最後の願い 完
サスケ探索任務には、テンゾウを副隊長に連れて、二小隊で出ることになった。
中心ポイントを決め、近辺5km四方を一人一人が探していく。
もし何も無ければ中心ポントを移動して、またそこから5km四方を探索する。
それを繰り返す。
忍犬を口寄せし、メンバーそれぞれに付け、探索を開始した。
オレはパックンを肩に乗せ、ひたすら森の木々の中を駆け抜けた。
「間に合ってくれ・・・サスケ・・・イタチ・・・
オレが迎えに行くからな。一緒に木ノ葉に帰ろう」
心の中で何度も二人の名前を呼びながら。 パックンが「カカシ!」と叫んだのと同時にオレは写輪眼を発動し、ゆっくりと地面に着地した。
写輪眼が懐かしいチャクラを感じ取った。
「このチャクラ・・・間違いない!」 前方の木陰から、ちらりと黒いマントの裾が揺れるのが見えた。
オレは、思わず「イタチ!」と声をあげてしまった。
イタチが姿を現して、ゆっくりとオレの方に向って近づいて来た。
「パックン、戻っていいよ」 「お久しぶりです。カカシさん」
「あぁ、良かった。間に合った。オレ、イタチを迎えに来たんだよ!」
イタチは一瞬訳がわからないというような表情をして、小首を傾げた。
「オレを・・・?迎えに?」 「そうだよ!今、みんなでサスケも探しているから、オレと一緒に帰ろ〜ね!」
「帰る?」
「うん、イタチの極秘任務のことは全部聞いたよ。
一人であんなに大変な任務を・・・本当に・・・良くやったね・・・辛かったよね・・・
木ノ葉も綱手様が火影になられてから、体勢が色々と変わったんだよ。
ねっ!帰ろう!」
イタチはふうっと息を吐いた。
「オレは・・・木ノ葉には戻れない」 「大丈夫だよ。里もイタチとサスケを暖かく迎えてくれるから!
ごめんね・・・あの時・・・オレは何もしてあげられなくて・・・
でも、これからはオレがイタチとサスケのために・・・二人を護るから・・・」 カカシはイタチに歩み寄り、そしてイタチをそっと抱きしめた。
でもその瞬間に、マントで隠れて見た目では分からなかったが、イタチの身体のあまりの細さに愕然とした。
これ以上強く抱きしめたら折れてしまいそうな程痩せていた。
イタチは、オレが目を丸くしたのに気付いて、うっすら笑みを浮かべて、オレの腕を振りほどいた。
「カカシさん、分かったでしょう?
オレは・・・もう・・・長くない」 「イタチ!どうしたの?どっか具合悪いの?
なら、早く木ノ葉に帰って、綱手様に診てもらおうよ!」
「もう・・・何も恐れるものはない・・・
覚悟は出来ている。
ただ・・・最後に果すべきことを果してから・・・
それがオレの・・・唯一の望み・・・」
「まさか・・・?」
「サスケに・・・オレのすべてを・・・与える・・・
そのためだけに今まで生きてきた・・・」 「イタチ、サスケにはオレからあの晩のことをちゃんと話すからさ! サスケは分かってくれるよ!絶対にね」
「最後にカカシさんにどうしても会いたかった・・・
会ってお別れが言いたかった・・・」
「イタチ!何てこと言うの!お別れだなんて、オレそんなの聞かないからね」
「それから・・・もう一つ・・・カカシさんももう気が付いているみたいだけど、
万華鏡写輪眼は・・・使わないで・・・使い続けたら・・・光を失う・・・」
「うん、分かった・・・分かったから。もう何も言わなくていいから。
帰ろう!ねっ、帰ろうよ」
イタチは首を横に振った。
「サスケを・・・
サスケを頼みます。
サスケにはうちはを再興する使命がある・・・
今度は木ノ葉のために。木ノ葉と共に戦ううちは一族を・・・」
イタチはそう言って深々と頭を下げた。
「だから、それをイタチとサスケの二人でするんでしょ! ねっ!」
「カカシさん、最後にお願いが・・・
本当にこれが・・・最後の・・・」 「もう、イヤだ。イタチ・・・さっきから最後最後って・・・」
イタチは何も言わずにすっとカカシを抱きしめた。
そして、耳元で小さな声で囁いた。
「カカシさんを・・・
カカシさんを・・・」
「ん・・・イタチ・・・?」
「ねっ? カカシさん、いいでしょう?
オレの最後の我侭をきいてください」
イタチはそれ以上何も言えないようにカカシの唇を塞いだ。
カカシはそんなイタチを許し、そして、受け入れた。
あの晩のように・・・
「カカシさんのことを・・・
ずっと・・・ずっと・・・」
「ん?イタチ・・・?」
「もう・・・これで・・・
本当に・・・
最後だから・・・」
「カカシさん・・・
カカシさん・・・
ありがとう・・・」
何度も何度も名前を呼ばれた。
「イタチ・・・
帰ろう・・・
オレと一緒に・・・ ねっ・・・帰ろうね・・・」
オレも何度も何度も繰り返しそう告げて。
イタチのことをもうこのまま離さないとの思いで力いっぱい抱きしめた。
見るのも切ない程に痩せた身体でイタチに貫かれ、
それでも穏やかなイタチの顔を見ては泣きたくなった。
果てる寸前、急に目の前が真っ白になり、薄れていく意識の中で、
耳元にかかった吐息に混じって、
イタチの言葉が、微かに聞こえたような気がした。
あげる・・・
受け取って・・・
カカシさん・・・
好き・・・
目を覚ますと、もうイタチの姿はなかった。
「はぁぁ・・・まいったな。催眠眼をかけられちゃったみたい・・・
目は見てなかったのに・・・」
身体を起そうとすると、胸のポケットからぽろりと指輪が転げ落ちた。 「これ・・・イタチの・・・?」
カカシはぎゅっと指輪を握り締め、腰のポーチにそっと入れた。
そして、まだ気だるさが残る体でゆっくりと立ち上がり、服に付いていた草を払い落とし、大きく息を吸った。
「さぁ、急がなくっちゃ!
オレが迎え行くまで・・・
間に合ってくれよ! イタチ・・・サスケ・・・」 カカシは森の中を再び走り出した。
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2008/7/11