
自らの両親をも手にかけ、抜け忍という汚名を背負って生きていくことを選ぶしかなかったなんて。
イタチがどんな思いで任務を全うしたのかと思うと胸が張り裂けそうだった。
自来也様はいくらあのイタチでも一人でうちはを全滅させることは不可能だと、協力者がいたのではないかと疑っていたけど。
オレはあの晩の前日のことを思い出していた。 あの当時、オレとイタチは暗部でツーマンセルを組んでいた。
それまでの木ノ葉隠れとうちは一族の関係を考えると、イタチの暗部入隊は異例のことだった。
オレがイタチと組まされていたのは、もちろん監視の意味も含まれていた。
聡明なイタチは何も言わずとも、オレの役目を理解していたから、オレの前で感情を表すようなヘマはしないし、どんな厳しい任務も文句一つ言わず淡々とこなしていた。
最初は余計なことは何も話さなかったイタチも、しばらくするとオレに慣れてきたのか、他愛もない話をするようになったし、時折笑顔を見せるようにもなってきた。
まっ、そうなるまでにはオレもかなり頑張ったからね。
里の上層部が心配するようなことは微塵も感じられなかった。
だけど、いつからだろう・・・
イタチがオレを見つめる目に温度を感じるようになったのは。
オレは何も気付いていない振りをしていたけど、明らかにあの視線は意味のあるものに変化していった。
あの眼差しでじっと見つめられると、吸い込まれそうで怖かった。
つい、目をそらしてしまうオレをイタチはいつも悲しそうな顔をして、笑っていた。
そして、時は流れ、“あの日”の前日・・・
いつものように任務を終えて里へ帰還途中、木ノ葉の森を走っていた時、突然イタチが後ろからオレを呼び止めた。
「カカシさん・・・」
「ん?」
足を止め、振り返ると、イタチが神妙な顔で見つめてくる。 「あの・・・実は・・・」
イタチは言いにくそうに口ごもった。 「な〜に?」 「明日から・・・里外へ長期任務に出ることになりました」
「えぇっ?そうなの?」
暗部任務は、全てが極秘扱いで、いつどんな任務に就くかなんて、もちろん他人には言うことは出来ない。 カカシはおかしいなと首を傾げた。
オレはまだ明日の任務については何も聞かされていない。
ということは、別の任務か?
まさかそんなことなないだろう・・・
それとも、もうオレの監視は必要ないとの判断が出て、ツーマンセルの解消か?
いや、だったらイタチよりかオレの方に先に連絡があるだろうに・・・
一瞬の間に、頭の中であらゆるパターンを想定してみたが、どれもピンとこなかった。
「そっ、そーなんだ。
ってことは、オレと別の任務みたいだネ。長期ってどのくらい?遠いの?」
答えるはずはないと思ってみても、つい言葉が出てしまった。 「はい。国外ですし・・・おそらく数年は・・・
今までカカシさんには本当にお世話になりました。
何てお礼を言ったらいいのか・・・」
「もう、やだ〜!イタチったらそんな改まった言い方しないでよ!」
「暗部でここまでやってこられたのもカカシさんのお陰です。
色々とご指導ありがとうございました」 「いいの!いいの!オレだってイタチから写輪眼の使い方教わったしね!
そっか・・・でも、寂しくなっちゃうね。でも、たまには、交代で戻って来られるんじゃないの?」 「それは・・・わかりません・・・」 「じゃぁ、オレが交代要員に名乗り出るからさ!そうすれば会えるし!」
「カカシさん・・・その・・・」
「ん?」
イタチは何か言おうとして、言い出せなくて、突然後ろを向いてしまった。 「イタチ・・・?」 カカシはどうしたものかと思ったが、少し様子を見ようとイタチの言葉を待つことにした。
イタチの肩が心なしか震えているようにも見えたから。
そして、肩が大きく上下して、呼吸を整えているのが分かった。
少しして、イタチが振り向いた。
「最後に一つだけ・・・お願いが・・・」
「いやだ〜そんな最後だなんて言わないでよ!」
イタチは何かを決めたような鋭い目でオレを真っ直ぐに見つめてきた。
オレの背中にぴりりと緊張が走った。
「オレの願いは・・・」
そう言った瞬間、今度は信じられない光景がオレの目に映った。 イタチが肩を震わせ、涙を浮かべていた。
「イタチ?」 いきなりイタチがオレに抱きついてきた。
「カカシさん・・・カカシさん・・・オレ・・・オレ・・・」 溢れた涙を拭おうともせずに、イタチはオレの胸に頬を寄せてきた。 イタチが泣いているところなんて初めて見た。
オレはイタチの髪を撫ぜ、背中をそっとさすってあげた。
「いいよ、言ってごらん。オレに出来ることなら何でもしてあげるから」 耳元でそう囁くと、イタチの両腕がオレの背中にすっと回された。 イタチは顔を上げて潤んだ瞳でオレを見つめた。
「カカシさん・・・オレを・・・」
その瞳を見た瞬間、オレはその先の言葉を悟ってしまった。
(イタチ・・・ もしかして・・・?)
ゆっくりとイタチの顔が近づいてきた。
回された手にぎゅっと力が入り、オレはもうイタチの腕の中から抜け出せないでいた。
(うん・・・いいよ・・・)
オレは言葉に出さずに、目を閉じ頷いて、イタチに了承の返事をした。
イタチの柔らかい唇がそっと触れた。
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2008/7/6