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みかづき島の思い出   6
   

翌日は、朝からビーチで泳いだ。
目の前に広がる海は部屋から歩いてほんの2〜3分で行けるし、ホテルのプライベートビーチだから宿泊客しかいないので、空いている。
 
雲一つない青い空にどこまでも続く白い砂浜。
打ち寄せる波は少し高そうだ。
 
先生は、「おっしゃぁぁ〜」と、大きな声をあげながら、走って行く。
オレも先生の後を追って、走って行った。
ビーチの中央にはホテルのお店があって、食事が出来るようになっているし、
そこでいろんなものがレンタル出来る。
先生は、パラソルとチェアーを借りてくれた。
真っ黒に焼けたお兄さんが手馴れた感じでさっさと穴を掘りパラソルを広げてくれた。
 
「さっ、カカシ泳ごう〜
カカシと泳ぐなんて、久しぶりだよね。
って、海で一緒に泳いだことなんかあったっけ?
大丈夫? 浮き輪あった方がいいよね?」
「ひっど〜 先生、もしかしてオレ海で泳げないって思ってるの?」
「ん、そうじゃなくて、ここ結構波高そうだし。
まぁ、溺れそうになったら、チャクラを背中に集中させれば、浮かぶことが出来るからね。
でも、足の裏で海面を歩くのはダメだよ、他に泳いでる人もいるからさ、びっくりさせちゃうからね」

先生はTシャツを脱いで、バッグの中から、日焼け止めクリームを取り出した。
 
「はい、カカシ、Tシャツ脱いで。 クリーム塗ってあげるから」
 
先生は、カカシの背中にたっぷりと日焼け止めクリームを塗り、鼻の頭とほっぺにもちょんちょんと塗ってあげた。
 
「先生にもお願い」
 
カカシが背中を塗り終わって、正面に回り顔に塗ろうとしたら、先生は、
 
「いいよ〜 顔は自分で出来るから。
カカシに塗ってもらったら、くすぐったそうだし!」
「そぉ・・・!?」
 
ちよっぴり残念そうな顔をしたカカシを見て、先生は、
「じゃぁ お願いしようかな」
と、言って目を閉じた。
 
先生の睫毛は長くて綺麗だなと思いながら、カカシがそっとほっぺにクリームを刷り込むと、
「ひやっ・・・」
と、先生が思わず声を上げた。
 
「カカシ・・・ やっぱくすぐったいよぉ〜」
「このくらい我慢!我慢!」
 
クリームを塗り終わると、先生は浮き輪を膨らませた。
 
「波が高いから少し沖の方で泳ごうね。
カカシはやっぱり浮き輪を着けたほうがいいよ」
 
そう言って、先生はオレの頭の上からすっと浮き輪を通してくれた。
走り出す先生の後を追って、熱い砂浜の上をオレも走った。
 
「うわぁ〜 冷たい〜」
 
先生がオレに水をパシャリと掛ける。
二人で思いっきり水の掛け合いっこをした。
先生が泳ぎだして逃げるから、オレも一生懸命追っかけたけど、波が高くて中々追いつけない。
先生は遥か彼方で、「カカシ〜 早く〜 」と手を振っている。
 
やっとのことで先生のところまでたどり着けた。
先生は上を向いて、まるで海面に寝ているようにぷかぷか浮いている。
先生の金色の髪が水の反射を受けて、きらきら輝いてとっても綺麗だ。
 
「カカシ〜 気持ちいいね〜」
 
オレも先生の隣でぷかぷか浮いて青い空を見上げた。
目を瞑ると大きな海に抱かれて眠っているような気持ちになった。
こんなに長閑な時間を過ごしたのはいつ以来だろう。
 
しばらく二人で浮いていたら、ほっぺが少しひりひりしてきた。
オレは浮き輪から抜け出て、今度は浮き輪に顔を着けるようにうつ伏せになって浮いた。
 
「上を向いてると暑いね」
 
先生も顔はオレの方に向けてうつ伏せになって、浮かんだ。
背中を撫でる風が気持ちいい。
このまま、どっかに流されてしまいそうなくらい、ずっとぷかぷか浮いていた。
 
どれくらい浮いていたんだろう。時間の感覚が分からなくなった。
背中も熱くなってきたので、先生が、「戻ろうか」と言った。
オレはちゃんと泳げるところを先生に見せたくなって、浮き輪をぽんと投げた。
 
「先生、競争しよ〜」
「よ〜し!いいよ〜! 浮き輪があった方が泳ぎにくいから丁度いいハンデになるかもね」
 
オレは思いっきり泳ぎだした。
大きく腕を動かして、足を早くバタバタさせた。
横をちらりと見ると、先生はまだオレの後ろだ。
波打ち際の波が高いところでは一度波をかぶっちゃったけど、何とか乗り越えられた。
もうすぐ足が着きそうかなと思って足を伸ばしたら、砂が足に触れた。
立ってみたら、丁度胸のあたりだった。
振り返ると先生はまだ後ろの方。 
「勝った〜」と言って手を振ったら、その瞬間大きな波が押し寄せて、波に飲み込まれてしまった。
 
オレは落ち着いて、足がもう立つところなんだからと立とうと思ったけど、あれ?立てない。
慌てて泳ごうと腕を動かしたけど、全然海の中から出られない。
息が苦しくなってきた。
一生懸命、目を見開く。 明るい方はどっちだ?
遥か上の方に陽の光がキラキラ見えた。 あっちが上だ。 
オレは無我夢中で光に向かって手を伸ばした。
苦しい。 もうダメと思った瞬間、ぐいっと腕を掴まれ身体を引き揚げられた。
 
「ハァ・・・ ハァ・・・」
 
オレは大きく息を吐いた。
 
「もう〜カカシったら、びっくりしたよ、急に見えなくなっちゃうんだもの」
 
先生に抱かれて、海から上がった。
 
「だって・・・ 急に足が着かなくなっちゃって・・・」
「ハハハ〜 カ〜カ〜シ〜が溺れた〜!
海って急に深くなってることころもあるから、足が着いてても気をつけなくっちゃね!」
 
先生は笑いながら、オレをパラソルの下にそっと下ろしてくれた。
オレはちょっと悔しくなって、下を向いたら、先生がバスタオルで髪をごしごしと拭いてくれた。
 
「カカシ、どんな状況でもチャクラを練れるようにね。
たとえ、水の中でも背中にチャクラを集中させれば、すぐ浮かぶことが出来るから。
後でもう一度やってみる?」
 
オレはさっきの水に中の恐怖感がまだ残ってて、正直やりたいとは思わなかった。
 
「今日はもういい・・・」
 
小さな声でそう囁くと、先生は心配そうにオレの顔の見ながら、
 
「ん! じゃぁ、また今度ね。 少し休憩しようか」
 
そうして、先生とオレはしばらくパラソルの下で横になった。
いつの間にか、うとうとと寝てしまったようだ。
 
起きてから、お昼ご飯を食べ、午後は、砂遊びで遊んだ。
昨日、お店のお兄さんに言われたように、先生がオレに長袖のパーカーを着せてくれた。
先生ったら夢中になって、結構大きい山やらお城やら、真剣な顔して作っている。
それから、「埋めていいよ」って言ったから、先生の身体を全身砂で埋めてあげたり。
こんな遊びをしたのは、いつ以来だろうって考えたけど、思い出せない。
っていうか、もしかしたら、こんな遊びをしたのは初めてだったのかもしれない。
五歳でアカデミーを卒業してから、ずっと任務してたし。
父親が休みの日も、こんな風に遊びに出かけるなんて滅多になかった。
普通の子どもと違って、オレは父親がどんな仕事して、どれだけ疲れてるか知ってたから、休みの日に「どこかへ遊びに連れて」ってなんて、強請ったこともなかったし。
父親が亡くなって、先生と一緒に住むようになってから、先生はオレに普通の子どもらしい経験をたくさんさせてくれた。
小さなことや何気ないことでも、その時は分からなかったけど、それは、本当に有難いことだったんだ。
 
たっぷり遊んで、鼻の頭が少し熱くなってきた。
 
「お礼の親書を取りに行かなくっちゃならないからね、そろそろ帰ろうっか」
 
先生はまだまだ遊び足りなさそうだったけど、浮き輪の空気をしゅうっと抜いた。
 
部屋に戻って、シャワーを浴びて砂を落とした。
水着の跡がくっきりと付いた先生の後ろ姿を見て思わず笑ってしまった。
先生もどちらかと言うと色白だから、背中がかなり赤くなっている。
 
「先生、すっごく焼けてるよ〜」
「うわぁ〜 ほんとだ。 カカシは大丈夫?」
 
先生はオレの背中を心配そうに見ながら、
 
「長袖着ていて正解だったね。 先生はちょっと焼けちゃったかな〜? ひりひりしてきた」と笑った。
 
忍服に着替えた先生は、
「カカシはいいよ。 先生が一人で行ってくるから」と、優しく言ってくれたけど、
オレは親書を取りに行くのも任務だと思ったから、
「一緒に行く」と、さっと木ノ葉ベストを手に取った。
 
それから、二人で王宮に親書を取りに行き、親書を置きにまた部屋に戻って、私服に着替え直した。
ちょっと慌しかったけど、お昼寝もしっかりしてたから、そんなに疲れてはいない。
だってこれから、楽しみにしていたお祭りに行くんだから。
 
「これで、任務完了! さぁ〜 お祭り! お祭り!
花火大会もあるんだって! カカシ〜 行こう〜!」
 
先生はオレの手を握り、飛ぶように駆け出して部屋を出て行った。

                                                                              2007/10/30

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