師弟の絆 12
カカシが生まれてから1週間後、サクモの奥さんとカカシは無事退院した。
はたけ家は新しい家族カカシを迎え、にぎやかな生活が始まった。
サクモは、「そんなに抱きっぱなしじゃ、抱き癖が付いてしまうわよ」とママに呆れられる程、ずっとカカシを抱いていては、「カカシ〜 カカシ〜」とほっぺをふにゃふにゃに崩して、にやけている。
「可愛い可愛いオレのカカシ、誘拐されたらどうしよう・・・
パパが守ってあげまちゅからね〜」
あの木ノ葉の白い牙と恐れられている忍も、人の親ともなればこの変わりようだ。
そんな二人を微笑ましく見ながら、
「あたのそんな顔見たら・・・ みんなびっくりするでしょうね」
と、ママはくすりと笑った。
しかし、最初の日曜日・・・
サクモの心配通り、カカシを守るという任務はいきなりやってきたのだ。
玄関の引き戸ががらりと開いて・・・
「よぉ! 親ばか面見に来てやったぞぉ〜」
「サクモさん、こんにちは〜!」
(うわっ、ヤバイ! 一番見られたくない奴等だ!)
玄関に行くと、自来也とミナトが両手いっぱいにお祝いを持って立っていた。
「ちっ、ちょっと待ってて、今、ママもカカシも寝てるからさ、
とりあえず、リビングに上がってて」
サクモは慌てて寝室に戻った。
とにかく顔を隠さなくっちゃ。 絶対アイツ等には見せられない!
「ママ、自来也とミナトが来たけど、寝てるって言っといたから出なくっていいからね!」
「まぁ、折角来てくださったのに、悪いじゃない」
「ダメダメ! ママもまだ無理しちゃダメなの!とにかく、少し話て帰ってもらうから」
(でもアイツ等のことだから・・・ 無理やり入ってくるかもな・・・)
サクモは万が一のために、カカシをおくるみでそっと包み、目元や口元が見えないように隠しておいた。
リビングに戻って、お茶でも入れようとしたら、自来也が酒を持って来たから、これを開けてお祝いに一杯飲もうと言った。
サクモは茶箪笥から乾き物と冷蔵庫からお新香やつまみになりそうなものをいくつか出した。
「まだ、ママには何にもさせてないから、こんなものしかないけど。今何か作るからさ」
「な〜にワシ等は構わん、それより御赤飯とおはぎを持ってきたからな。
もち米はお乳の出が良くなるって聞いたからのぉ。
それから、これは、ほんの気持ちだ」
自来也は懐からそっとのし袋を取り出し、サクモに渡した。
「そんな・・・ 気を使って貰って、悪かったな。
ミナトはリンゴジュースでいいかな?」
「はい、オレは何でも。
ねぇ、サクモさん、ちょっとだけ赤ちゃん見せてくださいよ」
「ダメダメ! 今、丁度寝たところだから起こしたら可哀想でしょ!」
「ったく・・・ 白い牙ほどのものがなぁ・・・ 顔がにやけてるぞ!
じゃぁ、酒でも飲んで王子様のお眼覚めを待ってるとするか」
それから、小一時間程、お酒を飲みながら3人で話をしていたが、さすがに待ちきれなくって、ミナトが騒ぎ出した。
「サクモさん、そういえば赤ちゃんの名前は何て言うの?」 「カカシだよ」
「へぇ〜 カカシ君ねぇ・・・ はたけカカシ君か・・・ ん! いい名前だね!
ねぇ、まだ起きないの? サクモさん、見てきてよ!」
両親を亡くし、木ノ葉ホームで暮らしていたミナトは、年下の子どもたちの面倒も良くみていて、根っからの子ども好きなのだ。
下忍になってからは自来也の元で暮らすようになったが、自来也の親しい人に赤ちゃんが生まれるのをまるで兄弟が生まれるかのようにとても楽しみにしていたのだ。
ミナトは何とか誤魔化してやり過ごそうとするサクモの腕を取り、立ち上がらせようとした。
「ねぇ〜 ねぇ〜 サクモさ〜ん!」
立ち上がりそうにもないサクモの腕を下ろし、ミナトはぱっと扉に向かって走り出して行った。
「おい、コラッ!」
「オレが起きたかどうか、そっと見てきてあげるから〜!」
サクモが慌てて後を追ったが、ミナトはこんな時にも瞬身の術を使い、あっという間に廊下に出て隣の寝室の扉を開けてしまった。
窓側に置かれたベビーベッドの横には、サクモの奥さんが座っていた。
「こんにちは!」
囁くような小さな声で挨拶をし、頭をぺこりと下げた。
「あら、ミナト君、こんにちは」
「あの・・・ 赤ちゃん、まだ寝てますか?」
「丁度今、目が覚めたみたいよ。 どうぞ、こっちにいらっしゃい」
にっこり微笑んで、手招きしてくれた。
ベビーベッドに近付き、そっとベッドを覗いた。
白いベビー服を着て、何故か白いおくるみに包まれた小さな小さな赤ちゃん。
目元と口元は隠してあって、鼻しか見えない。
「何でこんなの巻いてるの?」
「ふふふ・・・ 可哀想よねぇ・・・」
「お顔見れる?」
「えぇ、いいわよ」
そう言って、ママは赤ちゃんをそっと抱き上げ、ミナトの前に座ってくれた。
おくるみを解き、赤ちゃんの顔が露になった。
部屋に駆けつけたサクモは、額に手を当て、
あちゃ〜 もう、ダメだ・・・ アイツに見られてしまっては・・・)
と思わず心の中で叫んだ。
「うわぁぁ〜 」
ミナトは思わず声を上げた。
蒼き瞳、すぅっと通った高い鼻、微かに笑みを浮かべているような口元、そしてぷっくらしたほっぺ。
何もかもが整いすぎて、本当に玉のような赤ちゃんだった。
もしも天使っていうものがこの世に存在したらこんな感じなのかなと思える程、
どこか人間離れしたような美しさとただならぬ気品に満ち溢れていた。
あまりの衝撃で、ミナトは全身鳥肌が立ち、しばらくぼうっと見惚れていた。
「綺麗・・・ だね・・ 可愛い・・・ うん、すご〜く可愛い〜!!!
こんな可愛い赤ちゃん、今までオレ見たこと無いよ!」
「ありがとう。 カカシ、ミナトお兄ちゃんが遊びに来てくれたのよ」
「ねぇ、オレにも抱っこさせて!」
ママはそっと、カカシをミナトに抱かせてくれた。
赤ちゃん独特の甘いお乳の匂いがふわっと鼻をくすぐった。
ミナトは全身に電流がビリリと流れたような感じがした。
それは、まさに、二人が出会った運命の瞬間だった。
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2008/1/31