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桜の約束   3
   

それから、七年が経ち、カカシは十四歳の春を迎えた。
昨年、先生は火影になり、カカシは自ら志願し、暗部に入隊していた。
 
四代目は、火影執務室の窓から外の景色を眺めていた。
火影屋敷の前にある桜の蕾もふっくらと膨らんで、もう少しで花が咲きそうだ。
 
「今年は・・・ もう、そろそろ・・・ いいかな・・・」
 
そして、時計を見て、呟く。
「今日は、近場にしておいたから、もう帰って来るかな・・・」
カカシの帰りが待ち遠しい。
 
「そっだ、アレ取って来ようっと」
 
執務室の隣の書庫に入って、一番奥にあるガラスの扉の付いた本棚の一番上に置いてあった桐の箱を取り出した。
 
「へへへ〜 カカシ、喜んでくれるかな・・・」
 
カカシの嬉しそうな顔を思い浮かべ思わず笑みがこぼれる。
執務室に戻って、桐の箱をデスクの上に置くと、ちょうど、コンコンと扉をノックする音がした。
 
「失礼します」
 
扉が開いて、カカシが入ってくる。
 
「カカシィ〜 お帰りぃ〜!」
「今日は、近かったので、早く帰って来れました。はい、これ報告書です」
 
四代目は報告書にさっと目を通した。

「うん、無事終わったようだね、お疲れ様!」

報告書を受け取るまでは火影と暗部の関係だが、出してしまえば、いつもの先生とカカシに戻る。
  
「ねぇ、カカシ、これから、カカシの修行見てあげるよ!」 
「えぇっ! ホントに? いいの?」
 
カカシはデスクの上の山積みになった報告書を心配そうに、ちらりと見た。
 
「カカシにまだ教えてなかった術教えてあげるから!」
「まだって・・・ 先生・・・ もしかして・・・?」
「ん! そう、カカシに教えてなかった最後の術、飛雷神の術だよ!」
「先生、本当にいいの? だって先生の一番大切な術を・・・」
「もちろん! オレは自分の持ってる術はすべてカカシに教えるつもりだったし。
何てったってこの術は、元々、行方不明になったちびっこカカシの捜索のために開発した術なんだよ。
それを、カカシに教えてあげられるなんてこれ以上嬉しいことはないんだよ。
まぁ、この術は、かなり難しいし、カカシのチャクラが増えてからって思ってたから、最後になっちゃったけど。
今のカカシなら、もう大丈夫かなって思ってね」
「先生・・・」
 
飛雷神の術といえば、四代目が「黄色い閃光」の通り名の所以となった瞬身を超える「神速」の高速移動の時空間忍術だ。
 
「それに、オレも火影なんかになっちゃったからさ、いつどうなるか分からないし。
この術がオレだけに終わってしまうのもイヤだったから。 
でも、教えるのはカカシだけだよ。 
っていうか、他の奴等にはちょっと無理っぽいしね」
「オレに出来るかな・・・?」
 
不安げにつぶやいたカカシの頭を、四代目はくしゃくしゃっと撫でた。
 
「カカシなら出来るよ! じゃぁ、早速始めるよ、ここに座って」
 
四代目は、桐の箱をソファーの前のテーブルに置き、カカシの隣に腰を降ろした。
 
「飛雷神の術はね、口寄せの術の応用で瞬身の術を融合させた技なんだよ。
術それ自体は、たぶんカカシの写輪眼でもコピー出来る。
でも、物凄くチャクラを使うのと、とても繊細なチャクラコントロールが必要になってくるから。
それに、実は、術の発動よりも時空間を高速移動するための術式の計算の方がとても難しいんだ。
数学物理学を基本にして、応用物理学の分野に、宇宙物理学の範囲も加えているからね。
普通の人には難しい・・・ っていうかちょっと不可能かも」
 
いつもふざけている先生からは考えられないような難解な言葉が次々と飛び出てくる。 
カカシは目をパチクリさせながら、先生の話を興味津々に聞いていた。
 
「着地点を計算する方程式に座標を入れて計算する。
少しでも間違えたら、とんでもない所に飛ばされちゃうからね。
オレも、開発中は、カカシの所に行くつもりが、何故か、自来也先生の所に飛ばされて慌てたこともあったんだよ〜」
 
四代目は、当時のことを思い出して、くすっと笑った。
 
「大丈夫! カカシには、写輪眼があるから、難しい方程式もコピーできるしね!
それから、カカシも分かってると思うけど、この術には遠距離用と近距離用の2つのタイプがあるんだ。
遠距離は主に移動用で、オレはかなり遠くまで飛んで行けるけど、もちろん、消費チャクラは移動距離に比例するから、遠くへ飛ぶ時は、帰りのチャクラも残しておかないと、帰れなくなったら大変だからね。
まっ、いきなり最初から遠くへは無理だから、慣れてきたら、少しずつ距離を延ばしていけばいいよ。
自分で飛んでみるようになると、大体これくらいは飛べるって距離感が掴めてくるから、心配なうちは決して無理しないようにね。」
「うん。分かった」 
「そして、近距離タイプは実戦の戦闘向け。
ほら、オレはクナイに術式を付けておいだでしょ。
敵に向って投げて、後は影分身でクナイに向ってぱっと飛んでいく。
これなら、大勢の敵でも一瞬にして片付けられるし。 
追跡用や少人数の敵の時に対しては、掌にチャクラを集中させて、術式を作る。
相手の身体に触れて印を付ければ、相手を見失っても、付けた印に飛んで行けるからね」
   
カカシは今までの先生との戦闘の数々を思い出していた。
どんなに大勢の敵を前にしても、この術があったから、何の不安もなく自分のなすべき任務に集中出来たのだ。
木ノ葉の里の発展にも、輝かしい実績を残し大きな貢献をした、まさに四代目の看板忍術なのだ。
 
こうして、四代目からカカシへ、最後の術の伝授の修行が始まった。
 

                                                           2007/4/27

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