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師弟の絆   8


その後、少年は、両親の暖かな愛情に育まれて、天真爛漫にすくすくと成長したが、
アカデミー入学の翌年に7歳で母親を、そして卒業前の9歳で父親を相次ぎ任務で亡くし、木の葉ホームという孤児院に引き取られた。
両親が亡くなってからは、親戚の家を訪ねることも無くなり、次第に少年の記憶からも消えていってしまった。
 
 
二代目火影は、初代の時代に中々手を付けられなかった様々な問題を次々と解決し、里の統一に力を尽くした。
その中でも、特に木ノ葉アケデミーと木ノ葉ホームの設立は後世に残る大きな事業だった。
就任後にすぐ、それまで各一族内で行われていた忍の修行を里で統一して行うこととし、忍者育成機関として「木ノ葉アカデミー」を創立した。
また、任務で両親を亡くした子ども達のための施設「木ノ葉ホーム」を作り、孤児たちがアカデミーを卒業し、下忍になるまで面倒をみたのだ。
 
世の安定の時こそ忍を育てる時だと。
里の宝、「木ノ葉の子どもたち」を我が子のように育てていこうと。 
人材の育成を最優先課題として取り組んでいったのだ。
 
 
アカデミーの育成カリキュラムには、基礎基本を徹底して教える演習プログラムが組まれていた。
少年少女期には、成長のスピードにもかなり個人差があるので、クラスは年齢別ではなく、習熟度別になっている。
各段階ごとにテストを行い、合格すれば、次のステップに進めるし、不合格ならもう一度、プログラムを受け直す。
通常6歳くらいで入学し、だいたい平均5〜6年で卒業できるようになっているが、実力があれば、早い子なら3〜4年で卒業してしまう子もいる。
最後にアカデミー卒業試験と下忍昇格試験に合格して初めて晴れて下忍となることが出来る。
そして担当上忍の元、スリーマンセルを組み、最初は、修行も兼ねて、簡単なDランクの任務をこなしていくのだ。
  
アカデミーの総括を任されていた猿飛は、今期の卒業生の名簿と成績表を交互に見ながら、スリーマンセルの組み合わせを考えていた。
  
「あぁ・・・ こやつは・・・ そうだな・・・
自来也に任せるかのぉ アイツにビシバシ鍛えてもらえば・・・ 役に立ちそうだ」
 
その少年の成績はオール優で何の問題もないのだが・・・
担任教師の所見欄には・・・
 
「成績は優秀、しかし、努力しないで何でも出来るが故に、
人の話を聞かないところがある。 集中力にも欠け、授業中はほとんど寝ている。
性格は、短気で自己中心的。 少々問題あり。
しかし、何故かクラスのリーダー的存在で、人望はある。
人をまとめるのが実にうまい」
 
と、書かれてあった。
いったい良いのか悪いのかどっちなのか分からない。
成績優秀なガキ大将ってとこか・・・!?
 
「自来也とは、相性が良さそうじゃのぉ・・・ これは面白いことになりそうじゃ。
ハッハッハッ〜」
 
猿飛は、笑いながら担当上忍の名前欄に、「自来他」と書き入れた。
 
  
少年は卒業試験の分身の術を難なくクリアし、下忍試験を受けることになった。
 
教室では、担任がスリーマンセルの組み合わせを発表し、それぞれの担当上忍の名前を告げた。
1組1組次々に担当上忍に連れられて、皆教室を出て行った。
最後に残ったのは少年の班だけだった。
 
「遅っせえなぁ〜 もう、みんな行っちまったぜ まったく、何やってんだ。
オレらの自来也先生は・・・」
 
イタイラしながら、教室の中をぐるぐると歩き回っている。
そして、何を閃いたか急ににんまり笑って、黒板の方へ歩いて行った。
黒板消しを取って、扉の上に挟む。
 
それを見た女の子は、
 「やめなよ〜 そんなことしたら・・・ 怒られちゃうよぉ」
 と、心配そうな顔をして、男の子は、
 
「そんなものに上忍が引っかかるか・・・」
 と、笑った。
 
 しばらくして・・・
 ガラガラと扉を引く音と・・・
 バフッと黒板消しが下に落ちた音が・・・
 
「ハハハ〜 残念じゃったのォ〜!」
 
その上忍は2メートル近くはあるかというくらいの大男で、頭を下げないと、
普通の扉では入れないのだ。
  
「ちぇっ、 つまんねえの」
 
金髪の少年がほっぺをふくらませている。
 
(こいつじゃな・・・)
 
「上忍相手に悪戯しようなんてお前、中々いい度胸してんのぉ」
 
「だって遅いんだもん! みんなとっく行っちまったぜ!」
 
「悪い、悪い、ちょっと前の任務でトラブってな・・・
まぁ、心配せんでも時間はまだたっぷりとある。
さぁ、下忍試験を早速始めるぞ。 演習場に移動だ」
 
「えぇ〜 今から試験?」
 
「うっそぉ〜」
 
「そんなぁ〜」
 
3人とも、まさかいきなり試験があるとは思ってもみなかったので大きな悲鳴を上げた。
下忍になれるかどうかの大事な試験だから、事前に課題が発表されるとか思ってた。
それが何の心の準備もなくいきなりとは予想外だった。
 
 
演習場に着いた3人は3本の丸太の前に連れて行かれた。
 
「よ〜し、試験のルール発表するからちゃんと聞いておけよ〜」
 
そう言って、自来也先生は、ポーチから二つの鈴を取り出した。
 
「これを先生から取ってみろ。どんな方法を使ってもいい。
本気で先生を殺るつもりで来ないと取れないぞ。
鈴は一人一個でいいからな」
 
3人とも先生の説明の意味が分からないような不思議な顔をしている。
 女の子が恐る恐る手を挙げた。
 
「あの・・・ 二つしかないって・・・
どういう意味ですか?」
 
「取れた二人は合格、取れなかった一人はアカデミーに戻ってもらうという意味じゃ」
 
一瞬にして皆、顔が青ざめた。
この中から二人しか合格できないという何て残酷なルールだ。
でもここまで来て、受けないという訳にはいかないのだ。
3人は腹を決めたかのようにきりりと口を結んで、こくりと頷いた。
自来也先生は、ポーチから時計を取り出し、丸太の上に置いた。
 
「とりあえず、制限時間は12時までとする。 
 それまでに、取れなかった奴は昼飯抜きじゃ!」
 
「えぇ〜 ひっどぃ〜!」
 
3人が声を合わせて叫んだのを無視して、自来也先生は手を挙げてスタートの合図をした。
 
「よ〜し 始め!」
 
(オレに付いてこい!)
 
金髪の少年は二人に目で合図を送った。
後の二人は、少年より年上だが、同じクラスにいたから、彼が頼りになることは分かっていた。
彼ならきっと何か良い作戦を考えてくれると思って黙って少年の後を追った。
3人は、自来也先生から見えないように草むらに隠れた。
 
「ったく・・・ 何て試験だよ、オレ達がまともに行ったって、あんなデッケーおっさんから鈴なんて取れる訳ないだろ・・・ じぁ・・・ まともではない方法で・・・ 何やってもいいって言ってたよな・・・」 

少年は、頭をすばやく回転させ、そのまともではない方法を考え始めた。
後の二人は、合格は二人だけと言われた時点から、さっぱり思考は止まったままだ。
  
「とりあえず、上手く隠れることは出来たみたいじゃ。
まっ、少しは考えてぶつかってくるかのぉ。
それまで、ちょいと下書きでもしてようか。
まぁ、アイツら相手だったら、書きながらでも出来るか」
 
自来也先生は、ポーチから、小さなノートとペンを出し、何やらさらさらと書き始めた。
趣味で小説を書いているのだが、いずれは本にして出版できたらと思っている。
少し大人向けの内容なのか、書きながら思わず鼻の下が伸びている。
 
「ふむふむ・・・ にっしっし・・・ これいいな・・・」
   
「普通の状態では取れない・・・ なら、隙を作らないと・・・
どうやって・・・ 驚かす!? う〜ん・・・ おっさんを驚かす・・・
でも、ちょっと驚いたくらいじゃ、そんな隙は出来ないだろう・・・
もっと、もっと・・・ 飛び上がる程に・・・ ん? なら、びっくりするほど・・・
喜ばせればいいかも?」
 
少年は、ぶつぶつ言いながら、何か閃いたように、
「あっ!」と、叫び、思わずにんまりと笑った。 
 
「へへぇ〜 いい事考えたぜ。
大体ああいうおっさんはな、女の裸が好きって相場は決まってるんだ」
 
女の子は、一瞬ビクっとしたが、
 
「大丈夫、オレが変化するから。
お前らは、おっさんが喜んでる隙に鈴を取れよ!
いいか、オレが出て行って、おっさんって呼びかけるから、その間に準備しておけ。
オレが変化って言った瞬間にすぐ飛び出せよ。
絶対に遅れるな」
 
「分かった」と男の子は頷いた。
 
「でも・・・ そしたら・・・ 
私達は取れるけど・・・」
 
「いいんだよ、オレは。
まだ、アカデミーにいたいんだ・・・ ほら、オレんち、ホームだし・・・
あそこ、下忍になると出て行かなくちゃならないんだ。
一人で飯とか作るの面倒くさいし。
お前らはちゃんと合格して、親を喜ばせてやれよ!」
 
二人とも返す言葉が出てこなかった。
 
「さぁ、行くぞ!」
 
にっこり笑って少年は、自来也先生の前に走り出た。
   
「おっさん!」
 
(何だこいつ、馬鹿か、正面から突っ込んできやがるとは・・・)
 
「おっさん、こういうのどう?」
 
「変化!」
 
少年は、あっという間に、金髪の美しいお姉さんに変化した。
しかも、真っ裸だ。
 
「どう・・・ 私・・・ かわいい?
自来也せ ・ ん ・ せ ・ え・・・」
 
頬をほんのりピンク色に染め、悩ましげなポーズをとった。
 
「うほぉぉぉぉ〜 
 お前、何だ! 何だ!その術はぁぁぁ〜」
  
自来也先生がだらしない顔をして、ヨダレをたらしたその瞬間。
 
チリン、チリンと鈴の音が響いた。
二人共、見事鈴を取ることが出来た。
 
 
「よっしゃぁ〜 忍法おいろけの術、大成功!」
 
少年は元の姿に戻って、ガッツポーズをした。
  
「はぁぁぁ〜 俺様としたことが・・・ こんなガキに・・・ 
情けない・・・」
 
自来也先生はがっくりと肩を落として、深いため息をついた。
 
「へへ〜 これでこいつらは合格だろ?」
 
嬉しそうな顔していた二人の顔が少し歪んだ。
女の子は、下を向きながら、そっと、自来也先生に鈴を差し出した。
 
「先生、やっぱり、いいです・・・
だって、私は何もしていないし・・・」
 
「オレも・・・」
 
男の子も鈴を差し出した。
 
「何やってんだよ! 折角取れたのに!
どんな手を使ってもいいって言われただろ。
お前らは合格なんだよ!」
 
そんな3人のやり取りを微笑ましく見ていた自来也先生は、思わず大きな声をあげて笑った。
 
  
「ハハハ〜 合否は先生が決める。
お前らはよくやった、まさかこんな手を使ってくるとはな、想定外だったのぉ。
まったく、お前は意外性ナンバーワンじゃ!
よ〜し、全員、合格!!!」
 
「えっ?」
「わ〜い!」
「やった〜!」
 
二人は、飛び上がって喜んでいるが、少年だけは何故かむくれている。
 
「二人しか合格しないって言ってたのに・・・」
 
「この試験はな、過酷な条件を出し、わざと仲間割れさせるように仕向けてある。
実際の任務では、臨機応変な対応を瞬時に判断しなければならない事もある。
だがな、忘れるなよ。
スリーマンセルを組んでいく上で一番大切なのはチームワークじゃ!
二つの鈴を狙って、お前らがばらばらに取りに来ても、決して取れなかっただろう。
でも、お前達は、3人で協力して取りに来たから、見事に取ることが出来た。
お前は自分を囮にして、他の二人を行かせ、鈴取りを成功させたし、
お前達二人も、ちゃんと作戦通りに任務を遂行できたじゃないか」
 
自来也先生は、3人の顔を優しく見ながら、順番に頭を撫でていった。
 
「うん、自来也班、良い班になれそうじゃのぉ。 
よ〜し、今日はもうこれで解散。
早く家に帰って報告して来い。
明日からは早速任務が始まるからな。
8時に任務受付所の前に集合すること。
以上、終わり!」
 
「ありがとうございました!」
 
3人は声を合わせて、自来也先生にお辞儀をした。
 
「バイバ〜イ」
と手を振りながら、二人は勢いよく駆け出して行ったが、何故か金髪の少年だけはそこに残ったまま、帰ろうとしなかった。

                                                                           2007/5/17

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