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共戦共生 共誓共願   8
   

次の日、三代目から少しずつ引継ぎをしたいと言われて、オレの班の任務は午前中で終わる簡単なものになった。
午後からは、カカシを隊長に、ゲンマとアスマのスリーマンセルで別の任務に就くことになる。
オレは、昨日、火影の襲名の要請を受け、カカシに告白して、本当なら人生で最良の日になるはずだった日が、人生で一番情けない日になってしまって、酷く落ち込んだ。
昨日の失敗を繰り返さないようにと、今日は初めからカカシに話があると伝えることにした。
任務が終わって解散した後、オレはカカシをそっと呼び止めた。

「カカシ、午後の任務はカカシが隊長だから、ヨロシクね。
それから、ちょっと大事な話があるから、寄り道しないで帰って来てね!」
 
カカシは一瞬戸惑ったような顔を見せたが、しっかり、「ハイ」と返事をしてくれた。
これでいい。これだけ言っておけば、万が一オレがまた言い出せなくっても、カカシの方から、
「大事な話があるんでしょ?」と、切り出してくれるだろう。
もう何が何でも今日は、自分の気持ちを打ち明けると決めたのだから。
 
カカシと別れて、オレは火影室へ向った。
今晩のことを考えると引き継ぎどころではないんだけどな。
オレは、はぁぁと大きく息を吐いて、火影室の扉をノックして中に入った。
 
三代目はゆっくりと立ち上がり、オレの肩をぽんぽんと叩き顎をくいと上げ、着いて来るようにと促した。
 
「今日は、火影だけしか見られない極秘扱いの巻物を見せるから」
 
それから、火影室の隣の書庫に入った。膨大な巻物がきちんと分類整理され保管してある。
一番奥まで入って行くと、三代目が壁をそっと撫でて、振り返った。
 
「この奥にもう一つ秘密の部屋があって、そこが火影専用の極秘扱いの巻物の書庫になっている。
結界の解き方を教えるから、よく見ておくように」
 
そう言って、三代目は、壁に向って複雑な印を組んだ。
すると、何もなかった壁から扉がすぅっと現れ、さらにもう一回、印を組むと、扉がぎぎぎ〜っと音を立てて開いた。
中に入ると、ガラスの扉が付いた本棚が両側に並び、中にはぎっちりと巻物が収められている。

「帰りは、さっきの印を逆に組め。
棚に張ってある紙に巻物の内容が書いてあるから、これからゆっくり読めばいい。
ここにあるものは門外不出だから、火影室へも持ち出せないことになっている。
まぁ、とりあえず壱番の中から先に読んどけ。ワシは先に帰ってるからのぉ」
「えっ? 引継ぎってそれだけですか?」
「今日はな。お前だって、いっぺんに詰め込まれたら大変だろう?」
 
そう言って、三代目はあっという間に消えてしまった。
 
「はぁぁぁ・・・ 何か難しそう・・・ っていうか、今はこんなの読む気になれないよ〜」
 
言われた通りに壱番と書かれた本棚から巻物を一本取って開いてみたものの、文字は全然頭に入ってこない。
オレは、もう二本、三本とするりと開いて眺めては、はぁぁとまた大きな溜息を吐いた。
 
奥に入ると、少し広くなっていて、窓辺には簡素なベッドと、机と椅子が置かれていた。

「えぇっ? 何、こんなところで徹夜でもして巻物読めってのか?
そっか、この部屋から出せないて言ってたっけ・・・」

オレは持って来た巻物を机に置いて、椅子に腰掛た。
でも、どうしても巻物を読む気にはなれずに、窓の外を眺めてはカカシのことばかり考えていた。
 
「昨日はさんざんだったからな・・・ 
今日こそは絶対に言うんだ・・・

でもな・・・カカシの顔見ると何であんなにドキドキしちゃうんだろうな・・・」
 
オレは、かなり前の物であろう古い巻物を机の上で転がしながら、またあの言葉を繰り返していた。

「万が一、何も言えなくなっちゃったら困るから、手紙でも書いて持ってた方がいいかもしれないよな。
そうだよ、オレの想いを文字に残しておこう!うん!それがいい!」
 
オレは、幾つか言葉を思い浮かべてみたものの、どうもしっくりこない。
カカシへの想いは溢れる程大きいのに、言葉にするのって意外と難しいもんだな・・・
シンプルに、「カカシのことが大好き! カカシのことが欲しい!」とか?
それとも、ロマンティックに「I Love You. I Want You」なんてどう?
いろんな言葉を口に出してみたけど、やっぱりピンとこない・・・
待てよ、「誕生日にカカシが欲しい」って言っても、イベント的にその日一日だけってことじゃないんだよ。
うん、その辺はしっかり伝えなくっちゃな。カカシの身体だけが目的じゃないんだし。
あぁ、何て言ったら、オレの気持ち伝わるかな・・・ カカシ、分かってくれるかな・・・
 
どれだけ時間が経ったのだろうか。ふと窓の外を見ると空の色が変わり始めていた。
あれからずっと、カカシへの想いを考えていたけど、オレがどんなにカカシのことが好きかって言葉に表すのはやっぱり無理だということが分かった。
きっと、それを全部書いたら、カカシに引かれちゃうと思うし。
 
それに、オレ火影になるんだよな。
カカシは聡明だから、もしオレが火影になったら、カカシだってきっと色々遠慮しちゃうかもしれないし・・・
う〜ん・・・どうしよう・・・
 
そうだ!オレの願いを書こう!
それだったら、その願いは一つだけだからね。
 
「カカシとずっと一緒に戦いたい。カカシと一緒に生きたい」
 
オレは古い巻物を本棚に戻し、秘密の書庫を出た。
壁に向って結界を掛け直し、扉を閉めた。
火影室に戻ったら、もう三代目の姿は無かった。
さっきまで、三代目が座っていたであろう椅子に座ってみる。
 
「すみません、ちょっとお借りしますね」

何か不思議な感じがする。
まだ火影になったわけではないけど、この椅子に座って、最初に書いたものが、自分の願いとは、ちょっと嬉しい気がした。
机の上にある筆箱から筆を借り、胸のポケットから予備の新しい巻物を取り出し、するりと広げた。
 
オレは目を閉じ、ふっと息を吐いて、呼吸を整えた。
 
「ん!決まった!」
 
筆にたっぷりと墨を付け、
  
「共戦共生」
  
と、大きく書いた。
 
オレの願いは唯一つ。
何があっても、カカシと共に戦い、いつまでもカカシと共に生きたい。
それだけなんだ。
 
 

                                                           2008/4/26

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