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桜の約束   5
   

それからカカシは、毎日四代目の課題を難無くクリアし、修行もいよいよ最終段階に入った。
 
「カカシ、今日は終末の谷まで飛んでみようか。
あそこまで行けたら、あの桜までは充分飛べるからね。
はい、これが終末の谷の座標だよ」
「ちょっと緊張するけど・・・ 」
「大丈夫だよ、カカシ、自信持って!
チャクラの準備が出来たら言ってね」
 
カカシは、目を瞑って、ふうっと深呼吸をして、呼吸を整えチャクラの準備をした。
 
「先生、お願いします」
「よ〜し、じゃぁ、行きますか!
別々に行って万が一失敗したら困るから、一応オレも一緒にね。
ちょっと重いかな、我慢してね」
 
四代目はカカシの背におんぶしてもらった。
カカシは、終末の谷の術式を唱えた。
 
「飛雷神の術!」
 
ビュ〜ン!
 
二人は時空の狭間を飛んで行った。
ドンと着地した所は、終末の谷の初代火影の巨大な像の頭の上だった。
  
「やったぁ〜 大成功だよ!
一週間でよくここまで飛べるようになったね。
やっぱカカシは凄いよ! これであの桜の下でお花見できるね〜!」
「先生、ありがとう」
「カカシ、明日はカカシスペシャル鮭おにぎり作ってね〜!
おにぎりは何てったってカカシのが一番だからね!」
「うん、でも、先生仕事は大丈夫なの?」 
「もっちろん!
カカシは休みにしてあげるし、まっ、さすがに火影がお花見なんてバレたら、また三代目に怒られちゃうから、分身を置いて行くからね。
さぁ、帰りは明日のチャクラの温存のために、オレが飛んであげるよ」
「まだ、チャクラは十分に残っているから、このくらいなら帰れるけど」 
「へぇ〜 カカシもチャクラ量掴むの上手くなったね!
帰りのチャクラが残ってるって分かったら、今日の修行は合格!
本番は明日だから。最終試験受かったら、ちゃんと立派な合格証あげるよ〜ん!」
 
帰りはカカシが四代目の背中に乗って帰って行った。
 
翌日、カカシは早起きをして四代目の大好きは鮭おにぎりをたくさん作ってリュック詰め込んだ。
 
「これでよしっと。 準備完了。
そろそろ先生起こさなくっちゃな。
昨日の晩は今日の分までって随分遅くまで仕事してたから、可哀想だけど・・・」
 
スースーと気持ち良さそうに寝息をたてている四代目の寝顔を見て、カカシは一瞬と惑ったが、でももう本当に起こさないと折角のお花見の時間が少なくなっちゃう。
思い切って掛け布団とパッと捲った
 
「セ〜ン〜セ〜ェ 起〜き〜て〜よ! 
今日はお花見行くんだよ〜 おにぎりいっぱい作ったからさぁ〜」
 
寝起きの悪い四代目を起こすのは、毎日一苦労だったが、さすがに今朝はお花見の言葉に一発で目を覚ますことが出来た。
 
「おはよ〜 カカシィ〜 
くんくん  おぉっ! いい匂いがするぞ〜!
もしかしてこれは・・・ カカシスペシャル鮭おにぎり!」
「えっ? もうリュックに詰めちゃったけど、まだ匂う? 先生、鼻きくね〜」
「そりゃぁ、カカシの作った料理は何でも分かるし!」
 
まるで、遠足にでも行く子どものようなはしゃぎぶりだ。
二人は朝食を簡単に済ませて、出かける準備をした。
 
「はあぁ・・・ 何かドキドキしてきた・・・」 
「絶対大丈夫だって! 
終末の谷と距離はほとんど変わらないんだよ!」
 
カカシは、昨日の晩から、もう何度も術式の確認はしている。
 
「じゃぁ、オレは先に執務室に行って、分身置いて、仕事の指示してくるから、ここで待っててね」
「うん、分かった」
 
カカシは目を閉じて、満開の桜を頭に思い浮かべ、最後のイメージトレーニングをした。
 
「よし、行ける!」
 
しばらくすると、四代目がハァハァと肩で息をしながら走って戻って来た。
 
「カカシィ〜 さぁ行こう!」
「先生、宜しくお願いします」
 
カカシはぺこりと頭を下げた。
修行の開始はちゃんとけじめをつける。
 
「それでは、はたけカカシ君、これより、飛雷神の術の最終試験を行います。
今日は、あの桜の木まで一人で飛んで行きなさい。
先生も後から飛んで行くから」
 
四代目も真面目に答えた。
 
「はい」
 
カカシは、チャクラを整えて、素早く印を組んだ。
 
「飛雷神の術!」
  
ビュ〜ン!
 
 
 ドンと着地して、カカシが恐る恐る目を開けると、そこはあの桜の木の下だった。
三秒くらいして、四代目も着地した。
 
「やった〜 カカシィ〜 合〜格!!」
 
四代目はカカシを抱きしめて、上に持ち上げぐるぐると回った。
 
「先生・・・ ありがとう・・・」
 
四代目は、カカシを降ろして、辺りをぐるりと見回した。
満開の桜がまさに今が見頃と咲き誇っている。
 
「わぁぁ〜 今年も見事だねぇ〜
最高のお花見だね!」
 
四代目は早速、リュックからシートを出して敷いて、よいしょっと腰を下ろした。 
カカシもほっとしたら、何だか身体の力がふっと抜けて、隣に座り込んだ。
 
「本当にここの桜は綺麗だねぇ・・・ 
カカシ、古の人はね、大雪が降った年は豊作、桜が早く散った年は凶作という占いがあったらしいんだよ。
だから、桜には長く咲いていてもらいたいと願ったそうだ。
案外、昔はお花見と言っても、ただ見ていただけじゃなくて、祈祷の儀式みたいなものだったのかもねぇ。
もっと神聖な気持ちで桜を見ていたのかなぁ?」
「じゃぁ・・・ オレも・・・」
 
カカシはすっと目を閉じ両手を胸の前で合わせた。
 
「桜が早く散らないようにお祈りしておきました」 
「おぉっ! 偉い、偉いなぁ〜 カカシは。
はい、じゃぁ、オレも」
 
四代目も、そっと目を閉じ、両手を胸の前で合わせて祈りを捧げた。
でも、中々目を開けない四代目。
カカシは、もう一度自分も手を合わせた。
 
(先生・・・ 長いな・・・)
 
「これでやっとひとくぎりついた・・・
オレの術はすべてカカシに教えることが出来たんだし・・・」
 
四代目が目を開きふと呟いた。
 
「先生・・・ 何を・・・?」
 
カカシは、言ってる事の意味が分からず不安そうな顔で四代目を覗き込んだ。
四代目は優しく微笑んで、
 
「ハハハ〜 ちょっと他のこともお祈りしちゃった。
何かここで祈ると何でも願いが叶いそうな気分になっちゃってね。
カカシのことだよ。」
「えっ? オレのこと?」
「これで、自分の術は全部カカシに教えるっていうオレの夢が叶った訳だけど、また次の夢が叶うようにってね。
人間て貪欲だよね、次から次へとさ。
カカシ、師匠の夢はさ、弟子が自分を追い越すことなんだよ。
自分の持てるものすべてを教えて、そして自分以上に育てる。
それが師匠ってもんでしょ。
オレはやっとその最後の術を教えることが出来たんだ。 
後は、カカシがオレ以上の忍になるよう育てることがオレの役目。
オレは本当に幸せ者だ、カカシみたいな弟子を持てて」
「オレが先生を超える・・? 
そんなの絶対無理・・・」
「何言ってるの! カカシには写輪眼があるんだよ!
たくさんの術をコピーして、それを元に応用して自分のオリジナルを加えていけば、どんな術だって出来るようになる。
木ノ葉一はもちろん、やがては五大国中にカカシの名前が轟き渡るよ!
で、オレはその凄いカカシを育てた師匠って名前が残る訳。
えへへ〜 いいな〜 それ!
そうだ、ここで約束しよう、カカシ。
必ずオレを超える忍になるってことを。
まぁ、正直言って色々大変なこともあるけど、でもオレは火影をカカシに継がせたいんだ。
カカシ以外は考えられないし」
「オレが・・・ 火影・・・?」
 
突然言われてカカシはびっくりした。
四代目が好きで、ただ四代目の役に立ちたいと思って任務をこなしているだけだった。
年中無休の先生を見ていると、火影なんてなりたいなんて思ったことはなかったが、まさか、こんな自分にそこまで期待してくれてるとは。
でも、そんな師匠の思いに何としても応えていきたいと思うカカシだった。
  
「ごめんね、びっくりしゃったね。
でも、ずっと思ってたことだから。
飛雷神の術をカカシが出来るようになったら、言おうと思ってたんだ。
これからも、ビシバシ鍛えるから、覚悟して付いて来てね!」
「先生・・・ 火影になれるかどうかは別としても、先生にそう言ってもらえて嬉しいよ。 
これからも一生懸命頑張るから、宜しくお願いします」
「こちらこそ、宜しくね、カカシ!
はい、じゃぁ、これから、飛雷神の術の合格証をあげます!
はたけカカシ君は飛雷神の術を見事に自分のものにすることが出来ました。
合格で〜す! おめでとう!」
 
四代目は、カカシのほっぺにちゅっとキスをした。
 
「へ・・・? 先生、これが合格証?」
 
カカシは、もう少しまともな・・・ せめて何か形に残るものを期待していたのだが・・・
 
「ううん、これからだよ・・・ カ ・ カ ・ シ ・・・ 」
 
そう言って、突然四代目はカカシを抱きしめ押し倒した。 
 
「ぎぇぇ〜 うそ・・・ まさか・・・」
「何、カカシったら、もしかして合格証って何か期待してたの? 
そんな紙切れ一枚より、こっちの方がずっと思い出に残ると思うけど・・・」
「だって・・・ もし人が来たら・・・
先生、おにぎり食べようよぉ・・・」
 
恥ずかしそうに頬を赤く染めるカカシ。
 
「平気! 平気! 今までここで人に会ったことなんて1回もないでしょ〜!
おにぎりは後でね!」
 
風がぴゅーっと吹き、桜の花びらがはらはらと舞い降りた。
そして、四代目も優しいキスをたくさん降らせて、カカシの身体に紅い花びらをたくさん落としていった。
 
 
「せ ・ ん ・ せ ・ ぇ ・・・」
 
「ありがとう・・・ カカシ・・・ 
オレの術を・・・ 嬉しいよ・・・」
 
 
雪のように降り注ぐ桜の花びらの下で、二人は一つに溶け合って、甘い甘いひとときを過ごした。
 
 
 
 
カカシの呼吸が整うのを待って、四代目はゆっくり体勢を変えて、カカシの隣に戻った。
カカシが仔猫のように腕にすっぽりと入り込んでくる。
銀色に輝く髪に手を入れ優しく撫でる。
 
 
「先生・・・ 桜に見られちゃったよ・・・」
 
まだほんのり赤い顔をしたままのカカシが恥ずかしそうに小声で呟いた。
 
「さっきちゃんとお祈りしたから桜がオレの夢を叶えてくれた・・・」
「えっ? 何・・・ 先生・・・ そんなこと・・・」
「ふふふ〜 それはね・・・ ずっと前から・・・ 毎年ここに来るたびに・・・ 
いつかは・・・  って・・・ 思ってたよ・・・」
「先生・・・」
「ここでカカシを抱くのがオレの夢だったから。
今日は、二つもいっぺんに夢が叶うなんて、幸せ過ぎて怖いくらいだね〜
でも、来年からはどうしよう・・・?
何か別の夢考えなくっちゃな・・・ ムフフ・・・」
 
「別のって・・・ 何それ・・・ もう・・・
先生、あんまり変なこと考えないでよ・・・ 」
 
カカシはほっぺをぷっくりと膨らませた。
 
 

                                                           2007/5/15

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