師弟の絆 14
それからというもの、ミナトは任務が早く終わった時や、休みの日など時間があればサクモの家に入り浸って遊んでいる。
最初の頃はサクモも何かと理由をつけてはカカシに会わせないようにしていたが、何を言っても構わず押しかけて来るミナトにもう根負けしたようだ。
最近では、逆にミナトを利用するようになり、留守番を頼み奥さんと買い物に出るようにまでなっていたのだ。
ミナトはオムツ替えもミルクをあげることも何でも出来るようになった。
ベビーシッター代わりにいいように使われているのだが、本人はそれを喜んでいるのだから、まぁそれはそれで良いのだろう。
カカシが自分の顔を見て笑ってくれることが、ミナトにとって至福のひとときなのだから。
もちろん、自来也先生に叱られないように、毎日の修行は決められた通りにきちんとしているし、任務に支障を出すようなヘマはしない。
こうして、サクモにも自来也先生にも何も文句を言わせないように、ミナトはカカシの元に通い続けたのだ。
そして、一年が経ち、カカシは健やかに成長し、一歳の誕生日を迎えた。
誕生日には、ミナトは今度は自分の小遣いでたくさんのおもちゃをカカシにプレゼントした。
とある日曜日、
今日は任務も休みだから、たっぷりカカシと遊べると張り切ってサクモの家を訪ねると、
「良いところに来てくれた」と、また留守番を頼まれた。 サクモ達が出かけた頃は丁度カカシは昼寝をしていて、天使のような寝顔を見ていたら、ミナトも急に睡魔に襲われて、カカシのベビー布団の隣で転寝をしてしまった。
ほっぺに柔らかいものがぐにゅっと触れて、ミナトははっと目を覚ました。
カカシがミナトの顔を撫で回している。
「うぁっ! ごめん! カカシ、オレ寝ちゃったの?」
ミナトはびっくりして飛び起きた。
カカシを抱き上げて、すりすりと頬ずりをする。
「おはよ〜! カカシ! 喉渇いた? 何か持ってくるね」
ミナトは先にオムツを替えて、冷蔵庫から子ども用のりんごジュースを取り出し、ストローマグに入れてカカシに渡した。
カカシはちゅうちゅうと一気に飲み干した。 今のミナトにとっての大きな目標は、カカシを歩かせることだ。
歩行器や手押し車を使えば、もう物凄いスピードで颯爽と歩けるのだが、まだ、一人での歩行は出来なかった。
「さぁ、カカシ、今日も歩く練習しようね〜!」 カカシの両手を引き、ゆっくりと歩かせる。一歩一歩、おぼつかない足取りで歩くカカシを、
「がんばれ〜! カカシ! ん! その調子!」
と、話しかけながら、優しく見守るミナト。
一瞬手を離すと、よろよろと倒れそうになるから、また、さっと手を握ってしまう。
カカシは嬉しいのか、にこにこ顔でミナトの手をぎゅっと握って離さない。
「カカシ、もう一度ね」 ミナトがカカシの手を離すと、カカシは不安げな顔をして、すぐにミナトの手を掴もうとする。
両手を上げ、ミナトの手を握ると、また笑う。
そんなことをずっと繰り返していた。
「あぁ、今日はまだ無理かな・・・ カカシ、最後にもう1回ね」 ミナトがにっこり微笑み、カカシを見つめながら、カカシの手をそっと離すと・・・
カカシが両手を上げながら、一瞬立ち止まった。
ふらふらしながらも必死にバランスを取ろうとしているのがわかる。
「うわっ! カカシ! 立った! 立った!」
ミナトは嬉しくなって、一歩下がり、両手をカカシの前に差し出した。
「カカシ、ここまで来てごらん」
カカシは、震えながら、右足を一歩前に踏み出した。
でも、まだ、ミナトの手に届かない。
そして、ふらふらしながら、左足を動かした。
もう少しでミナトの手を握れると思った瞬間、
ミナトはもう一歩後ろに下がった。
「カカシ! もう、一歩!」
カカシは、さらによろめきながら、もう1回右足を出した。
あと、もうちょっとでミナトに手が届く。
最後に左足を出して、倒れるようにカカシはミナトの両手に掴まることが出来た。
「カカシ! やったぁ〜! 凄いよ! 四歩も歩いたよ〜!」
ミナトは大声で叫びながら、カカシを抱き上げてぐるぐると回った。
「カカシが始めて歩いた〜♪ オレの前で歩いた〜♪ イエ〜イ♪」
ミナトは、カカシが初めて自分の前で歩けたことが嬉しくてしょうがない。
もう一度、カカシを立たせてみる。さっきより長く立っていられた。
カカシもミナトが喜んでいるのが分かるのかの嬉しそうに笑った。
「カカシ、がんばったね。今日はもうこれでおしまい! 今度は、もっといっぱいいっぱい歩けるようになるよ〜」 ミナトはカカシの髪をそっと撫でて、微笑み返した。
サクモ達が帰宅して、興奮しながら、カカシが歩けたことを話すミナトに、サクモは少し嫉妬したが、でも、歩いてしまったものはしょうがない。
二〜三日前から立つことは出来ていたのに中々一歩が踏み出せないでいたカカシ。
サクモは、それ以上無理をさせなかったのだが、ミナトはどんな手を使ったのだろう。
まっ、偶々「その時」にめぐり合わせたのがミナトだったと諦めるしかないとサクモは思った。
でも、やっぱりちょっと悔しいので、人前でそれを自慢しないようにとミナトに約束させた。
こうして、ミナトはカカシが生まれて初めて歩いた歴史的な第一歩は自分の前で迎えたということを、その後も誰にも言うことはなく、自分の胸の内にそっとしまっておいた。
自分だけが知っていればいいことだったのだから。
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2008/9/15