鈴の音 1
明け方、
ひんやりとした空気に足元を撫でられて、思わずぶるっと震えて、目が覚めた。 タオルケットがかかっていなかった。 この2、3日、朝晩めっきり涼しくなって、 もうこの気温では、さすがに、短パンじゃ寒いだろう。 そろそろ毛布を出した方がいいかな。 先生の夢を見たんだ。 本当に久しぶりに・・・ 夢の中では、あの頃の子どものオレではなくて、 なぜか、今の大人のオレだった。 何のことだか、はっきりと覚えてはいないのだけど、 先生に叱られていた。 「カカシったら、もう〜」 「だって、先生が・・・」 「コラッ〜!俺のせいにするの?カカシは!」 「え・・・そんな・・・」 「ひどいよ〜!カカシ!そんなことするんだったら・・・」 オレは先生が怖くなって、逃げ出したんだ。 先生が、 「待てえ〜!カカシィ〜!」 って、もの凄い顔して追いかけて来て・・・ 必死に走って、走って。 でも、すぐに追いつかれて。 「さ、帰ろ〜」 なんて言われて、手をぎゅっと繋がれて、一緒に家に帰ったんだ。 そこで、目が覚めた。 先生の暖かい掌の感触が妙にリアルに残っていて、 何だか不思議な気持ちになった。 足元の方に丸まっていたタオルケットを肩までぐいっと引っ張って、もう一度寝直した。 夢の続きが見たくって。 ピピピピッピ〜ピッピピ〜 大音量でアラームが鳴った。 「ん・・・」 オレは、腕を伸ばし、枕元のアラームを止める。 「もう・・・ちょっとだけ・・・」 ピリピリピリピリピリピリピリピリピリィィィィ 二つ目のアラームが鳴った。 こっちは、体を起こさないと止められないように、わざとベッドの横の机の上に置いてある。 「う〜ん・・・あと・・・5分・・・だけ・・・」 ピピピピピピピピピピピピピピピピピピ〜 三つ目のアラームが鳴った。 これは、歩かないと止められないように、あえてリビングのテーブルの上に置いてある。 ベッドから降りて、リビングに行き、アラームを止めた。 ま、いいや、どうせ、今日の任務もサスケと2マンセルだったしな。 雲隠れの里に、届け物をするだけの簡単なCランク任務で、少しキツイけど、ちょっと頑張って飛んで行けば、日帰りで帰って来られる距離だし。 朝早く出られるように、昨日のうちに任務依頼書と親書は貰ってあったから、受付所に寄らなくても、任務先に直行で行ける。 その時のオレにとっては、起きることよりも、先生の夢の続きの方が重要問題だったのだ。 朝飯の時間なんて、削ってもいい。 オレは、先生に何で叱られていたんだろう・・・? 気になって仕方がなかったから。 寝室に戻って、もう一度ベッドにもぐりこんだ。 「おい、起きろ」 鼻を摘まれて、目が覚めた。 どのくらいの時間が経っていたのかはわからなかったが、 残念なことに夢の続きは見られなかった。 「あんた、何のために、リビングに目覚まし置いてあるんだよ? 止めて、またベッドに戻るなんて、意味ねえじゃん」 「だって・・・だって・・・」 (まさか、先生の夢の続きが見たくって・・・とは言えないよなぁ・・・) 「だってもくそもあるか、どうせ、2マンセルだから、オレが迎えに来てくれると思ってたんだろ?」 「え、ま、それは・・・その・・・」 「もういい、言い訳考える暇があったら、早く起きて仕度しろよ」 サスケがタオルケットをパッと捲り上げ、オレの手をぐぃっと引いて起こしてくれた。 「おはよ」 ちゅっと、柔らかなサスケの唇が触れた。 「あんたの遅刻癖は、100万年かかったって、直ることはない。 オレと住んだ方が、オレも迎えに行く手間が省けて楽になるんだ。 なぁ、いいじゃねえか、もう。 オレは、誰に何て言われたって、気にしないからな」 サスケが木ノ葉の里に戻って、もう1年が過ぎた。 抜け忍としての罪は重たく、本来なら、絶対に許されることはないのだが、 サスケは素直に非を認め、謝罪したこと、うちは一族の唯一の生き残りであること、 そして、イタチのスパイの件もあって、特例としてお咎めはなかった。 牢にぶち込んで、謹慎させておくよりは、肉体労働でもさせて、体で今までの借りを返せという綱手様らしい配慮だった。 最初は、監視の意味も含めて、オレと2マンセルを組まされていたのだが、 サスケは木ノ葉へ忠誠を誓い、人が嫌がるような困難な任務を進んで受け、里のために尽くしたことから、今ではすっかり信頼を取り戻し、皆とも気軽に接することが出来るようになっていた。 もう本当は、監視の必要もないのだが、綱手様が何を企んでいるのか知らないけど、 オレとサスケの2マンセルは続いている。 そして、本人がそれだけは、勘弁してくれと、頭を決して縦にはしなかったのだが、 綱手様は、サスケを上忍に昇格して、下忍の面倒を見させようとしているのだ。 ま、実力的に上忍としては何の問題もないものの、下忍担当となると、それはちょっと無理なんじゃないかなぁと、オレも心配しているんだけど。 サスケのあの物言いは、大人だって、少しむっとくる時があるほど、無愛想なもので。 もちろん、本人は、特に怒っている訳じゃなく、元々こういう話し方なんだから仕方ないと、開き直っているのだが。 あれじゃあ、確かに子どもたちが怖がって、とてもまともに班行動ができるとは思えない。 ああ、そうか、綱手様はこのオレにサスケを上忍師として、育てさせようとしているのかもしれない。 上忍として、たとえ、難しいAランク任務をいくつもこなすよりも、ある意味、下忍の育成をする方が、よっぽど困難なことかもしれないし。 そして、下忍を一人前の忍にできるような上忍師を育成することも、里にとっては、大きな課題なのだろう。 オレだって、結局のところ、下忍担当は、後にも先にもあの「7班」だけで。 その後は、暁問題があって、下忍を担当する暇なんてなかったしな。 そして、里に帰ってから早々にサスケに押し倒されてしまったオレとの関係も、 サスケが何も隠さずに正直に言ってしまうものだから、とっくに、綱手様や上忍仲間にはバレている。 「あのねぇ、一緒に住んだら、誰かさんが、毎日サカって、 結局、朝オレが起きられないのは一緒だと思うんだけど」 実のところ、昨晩だって、オレの誕生日の前夜祭だとか、 夜中の12時に一緒にいて、誕生日になる瞬間を二人で迎えたいだとか。 サスケには、似合わないような乙女チックなことを散々に言いやがって、 結局、サスケの言うがままに流されて、ヤバイことになってしまったのだ。 ちょっと、まだ腰が痛いかも。 オレが顔を洗って着替えている間に、サスケが手早く朝飯の支度をしてくれた。 鮭と卵焼きと茄子の味噌汁と。 これぞ日本の朝の定番というような良い匂いがする。 一人だと、ろくに朝飯も食べずに、コーヒーだけで済ませてしまうことがほとんどなので、 こんな豪華な朝飯を食べられるのは、ちょっと嬉しいことかも。 そっか、サスケと一緒に住めば・・・ これが、毎日・・・ いやいやいや、それだけはダメだ・・・ オレは、ブンブンと首を横に振り、美味しい誘惑につい負けそうになった自分を、心の中で叱咤した。 椅子に座ろうとしたら、テーブルにお皿を並べながら、サスケがオレの顔を見て、ぷっと吹き出した。 「今日はあの雷影のおっさんのところ行くんだろ? カカシ、髪の毛、寝起きのまんまだ。それじゃいくら何でも酷すぎるぜ」 オレは、慌てて、髪を撫で付けてみる。 顔は洗ったけど、確かに、髪はセットしてない。 そんなに変かな? 「先に朝飯食おうぜ、食べ終わったら直してやるよ」 「そんなこと、自分で出来るよ」 「それに、今日は特別な日だ。 いつもより、あんたに綺麗でいて欲しいしな」 サスケが、意味ありげな笑いを浮かべる。 何言ってんの!日付が変わった時から、「特別な日」って言って、 「特別なこと」をもうすでに、何度も何度もされたっていうのに、 また、今日もかと思うと・・・ 何だよ、オレったら・・・ ちょっと、ドキドキして、 ちょっと、期待している? これ以上?何に? 「もう〜何それ?」 そんなドキドキな心を見透かされるのは悔しいから、 真反対に、わざとらしく、しかめっ面をしてみる。 ニヤケそうな顔を隠すのって、ちょっと大変。 思わずほっぺが引きつりそうになった。 |
2009/9/15
2009年のカカ誕は、当初、四カカで、あの映画ネタで書こうと思ってましたが、
書き始めたら、何故か、サスケがカカシを起こして・・・
え?サスカカ? って自分でもびっくりな展開に(笑)
ということで サスケが里に戻ってきた後、カカシ32歳、サスケ18歳の設定で、
SLVER TEARS初のサスカカ+四カカなお話です。