桜の約束 8
いつもは綺麗な茜色に染まる木ノ葉の空が、九尾の妖狐から放たれた邪悪なチャクラで、毒々しい色に染められていた。
四代目は、蝦蟇親分を口寄せした。
「親分、九尾が現れた! 緊急事態だ、今日はカカシも乗せるから、頼んだよ!」
カカシは深々と頭を下げた。
「九尾の奴が・・・ よっしゃぁ、任せておけ。
カカシ、振り落とされるなよ!」 四代目とカカシは蝦蟇親分に乗って、一気に九尾の前まで飛んで行った。
最前線では、里の忍達が命掛けの死闘を繰り広げていて、壮絶な修羅場と化していた。
自分達の攻撃が、九尾にとって、痛くも痒くもないという事は充分承知している。
しかし、「九尾を里に近づけるな、四代目が来るまで、足止めを掛けろ」という自分達に与えられた任務を精一杯全うすることだけを考え、持てる術全てを出し切って攻撃を仕掛けているのだ。
(四代目が来れば・・・ 必ず・・・ )
そう心に言い聞かせて、必死で、持ち場を守った。
すでに、かなりの負傷者も出ている。
皆が四代目を待っていた。
忍達の攻撃など、物ともせず、九本の尻尾を振り回し、じりじりと九尾が里に近付いて行く。
と、その時、突然、
皆の目の前に大きな影が現れた。
蝦蟇親分に乗った四代目とカカシが颯爽と登場したのだ。
「四代目だ〜!」
わ〜と大きな歓声が上がった。
「お待たせ〜 遅くなって悪かったね!
みんなよくやってくれた。 もう、下がっていいよ。
後はオレに任せて!」
四代目の一声に、皆ほっとした。
これで、大丈夫と、最前線から少し引いたところで待機した。
九尾の妖狐は、この世のものとは思えない禍々しいチャクラを四方に放ち、突然目の前に現れた、四代目をじろりと睨んだ。
(これが・・・ 九尾の妖狐・・・)
四代目は、威風堂々と、微動だにしないで九尾を睨み返した。
(お前を永遠の地獄から救ってやる・・・
これからは、木ノ葉のためにそのチャクラを貸してくれ・・・)
「カカシはそこに立って、コピーが終わったら後ろに下がること。
長期戦になるけど、気を抜かないで、九尾の動きとこの子をちゃんと見ていること。
何か変化があったらすぐ教えて。
たぶん、足りると思うけど、もし、オレのチャクラが足りなくなったら、カカシのチャクラを頂戴ね!
それから、さっき言ったこと忘れないで。
万が一、失敗したら、次はすぐカカシが仕掛けるんだよ、いいね!」
四代目は、カカシに立ち位置を指さし、早口で指示を与えた。
そして、右手をカカシの前に差し出した。
四代目が隊長だった時は、いつも任務開始の前にこうして皆の手を重ねて、心を合わせ、出発した。
カカシも、四代目の手の上に自分の手を重ねた。
「はい!」
「よし、カカシ、行くよ〜!」
「屍鬼封尽!!!」
複雑な印が物凄いスピードで組まれていった。
もちろん、カカシはそれを完璧にコピーする事が出来た。
四代目の後に、巨大な死神がすぅっと現れた。
(あれが・・・ 死神・・・)
想像してたよりも、どこか優しい顔をしている。
カカシは、何故か、死神が自分を見て笑ったような気がした。
死神の呪印が刻まれた大きな腕が九尾に向って、ゆっくりと伸びていった。
「そこだ! しっかりと捕まえて!」
四代目が大きな声で叫んだ。
突然、身動きが取れなくなった九尾がびっくりして暴れだす。
さらに、凄まじいチャクラが放たれた。
カカシは、思わず足元がふら付いた。
「カカシ、コピーは出来たね。 もう後ろに下がっていいよ。
ヤツもそう大人しく入ってはくれないから、封印にはまだまだ時間がかかる。
しっかり、サポートを頼むよ」
九尾が暴れるから、蝦蟇親分もじっとしてられない。
放たれたチャクラで飛ばされないよう、必死で踏ん張っている。
そして、四代目も両足を開きしっかり踏ん張って、全身からチャクラを死神に送り続けている。
いったいどれくらいの時間が過ぎたのだろう。
実際には、小一時間だったのかもしれないが、カカシには、とても長く感じられた。
ぎゃぁぎゃぁと悲鳴を上げながら暴れ続ける九尾の身体から、死神の腕が青白い塊のようなものを少しずつ、抜き出しているのがはっきりと見えた。
「もう少しだ!」
四代目は、おくるみに巻かれた赤ちゃんを大事そうに抱き、そのまま上昇し、死神の方を向いて赤ちゃんを天高く翳した。
すると、死神から一筋の青白い閃光が煌めき、赤ちゃんに吸い込まれていった。
「ギャァァァァ〜」
死神に魂を抜かれ続けている九尾の妖狐が断末魔の叫び声を上げた。
もう、自らの意思で身体を動かすことはほとんど出来なくなっている。
しかし、苦しみもがきながらも、残り僅かなチャクラを振り絞って、これが最後とばかりに攻撃を仕掛けて来たのだ。
死神から、「封印完了」と声が聞こえたのと同時に、真っ赤なチャクラの大きな塊が、四代目に向って放たれた。
「うわぁぁぁ〜 カカシィ〜」
四代目もカカシも吹き飛ばされた。
「おんぎゃぁ〜 おんぎゃぁ〜」
赤ちゃんの泣き声で、はっとカカシは目を覚ました。
しかし、カカシの目の前には信じられない光景が映し出された。
赤ちゃんをしっかり抱いたまま、横向きに倒れて動かない四代目の姿が・・・
何時しか暮れた宵の空に煌々と輝く満月の光りに照らされて、
透き通るように白く輝く四代目の綺麗な横顔が・・・
「先生! 先生! 先生〜!!!」
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2007/6/5