ここでは手の込んだ料理は作れないが、野菜スープをことことと火にかけながら、手早くマカロニサラダも作った。
もちろん、四代目の好きなデザートも忘れない。
ケーキは戻ったらまた作ってあげようと、今日はプリンだけ作っておいた。
Happy Birthday To You!
と、カカシはケチャップで文字を書いた。
「わ〜、いい感じに出来た!
先生好きだからいいよね」
買い物リストの中には玉子と最低限の調味料はあったのだが、さすがに小麦粉や生クリームまではなかったから、カカシは四代目の好物のオムライスを作ったのだ。
「そうだ、ちゃんと旗も作ってあげようっと!」
カカシはポーチからペンとメモ用紙を取り出し、四代目の似顔絵と、裏には木ノ葉の里のマークをささっと描いて、つまようじに張り付けた。
「う〜ん、似てないかも・・・」
カカシは可笑しくなって、くすっと笑った。
昔から、絵はあまり得意ではなかった方なので、描いてはみたものの、全然似ていない。
それでも、何もないよりは、ちょっとはましになるだろう。
些細なものだけど、精一杯の気持ちを込めて、カカシは出来上がった旗をオムライスにちょこんと挿した。
「ま、これで、何とか、形になった・・・よね。
先生の様子をちょっと見てこようかな」
カカシは、キッチンの扉を3cm程開けて、隣の部屋をそっと覗いた。
(うわっ!)
カカシは、思わず大声をあげそうになって、慌てて両手で口を覆った。
(なんだろう・・・?
誰か来てたの?
でも、あれって、人じゃ・・・ないよね?)
それは、到底言葉では言い表せないような、
「人」というよりは、
この世の人ではない「物体」?
不思議な感覚に、背筋がぞくりとした。
影分身ではないだろう。
でも、実体でもない。
感じ取れたチャクラは、凄く冷たいものなのに、
かと言って、禍々しい訳ではない。
冷たいのは温度だけで、四代目のチャクラとも、ぶつかりあっている感じは全くない。
というよりは、むしろ、四代目とは馴染んでいるようにも感じられた。
カカシは、何てことをしてしまったのかと、後悔をした。
扉を開けずに、あとどのくらいで終わるのかと声をかけるべきだったと。
たとえ、師匠と弟子であっても、新術に関わることは極秘なのだから。
カカシが、そっと扉を閉じようとした時、突然、四代目の声がした。
「あ、カカシ!もう、こっち来ていいよ〜終わったから」
やっぱり、覗き見していたのはバレていたんだと、カカシは申し訳ない思いでいっぱいになった。
「ごめんなさい。料理が出来たから、先生はどうかなぁって、思ってつい・・・」
カカシは隣の部屋に入り、四代目の前に立ち、深々と頭を下げた。
「別にいいよ! 丁度終わったところだったしね。
あ、もしかして、見ちゃったのかな? 彼のこと」
「う、うん・・・でも、すぐに閉じたから」
「今回の新術を手伝ってくれる友達を口寄せで呼んでいたんだ。
カカシにも紹介するつもりだったんだけど、ご馳走出来たみたいだから、帰るって。
向こうの世界にさっさと戻っちゃたんだよ。
あれでも、オレ達に気を使ってくれたみたいなんだよね」
「口寄せ・・・だったんですか」
蝦蟇親分以外にも、たくさんの口寄せ動物と契約している四代目だったが、
さっき見たのはどう見ても、蛙でも動物でもなかった。
人間の姿としか言いようがないような・・・
そんな???マークがいっぱい飛んでいるカカシの頭の中を見抜いて、
四代目はニヤリと笑った。
「見た目は、人間だけどね。
中身は死神なんだよ〜!」
「し、しっ、死神ぃぃぃぃーーーー!!!???」
あまりの驚きに、カカシは口をぱくぱくしながら、次の言葉が出てこなくなってしまった。
身体もガタガタと震えている。
「そ、死神さん。心配しないでね、とってもいい奴だから。
今度の新術は彼の応援なくしては、完成しなかったし」
「せ、せ、先生、じゃぁ、か、完成したの?」
やっとのことで、言葉を発することが出来たカカシを、四代目は立ちあがって、そっと自分の方に抱き寄せた。
「ん! 大成功! カカシが美味しいご馳走を作ってくれていると思うと、
早く食べたいから、すっごく集中出来たしね!
やっぱ、オレの思った通り!カカシを連れて来てよかったよ。
さ、食べよう〜」
四代目の腕にすっぽりと包まれて、身体の震えも治まったカカシは、「うん」と頷いた。
「オレも運ぶの手伝うよ」
「あああああ〜いい! いいって! オレが運ぶから、先生は座って待ってて」
四代目の身体をぐいっと押して離れると、カカシは急いでキッチンへと走って行った。
「あ、先生、目瞑って座っててね!」
「はいはい」
自分を驚かせようとの思いが伝わってきて、四代目はドキドキしてきた。
(もう、カカシはああいうところが可愛いんだから〜)
思わず頬が緩んで、ニヤケてしまった四代目。
カカシに言われたように、テーブルの前の椅子に座って、ぎゅっと目を瞑った。
カカシがキッチンと何回か往復する気配を感じながら待っている時間は、短いのにとても長く感じられる。
次々と良い匂いが漂ってきて、
(この匂いは・・・きっと・・・アレかな?)
なんて、想像するのは、新術開発という困難なな実験をやり遂げた四代目にとって、至福のひとときだった。
お腹が、ぐうっと鳴ってしまった。
「はい、先生、目を開けていいよ!」
四代目が、ゆっくりと目を開くと・・・
テーブルの上には、四代目の好物が所狭しと並べられていた。
「うわ〜! すっごい〜! どうして? こんなたくさん!」
「先生、ごめんね、小麦粉と生クリームがなくって、さすがにケーキは作れなかったんだ。
ウチに帰ってから、ちゃんと作るから、今日はこれで我慢してね」
「カカシ、ありがとうね。
さ、食べよう。いただきま〜す!」
二人で手を合わせて、「いただきます」と言って、食べ始めた。