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桜の約束   4
   

「じゃぁ、最初に術式のコピーから始めるよ」
 
四代目は、さっと素早く印を組んだ。
 
「解!」
 
桐の箱に貼ってあった封印の札がぱっと消えて無くなった。
蓋をそっと開け、紫色の布に包まれた巻物を三巻取り出した。
 
「巻ノ一には、一番大切な術式が書いてある。
巻ノ二は、術式の原理や術式への座標の当てはめ方。
まっ、マニュアル本ってとこ。
巻ノ三には、オレが今まで行ったすべてのアクセスポイントのデータが書いてある。
カカシも自分用に一と二は写してね。
三には、これから作るカカシのアクセスポイントを書いていけばいいよ!」
「えっ、 オレのを作るの?」
「うん、そうだよ、この巻物のバックアップは取ってないから、万が一の時のためにカカシのがあれば安心だしね」
「万が一って・・・ 先生・・・ さっきから、いつどうなるか分からないとか・・・
どういう・・・ 」
 
カカシは先生の何気ない言葉が引っかかり、言葉の真意が読み取れなくて動揺してしまった。
 
「カカシったら、心配し過ぎだってば! そんな深い意味はないからさ。
オレもこれでもいちよう火影なんだよ。 
危機管理対策とか、ちゃんとしてるつもりなの。
はいはい、さぁ、やるよ!」
 
四代目は、巻ノ一をするりと開いてカカシに見せた。
難しそうな方程式がずらりと並んでいる。
カカシは不安気に覗き込んだ。
 
「ハハハ〜 カカシ、そんなにびっくりしなくていいよ。
式の意味が分からなくたって大丈夫。
もう、出来上がった方程式をコピーして丸暗記するだけだからね。
じゃぁ、写輪眼用意して」
 
カカシは、こくりと頷き、息をすうっと深くすってチャクラを集中させた。
 
「写輪眼!」
 
カカシの紅の瞳がくるくると回りだした。
巻ノ一の術式をコピーした。
読み取った術式がすべてカカシの脳内に刻まれていく。
 
「はい、完了」
「いいよな〜 カカシは。 オレこれ覚えるの結構苦労したんだよ〜
滅茶苦茶長いし。 はい、次は巻ノ二ね」
 
四代目が巻ノ二を開くと、カカシはもう一度、チャクラを集中させ、写輪眼でコピーをした。
 
「こっちもOK!」
 
「カカシ、大丈夫? 後はコピーした術を新しい巻物に写すだけだから。
写輪眼使ったから、疲れたでしょ、少し休憩しよう。
夜ご飯、先に食べちゃおうか」
「まだまだ、平気だよ! 続けてもいいけど?」
「いやぁ〜 オレの方が・・・ もう、お腹空いちゃって・・・ えへへ〜」
 
四代目は恥ずかしそうに頭を掻いた。
 
四代目が火影に就任するまでは、カカシがご飯の仕度もしていたが、さすがに火影ともなれば、専用の料理人が付いて三食用意してくれる。
二人はリビングに行って、夕食を済ませ、もう一度、火影執務室に戻って来た。
 
四代目は、デスクの引き出しから新しい巻物を三つ取り出して、カカシに渡した。
写輪眼でコピーしたものを写すだけだから、さほど大変な作業ではない。
カカシの手が、すらすらと動いて術式を書いていく。
二巻とも写し終わり、四代目は念のため間違いがないか確認した。
 
「ん! 完璧だ。 じゃぁ、少し解説するね」
 
四代目は、これが、遠距離用、これが近距離用、そして、これが相手に付ける時のものと次々に難解な方程式を指差した。
それから、一つずつ、カカシにも分かりやすい言葉で方程式の内容を説明していった。
 
「カカシにも内緒にしてたけど、実はね、この遠距離用の式の最後に時間を掛ると過去のポイントまで飛んで行けるんだよ!」
「えぇっ! ホントに? 凄い・・・ 先生・・・」
 
高速移動だけでなく時をも移動でいるというのか、カカシはあまりの衝撃に言葉が出てこなかった。
 
「まっ、これはオレでもかなり難しいんだけどね。
時間も距離と同じで、チャクラの消費量は、遡る時間に比例するから。
過去に行こうとすればするほど、莫大なチャクラを使うことになる。
数時間前くらいだったら、大したことなはいけど。
何日、何ヶ月なんてのはさすがにキツイよ。
それに、とにかく絶対人に姿を見られてはいけないし、歴史を変えることは出来ないから、他人や何かに触れることは許されないしね。
書類をどこにしまったのかを思い出せない時とかに、そっと見に戻るくらいだな。
オレもよっぽどの事がないと使わないよ」
 
カカシは整理整頓が苦手な先生が、あんなに山積みの書類の中から、どうやって目当てのものを探すことができるのか不思議に思ったことが何度もあったので、こんなことにも使える飛雷神の術の秘密を知って本当にびっくりした。
 
「でも、さすがに未来には行かないようにしてる。
理論的には可能なんだろうけどさ、見たくないもの見ちゃったらイヤだし、行ってみて、自分がいなかったらなんて思うと怖いしね〜 ハハハ〜」
「先生・・・ そんな・・・」
 
カカシは先生がいない未来なんて、今まで一度も考えたこともなかったので、そんな風に言われてドキっとした。
 
「冗談、冗談。 はい、今日はここまでで終わり!
明日からは、この方程式に目的地の座標を入れて計算するところまでやるよ。
そして、次はその計算通りに飛べるか、先生と一緒に飛んでみる。
それが出来たら、今度はカカシ一人で術式を作る、そして一人で飛んでみる。
もちろん最初は里内の近い所だけ。
飛べるようになったら、だんだん距離を伸ばしていく。
少しずつ進めていくから大丈夫だよ!
そうだな、今のカカシだったら、一週間もすれば、マスターできると思うよ」
「えぇ・・・ 本当に?」
「カカシ、ちょうどその頃が桜の見頃だと思うけど。
今年はカカシにあそこまで連れて行ってもらおうかな〜」
「出来るかな・・・」 
「ちゃんと目標立てた方がいいでしょ! 
今週は、近場の単独任務にしてあげるからさ、帰ってからでも充分修行出来るよ」
「分かった、 オレ頑張る!」
「あぁ、何だかしゃべり過ぎて疲れちゃった・・・ 
ねぇねぇ〜 カカシィ〜 お風呂入って早く寝よ〜!」
 
四代目は、嬉しそうににっこり笑って、カカシの手をぐいっと引いて歩き出した。
 
「えっ・・・ ちょっ・・・ 先生・・・ 待ってよぉ・・・
今日は写輪眼使っちゃったから・・・ そっ・・・ そんなぁ・・・」
 
カカシの言葉は聞こえないふりをして、四代目は、火影服をぱっと脱ぎ捨ててお風呂場の扉をがらっと開けた。
 

                                                           2007/4/28

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