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桜の約束   7
   

その年の秋、十月十日の夕暮れ時・・・
突然、九尾の妖狐が木ノ葉の里の森の近くに現れた。
 
すぐに、里には最高ランクの超厳戒体制が敷かれ、忍達はそれぞれ決められた持ち場に就く。
年配者や女性、子ども達の避難も迅速に進められた。
カカシは、火影執務室で待機していた。
 
「ちょっと、準備してくるから、カカシはここで待っててね」
と、四代目に言われて待機しているのだが、一分一秒がとてつもなく長く感じられる。
どんな作戦なのかも、まだ何も聞かされてなかった。
窓から、木ノ葉の森の方角を見ると、禍々しい膨大なチャクラが上空に立ち昇っているのが、はっきりと見えた。
身体がわなわなと震え、早く皆の所に飛んで行きたい気持ちを抑えるのに必死だった。
 
(先生は・・・ 何をしてるんだろう・・・)
 
しばらくして、やっと四代目が戻って来た。
腕に大事そうに抱えていたおくるみのようなものをそっとソファーに降ろした。
そして、引き出しから、二本の巻物を取り出して、カカシに渡した。
 
「カカシ、今から任務を言い渡す。
カカシはオレに付いてもらうよ。
今からすぐこの巻物コピーして!
九尾の封印術 『屍鬼封尽』だ。
ごめん、カカシ、飛雷神の術が最後だって言ってたけどさ、あの時はまだ、これ完成してなかったし。
これから、オレのとっておきを教えてあげるよ!
死神を召喚して、九尾の魂を抜き出してこの赤ちゃんに封印してもらうんだ。
どう? 凄いでしょ〜」
「死神・・・!?」
 
カカシはびっくりして、言葉も出てこない。
 
「オレは他の里みたいに、尾獣を人柱力にして、武器として利用しようなんて思わない!
でも、尾獣の膨大なチャクラは大きな力になることは確かだ。
だから、オレは人柱力を、別の方法で何か良い形で利用できないかなと前から考えていたんだ。
他の里で悪用されるくらいだったら、木ノ葉で封印しておいた方がいいしね。
いつかチャンスがあったらって、封印術をずっと研究してたんだよ。
まさか、こんなに早くチャンスが訪れるなんてね!
オレって、超ラッキー?」
 
カカシは写輪眼を発動させ、巻物をすぐにコピーした。
今まで見たこともないような複雑で難解な術式が書かれている。
ぱっと見ただけでも、相当高難度な術だということだけは分かった。
四代目はもう一つの巻物の方をするりと開いた
 
「こっちは、死神との契約書ね。
万が一の時のために、カカシと三代目もお願いしちゃった。
その死神スッゲーいい奴で、オレと気があっちゃてさ、特別に二人の追加を認めてくれたんだよ。
封印術は完璧だから、絶対成功する自信はあるけど。
でも、何てたってこればっかは実戦で試したことはないから、そこがちょっと心配なだけ。
だから、成功率は99.99%ってとこかな。
カカシは、オレの側にいて、オレが封印術を始めたら、すぐコピーすること。
分かった? 」
 
四代目は、巻物の一点を指差した。
 
「そして、もしも、残り0.01%の確率でオレが失敗したら、ここだけ、こっちの二番目の式に変換して、すぐカカシがもう一度封印術を仕掛けること。
いいね?」
 
四代目は早口で指示をした。
カカシはあまりの展開に急に不安になってしまった。
 
「先生が失敗した術をオレがもう一度って・・・ 
そんなこと・・・ 出来ないよ・・・」
「何言ってんの! 今は出来る出来ないとかの問題じゃないでしょ。
誰かが、やらないとならないんだ!
オレとカカシで里を守らなくちゃね!
今の木ノ葉でこの術が出来るのはオレだけ。
そして、出来る可能性があるのはカカシだけなんだよ!
さっき、一応三代目にも見せてきたんだけど、やっぱ、いきなりこんな複雑な術は無理だって。
でも、カカシには、写輪眼があるんだよ。
もっと、自信持って! 
って言うより、オレが絶対失敗しないからさ、大丈夫だよ!」
 
そう言って、四代目はカカシの髪をくしゃくしゃっと撫でた。
カカシも、絶対大丈夫との言葉にやっと落ち着いて、こくりと頷いた。
 
「了解しました」
「じゃぁ、出発! 蝦蟇親分に乗って行くからね!
カカシと一緒に前線に立てるなんて、何時以来だろ?
嬉しいなぁ〜 何だかワクワクするよ!」
 
四代目は、火影服をぱっと羽織って颯爽と歩き出した。
カカシもすぐ後に付いて、勢いよく歩き出した。
四代目の笑顔を見たら、不思議と、もう迷いも不安も消えていた。
すると、突然、四代目が振り返ってカカシの方に向き直った。
勢いよく歩いていたカカシはそのまま四代目の胸に飛び込んでしまった
 
「うわっ・・・ 先生・・・」
「悪い、悪い やっぱ、ちょっと待って、九尾封印大作戦の成功のために・・・
カカシ・・・ おまじないして・・・」
「えっ・・・!?」
「えへへ〜 カカシからさ・・・  その・・・ 」
「何? 先生・・・?」
 
四代目は急に恥ずかしそうに、甘えた声を出した。
 
「だからさ・・・ カカシからチュウしてくれたら・・・
オレ、絶対この術出来そうな気がする・・・ 
ねっ、お願い、カカシ! いいでしょ〜!」
「もぅ、先生ったら・・・ こんな時に・・・ 何言ってるの・・・
それに、さっき、絶対大丈夫って自信満々だったじゃない!」
 
紅く染まったほっぺをぷっくりと膨らませているカカシが可愛くて堪らない。
思わずカカシをぎゅぅっと抱きしめた。
 
「ねっ、カ ・ カ ・ シ ・・・」
 
四代目はすっと瞳を閉じて、待っている。
まったくいったい何のおまじないだか・・・
ちょっと呆れたカカシだったが、瞳を閉じて待っている四代目の顔がとても綺麗で・・・
あぁ、やっぱり先生には敵わない・・・ 
カカシはちょっと背伸びをして、四代目の唇にちゅっと触れるだけのキスをした。
こんな時に自分達は、何をしているんだろうと思ったが・・・
術の成功のため、木ノ葉のためと自分に言い聞かせて・・・
 
一瞬だけ、時が止まったような気がした・・・
 
 
「うわ〜い! カカシからキスしてくれるなんて!
最高〜! とっても嬉しい!
もう、今のキスでチャクラ全開フルパワー!
ありがとう、カカシィ〜!」
 
 
四代目は、ソファーの赤ちゃんをそっと抱き上げた。
 
「カカシ、今日生まれたのはこの子だけだったんだよ。
何て運の強い子だろう。 この子は、将来木ノ葉の英雄になるんだ。
凄いよね〜!  何かさ、金髪でオレにちょっと似てない?」
 
四代目は、どこか嬉しそうな、そして、穏やかな顔で赤ちゃんを覗き、頭を下げた。
 
「少しの間、我慢してね」
 
その光景を微笑ましく見ながら、まだ、何も分からない赤ちゃんに頭を下げた四代目の姿にカカシは感動した。
そして、きっと封印術は成功すると確信した。
 
「さぁ、カカシ、行くよ!
さっさと終わらせちゃおうね!」
 
 
そう言って、四代目はカカシににっこり笑ってウインクした。
カカシも思わず微笑んだ。
 
四代目は、本当に自然に、いつもと変わらない笑顔で火影執務室を出て行った。
 
 
この時・・・
 
 
二人とも・・・
 
 
これが、まさか最後のキスになるとは・・・
 
 
思ってもいなかった・・・
 
 
数時間後に・・・
 
 
あんな形で、火影執務室に戻るとは・・・
 
 
夢にも思っていなかった・・・
 
 
 

                                                           2007/5/24

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