直線上に配置

カカシの微笑み   5

   

カカシは、夕飯の買い物を済ませて部屋に戻った。
キッチンに立って、ショートサロンを着け、ふとさっき買ったエプロンを裸で身につける自分を想像した。
 
「あぁぁ・・・ ダメダメ・・・ やっぱ無理・・・
絶対できない・・・」
 
カカシは頭を大きく振ってため息をついた。
ぼうっとしていると手を切ってしまいそうだったから、何も考えずに、ご飯の支度に集中した。
しばらくすると、四代目が帰って来た。
 
「カカシィ〜 ただいま〜
お腹ぺこぺこだよ〜ん! 晩飯は何かな〜?」
 
四代目は、カカシの後ろからガバッと抱きついて、犬のように鼻をくんくんと鳴らした。
 
「うおぉぉぉ〜 今日は冷しゃぶか〜!」 
「あっ、先生ごめん、今日はちょっと・・・
簡単なもので済ませちゃった」
「いいの、いいの! 今日の任務はあれSSランクっぽかったもんね。
シカクの報告書見てびっくりしちゃった。
あんなにキツクなるとは思わなかったよ。
カカシ疲れてない? 写輪眼使っちゃったんでしょ? 大丈夫?」
「うん、でも、早く終わったから、帰ってから少しゆっくりできたし・・・」
「ならよかった。それから来週だけどさ、24日の晩から行こうね!
25日分の任務配置を終えてからだから、遅くなちゃうけど、
でもやっぱりお泊りしたいしね〜」
 
そう言って、四代目は嬉しそうにニンマリと笑った。
 
「先生、その間に美味しいケーキ作ってるからね」
「えへへ〜 楽しみだな〜」
 
カカシは四代目の笑顔を見て、心がぐらっときた。
 
(先生をもっと喜ばせたい・・・
 もっとあの笑顔を見たい・・・
 でも・・・
 先生・・・ ごめん・・・)
 
カカシはまだ決心出来なかった。
 
それから、一週間、カカシは、悩みに悩み、迷いに迷っていた。
任務中は、考えないようにしていたが、家に帰り、四代目の顔を見ると、心が揺れる。
ゲンマに顔に出るって言われたことも気になっていたので、顔に出さないよう、四代目に気付かれないよう必死だった。
しかし、どんなにカカシが努力したところで四代目にはバレバレだった。
でも、四代目は、もしかしたら、誕生日のことかななんて期待をしていたから、敢えて口には出さずに見守っていた。
 
そして、カカシは、こっそりスペシャルカードを完成させた。
金色に光る紙1枚1枚に、1年分の25日の日付を入れた。
 
  〜カカシスペシャルカード〜
<先生の願いをひとつ叶えてあげる>
 
と、丁寧に書いて仕上げ、手紙を添えて封筒に入れた。
 
「これでカードはよしと・・・
あぁぁ〜 でもな・・・ アレはな・・・」
 
そんなこんなで、カカシは決心できないまま、24日の任務を終えた。
報告に行ったシカク班は、火影室に入り、シカクが報告書を四代目に手渡した。
 
「ご苦労様! うん、特に、問題はなかったみたいだね。 
それから、明日は、悪いね・・・ 」
 
四代目は両手を合わせて拝むように、シカクに言った。
 
「いやぁ〜 一年に一度の誕生日休暇なんだから。
ゆっくりしてきてくださいよ〜!
あっ、これオレからのプレゼントです」
 
シカクは、意味ありげに笑って、後ろのポーチから小さな紙袋を取り出して、四代目に渡した。
 
「四代目、これはオレとアスマからのプレゼントです」
 
ゲンマもニヤリと口の端をあげて笑って、ハートの袋を渡した。
 
「ごゆっくりどうぞ」と言って、アスマも笑った。
 
カカシはびっくりして見ていたが、四代目はとても嬉しそうだ。
 
「うわぁ〜 ありがとう〜! みんなからプレゼント貰えるなんて思ってなかたから、
嬉しいよ!  開けていい?」
「ダメダメ! お楽しみは明日!」
「やっぱカカシのを先に開けなくっちゃ!
俺たちのは後でいいですよ!」
 
ゲンマもアスマも必死に止めた。
 
「そう・・・じゃぁ、明日カカシのと一緒に開けさせてもらうね」
 
四代目もカカシも、プレゼントはいったい何なのか、中身がすごく気になった。
 
「では失礼します」
 
ゲンマは帰り際に、カカシをつんと突いて、
「頑張れよ!」とウインクして、外に出て行った。
 
「先生、オレも買い物して来るからね」
「うん、明日の分、たぶん10時頃までかかっちゃうと思うけど」
「いいよ、オレはその間に準備してるから!」
 
カカシは、もう部屋には誰もいないのだからそうする必要はないのに、四代目にそっと近づいて、耳元で囁いた。
 
「先生・・・ 美味しいケーキ作るから、楽しみにしててね!」
 
と、天使のような微笑で首をちょこんと傾げた。
 
「うわぁぁぁ カカシィ〜 嬉しい〜!
先生、頑張って仕事ちゃっちゃと終わらせるからね! 
よ〜し! 影分身!」
「じゃぁ買い物行ってくるね〜」
 
カカシが出て行った後、四代目は、
「カカシ! ケーキ! カカシ! ケーキ! やっほ〜い♪」
と、鼻歌を歌いながら、物凄いスピードで、山積みされた書類をどんどん片付けていった。 
報告書の確認を済ませ、明日の任務配置に取り掛かった。
 
「う〜ん、困ったな・・・ これ、シカク班しか出来ないな・・・
まっ、いいか・・・」
 
カカシは、今年のケーキはオーソドックスな苺のケーキにしようと思っていた。
玉子や小麦粉、バターも木ノ葉で手に入る最高級な素材を揃えた。
 
八百屋の店先に並んでいた苺の可愛いネーミングに惹かれて、思わずパッケージを手に取った。
 
「ふふふ、 “赤いほっぺ”なんて可愛い名前だな・・・
 “赤いほっぺの苺のケーキ”なんて言ったら、先生喜んでくれるかな・・・」
 
日頃、カカシのほっぺをおもちゃのようにする先生の顔が浮かんで、カカシはクスっと笑った。
向こう着くのが遅くなるから、夜ご飯はこっちで食べていくことになる。
メインは明日のお昼にするつもりだった。
アスマが言ってたように、ふんぱつして最高級の国産牛のステーキにしよう。
 
カカシは買い物を済ませて部屋に戻り、早速ケーキ作りに取り掛かった。
特に誰に習ったというわけでもないのだが、ケーキ作りの本を見よう見真似で作っているうちに上手に作れるようになっていた。
やはり、愛しい人に食べてもらいたいとの思いがこもっていれば上達も早いのかもしれない。
スポンジケーキがふかふかに柔らかく焼き上がった。
 
「うん、大成功! クリームは向こうに行ってからね」
 
後は、簡単に夜食を作って、残りの食材をまとめて大きな袋に入れ、着替えとあのエプロンをバックに詰め込んだ。
 
「あぁぁぁ・・・ どうしよう・・・ エプロン・・・」
 
カカシは今になっても、決められなかったのだ。
 
(その時になったら、その時になったで・・・
 もう・・・ 勢いでいくしか・・・)
 
先生に喜んでもらうためなら、自分が恥ずかしい思いをすることぐらいちょっと我慢すればいいのだ。
しかし、そのちょっとがちょっとではない。
 
(先生が喜ぶなら・・・
 先生のために・・・)
 
カカシは、何度も繰り返し、自分自身に言い聞かせながら、荷造りをした。

                                                                              2007/2/20

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