共戦共生 共誓共願 10
あぁ、夢みたいだ。
まだ信じられない。 キスくらいはいいよねって思って、カカシの唇を見る。
でも、触れてしまったら、きっとキスだけじゃ済まなくなってしまいそうで怖い。
カカシを今すぐにでも押し倒したい衝動を必死に抑えながら、まだ、震えが止まらないままのカカシのほっぺにそっと触れた。
潤んだ瞳でカカシがオレを見上げてくる。
わぁ〜ダメ〜、カカシったらそんな目でオレを見ないで〜!
オレはもう我慢出来ずに、思わずカカシのほっぺにちゅっとキスをしてしまった。
カカシの身体がビクっと震えた。
ダメダメ、ここまでにしておかないとね。
オレは誕生日までは我慢我慢と自分に言い聞かせた。
そして、ゆっくりと身体を引き離し、カカシの手を引いて、リビングのテーブルに戻った。
「ごめん、カカシ、これ以上くっ付いてると、自分を抑える自信がないから。
カカシも座って。 実はもう一つ大事な話があるんだ」 カカシは、恥かしいのかまだ下を俯いたままだ。
「オレ・・・火影になるよ」
「えぇぇっ〜?いつ?先生が・・・先生が・・・火影様に?」
カカシは、大きな声をあげた。
「驚かせてばっかでごめんね。正式発表は2月1日になると思う。 カカシにも、いずれきちんと話すつもりだったけど、うちは絡みの問題が色々とあってね。 三代目がご決断されたんだ」 「先生・・・さっき言ってたことって・・・」
カカシが不安げにオレを見つめてくる。 仕方ないよ、こんなびっくりするようなことをたて続けに言っちゃったんだものね。
「先生・・・先生が火影になったら、もう先生と一緒に任務に行けなくなる・・・んだよね・・・?
オレの・・・隊長はどなたになるんですか?」 「あぁ、それは心配ない、シカクに頼もうと思ってるし。
スリーマンセルも今まで通り、ゲンマとアスマにするから、それなら大丈夫でしょ?」 カカシは、思いつめたような顔で、やっとのことで言葉を紡ぎ出した。
「先生・・・これから・・・シカク隊長が・・・オレの先生になるの・・・?
先生は・・・オレの・・・先生じゃなくなっちゃうの?」 カカシは今にも泣き出しそうに、涙をいっぱい溜めていた。
「何言ってるんだよ!カカシ!そんなことない! たとえ、一緒に任務に行けなくても、オレがカカシの師匠であることには何ら変わりはないんだよ!」 オレはカカシの手をぎゅっと握り締めた。我慢しきれずにぽろりと伝い落ちた涙を拭って、髪を撫でてあげた。
「先生・・・いいの?・・・先生が火影になっても、ずっとオレの先生ってことなんだよね?」
「あったり前じゃん!!!もう、カカシったら、何も心配することはないんだよ。 オレが火影になっても、オレとカカシの関係は何も変わらないから。 まぁ、オレの仕事の内容が今までとは少し違うものになってしまうのは仕方ないけどね」 カカシもほっとしたのか、それ以上涙を流すことはなかった。
「でも・・・“先生”って、もう呼べなくなっちゃうね・・・“火影様”って呼ばないと・・・」
「わぁ〜オレ、そんなことまで考えてなかったな。
イヤだな・・・カカシにそんなふうに呼ばれるの。 今まで通り、“先生”でいいからさ!」 「やっぱ、人前で“先生”じゃまずいでしょ・・・それから・・・先生は火影屋敷に移るの?」
「うん、そのことだけどね、カカシも一緒に来て欲しいんだ。
オレ、一人じゃ、寂しくて暮らしていけないと思うし!」 真顔でそう告げたら、カカシは呆れ顔でオレを見た。
「先生・・・もしかして、それって、ご飯の心配?」
「いや、そうじゃないって!食事の支度は、火影専用の厨房スタッフがちゃんといるからさ。
えへへ・・・夜一人じゃ寂しくて眠れないかも〜って思ってね」 「もう、先生ったら!何甘えてるの。火影になるって人がそんなこと言って!」
「いや、カカシ、冗談じゃないって。こんなに若くして火影になるんだよ。 内外共に、風当たり強いと思うし。もちろん、何言われても、オレは負けないけどね。 オレのやりたい様にやるつもり。 でも、オレだって、生身の人間だもの、いくら強気でいても、時にはめげちゃうこともあるかもしれないし。 そんな時には、カカシに励ましてもらいたいんだ。 だから、カカシはオレの傍に居て。ねっ!」 「先生・・・」
カカシは事の大きさが分かってきたのか、顔が段々と強張ってきた。
「それから、カカシに受け取ってもらいたい物があるんだ」
オレは胸のポケットから、さっき書いた巻物を取り出し、カカシに手渡した。 「はい、ここにオレの願いを書いておいたから。読んでね」 カカシがするりと巻物を開いた。
「共戦共生」
と、只それだけが大きく書かれていた。
「オレはね、何があっても、木ノ葉のために、カカシと共に戦いたい。
そして、共に生きたい。ずっと、ずぅっとね。 この先、どんな困難があっても、カカシとなら乗り越えていけると思うから。 ね、カカシ、これがオレの願いだよ」
カカシは、驚きのあまり、言葉が返せなかった。そして、カカシの目には、また新たな涙が光っていた。
「先生・・・オレも・・・」
やっとのことで、搾り出すような小さな声が発せられた。 「ありがとう、カカシ。二人で・・・」 約束しようよと言おうと思った時、突然カカシが立ち上がった。
「先生、ちょっと待ってて」
カカシは本棚の引き出しから、筆箱を持って戻ってきた。
「ねぇ、先生、この後にオレの願いも書いていいかな?」
「えっ!?本当に?それ、すっご〜く嬉しいな〜!」
硯に墨汁を入れて、カカシは目を閉じた。
オレはドキドキしながら、カカシを見つめていた。
カカシは息をふぅっと吐き、そして、目を開き、
「ん!決まった!」と微笑みを返してくれた。
カカシは筆を持ち、ゆっくりと自分の願いを書き認めた。
「共誓共願」
力強く書かれた文字を見て、オレは身体中が震えた。
「はい、これがオレの願いです、オレは何があっても、先生について行く! 先生と共に戦うことを誓います。 そして、いつまでも、ずっとずっと、先生と共に生きることを心から願います」 「カカシ・・・ありがとう。オレ、嬉しくて・・・嬉しくて・・・何て言ったら・・・ もう・・・ダメ・・・カカシ・・・」 オレはカカシの横に行き、カカシの手を取り立たせて、ぎゅっと抱きしめた。
「カカシ・・・カカシ・・・カカシ・・・本当にありがとう・・・少しこうしてていいかな?」
「うん、先生・・・」
涙が溢れて、溢れて止まらなかった。
オレの気持ちが伝わって、そして、それにカカシが応えてくれたことが、幸せで幸せで。
もう恥かしいなんて言ってられない。
オレは声をあげて、泣いた。
こんな風に声をあげて泣いたのは子どもの時以来記憶にない。
「カカシとオレの・・・約束だね」
「はい、先生・・・」
カカシの頬に自分の頬を摺り寄せたら、カカシの涙とオレの涙が交わり合った。
こうして、オレ達は、二人だけの誓いを立てた。
共戦共生 共誓共願
この言葉を二人の命の奥底に永遠に刻み込んだ。
|
2008/5/22