桜の約束 9
九尾の妖狐の封印は成功した。
しかし、四代目の受けたダメージは想像以上に大きかった。
カカシは、先生、先生と呼びながら、四代目の身体を揺すった。
「ん・・・ カ ・ カ ・ シ・・・ 大丈夫?
やったね・・・ 大成功・・・
あぁ・・・ でも・・・ 何だか身体が動かないよ・・・
カカシ・・・ 悪い・・・ ちょっと、この子・・・ 頼む・・・」
顔色は真っ青で、どうやら身体を動かすことも出来ないようだ。
「綱手様〜 綱手様! 先生が・・・ 先生が・・・」
カカシは、今まで見たこともない四代目の姿に驚き、大声で綱手を呼んだ。
「親分、先生をそっと下に降ろして!」
「あぁ、何とか片付いたようじゃな、ワシももう限界だ。 これで、帰らせてもらう」
待機していた綱手と医療班がすぐ駆けつけた。
しかし、四代目の姿を見て、綱手の顔が曇った。
「ここじゃ、何も出来ない。 木ノ葉病院に運ぶぞ!」
「綱・・・・ 手・・・ 様・・・ 病院はいやだ・・・ 大丈夫だから・・・
火影室へ・・・ 連れて行って・・・」
途切れ途切れの声で、四代目は綱手にお願いした。
自来也も駆けつけた。
「カカシ、 その子はワシが見る、お前は四代目に付いてやってくれ」
カカシは自来也に赤ちゃんを預け、四代目に付いて火影室に戻った。
火影室では、綱手と医療班がすぐ治療を始めた。
大きな外傷はないものの、経絡系へのダメージは致命的なものだった。
四代目の意識は朦朧としている。
綱手は、胸に手を当てて、大量のチャクラを送り続けている。
周りでは医療班が、これから綱手が施す最高難度の医療忍術の術式を書き始め、準備をしていた。
しかし・・・
綱手は、胸に当てていた手をそっと戻し、下を向き、首を横に振った。
医療班の手がぱたりと止まった。
カカシには、信じられなかった。
その意味を打ち消す様に、さらに大きな声で、先生、先生と呼び続けた。
綱手は、医療班を外に出し、部屋には綱手と三代目、自来也、カカシだけが残った。
「カカシ・・・ カカシ・・・」
四代目がうわ言のように繰り返す。
「先生、先生・・・ オレはここにいるよ。
もう、大丈夫だよ・・・」
カカシは、溢れる涙を拭おうともせず、四代目の手をぎゅっと握り締めた。
「カカシ・・・ 喉が・・・ からから・・・ お水・・・」
綱手が、飲ませてやれと、カカシを見て頷いた。
しかし、もう、自力で身体を起こす事すら出来ない。
カカシは、水を一口、口に含み、少しずつ、口移しで飲ませてあげた。
「あぁ・・・ 美味しい・・・ ありがとう・・・
カカシ・・・ 何だか寒いよ・・・ 凄く寒い・・・
カカシのチャクラを頂戴・・・」
カカシは、そっと四代目の胸に手を当て、チャクラを送り込む。
「ん、カカシ・・・ カカシのチャクラだ・・・ 暖かい・・・
オレ、計算間違えたのかなぁ・・・
絶対、大丈夫だと思ってたのに・・・
こんなダメージ受けちゃうなんて・・・
でも、九尾は封印出来たんだから・・・
成功だよね・・・」
「お前のお陰で、木ノ葉は守られた。
本当によくやってくれた。
ワシじゃ、何も出来なかった・・・ すまない・・・ 四代目」
三代目が、深々と頭を下げた。
「三代目、あの死神は・・・
三代目も口寄せ出きるように、契約してありますから・・・
でも、オレでも、こんなじゃ・・・ 三代目にあの術はちょっとキツイかもね・・・」
それから、赤ちゃんを抱いている自来也に視線を移し、にっこり微笑んだ。
「自来也先生、綱手様、
カカシとその赤ちゃんを宜しくお願いしますね」
「あぁ・・・ 分かっている・・・
まったく・・・ もう・・・ この大馬鹿ものが・・・」
自来也も、もうそれ以上、言葉を掛けることも出来ない。
綱手も嗚咽を必死で堪えている。
「カカシ・・・ ほら・・・ あの約束・・・
ちゃんと・・・ 守ってね・・・
オレ・・・ あそこで、眠りたいから・・・」
四代目の一言、一言に
涙が溢れて溢れて止まらない・・・
カカシは、やっとの思いで、口を開いた。
「先生・・・ 何言ってるの!
今日は、大きな術使って疲れただろうから、早く寝かせてあげるけど、
明日から、又、火影の仕事がいっぱいあるんだからね!
先生が指揮とんなきゃどうすんのよ!」
しゃくり泣きながらも、大きな声で叫んだ。
カカシは、本当にそう思ったのだ。
いくら綱手が首を横に振ろうとも、そんな事は信じなかった。
明日になれば、元気で微笑んでいる四代目が・・・
火影室で、頭を撫でてくれるに違いないと・・・
そう、心から信じていたかった・・・
「カカシ・・・ そうだよね・・・ 火影だもの・・・
やらなきゃいけないことが・・・ いっぱいあるよね・・・
ごめん・・・ でも、さすがのオレもちょっとキツかった・・・
もう残りチャクラ0だよ・・・
ねぇ、カカシ・・・ 今日はゆっくり寝かせてね・・・
明日は朝寝坊しても・・・ 許してね・・・」
そう言って、四代目は、もう一度優しく優しく微笑んだ。
そして、一筋の涙がすぅっと四代目の頬を伝い落ちた。
何か話したいのだが、もう声が出せなかった。
カカシは、聞き取ろうとして、四代目の唇の近くに自分の顔を寄せ、
唇の形を必死に読み取った。
カカシ・・・ ありがとう・・・
カカシ・・・ 愛しているよ・・・
そう、声にはならない四代目の言葉がカカシにははっきりと聞こえた。 次の瞬間、
握り締めていた四代目の手がするりと抜けた。
「先生ー!!!」
自らの生命と引き換えに九尾の妖狐を封印し、木ノ葉の里を守った四代目火影。
その名は、伝説となり、永遠に語り継がれていく。
四十九日が終わって納骨される時、カカシは三代目にお願いして、ほんの一握りの遺骨を分骨してもらった。
それを、二つの小さな小瓶に分け、一つは、枕元のフォトスタンドの隣に置いた。
そして、もう一つは・・・
二人で交わした約束通り、あの桜の木に飛んで行って、土遁の術で、地面の奥深く潜って埋めて来た。
「先生・・・ 桜の約束・・・
ちゃんと果たしたからね・・・
ゆっくり寝てていいよ・・・
一人で寂しくなったら、オレを呼んでね・・・
オレはいつでも飛んで行くから・・・」
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2007/6/9