それは突然の来襲だった。
何の前触れもなく、九尾の妖狐が木ノ葉国に姿を現したのだ。
空を真っ赤に染め、禍々しい妖気があたり一面を覆いつくしている。
伝説の尾獣と言われ語り継がれていた九尾の妖狐は、その尾が一降りされるだけで、一つの山が跡形もなく崩れ、その九本の尾は天空高くまで聳え立つという。
魔力も攻撃力も人知を超えた邪悪な力を持つ魔物なのだ。
サクモは一中隊を城の守備に残し、自ら全軍を率いて直ちに出陣した。
絶対に木ノ葉城内に侵入させまいと、様々な攻撃を仕掛けたが、九尾はあっさりと払いのけ、ジリジリと木ノ葉城に近づいて来る。
このままでは、九尾が城に襲いかかるのは時間の問題だ。
サクモは、決断を迫られた。
ここで戦っていても、今の状態では九尾を抑えられるかどうかも分からない。
このまま、軍の被害が拡大し、さらに、守りの薄い木ノ葉城に攻撃されたら、残された民も全滅してしまうかもしれない。
それだけは、絶対に避けなくてはならない。
ここは、一度退却し、全軍あげて城の守りを固めた方がよいのではないかと、サクモは判断した。
「全軍退却!引け!」
サクモの命で、全軍は、九尾に背を向け、もの凄いスピードで退却を開始した。
もちろん、九尾もその後を追ってくる。
殿を勤めるのは、ミナト将軍率いる木ノ葉軍最強の精鋭部隊だ。
九尾に足止めをかけることが、自分たちに与えられた使命と、全滅覚悟で、最後の力を振り絞って猛攻撃を仕掛けた。
しかし、瞬く間に、兵士たちは九尾の尻尾に吹き飛ばされていく。
邪悪な魔物の力の前では、武器も魔法も傷一つ負わせることすら出来なかった。
どんな攻撃をしても、どうにもならない、このまま只、九尾に踏み潰されるしかないのかと諦めの思いが、
言葉に出さずとも、皆の心に重く広がっていった。
その時、ミナト将軍が、共に戦っていた参謀の自来也に向かって大きな声で叫んだ。
「自来也!こうなったらアレをやるしかない!オレにやらせてください!」
「アレはまだ、未完の魔法だろ?」
「一か八か・・・ここまできたら、もう、やってみるしかないでしょ?皆を下がらせて!」
自来也の返事を待たずに、ミナトは最前線に立ち、九尾の正面に向かった。
自来也は大きく忍刀を振り、「下がれ」と大声をあげた。
ふぅと息を吐き、呼吸を整え、両手の人差し指と中指を胸の前で立てて、魔力を集中させる。
「スロウ!!」
きらきらと煌く黄色い閃光が、ミナトの指先から一直線に九尾に向かって放たれた。
ぐえぇぇぇぇぇ
九尾が大きな呻き声をあげた。
皆の視線が九尾に向けられた。
「ん!効いたみたい・・・かな?」
九尾の動きが急に鈍くなったようだ。
尻尾を振り下ろすスピードが明らかに今までとは違う。
「さぁっ!今のうちに皆、早く!退却!」
兵士達は、おぉと歓声をあげながら、一斉に退却を始めた。
「どう?自来也」
へへんと笑って、ミナトは自来也にパチリとウインクをした。
「ったく、たいしたもんだのォ」
本来、魔道士は、攻撃魔法、回復魔法、そして、防御魔法のいずれかを習得し、修行を積み、上位魔法を極めていくものだが、ミナトはあらゆる魔法に優れ、使いこなすことが出来る。
しかも、一般的には、剣士は剣士、魔道士は魔道士と、自分にあった技を極めていくものなので、物理攻撃と魔道士の両方の技を持つことは、中々出来ないのである。
ミナトが天才と呼ばれる所以は、どんな技でも習得でき、さらに、新たな魔法を次々と開発していったところで、これには、師匠の自来也も驚かされるばかりだった。
古の時代から、秘術とされていた魔法をそう簡単に新しく作りだせるものではない。
ミナトは単に攻撃魔法の威力を増す上位魔法の開発というより、魔道士自身の魔力そのものをアップさせる魔法をあみだしたのだ。
それは、魔法界には今までにまったくなかった概念だった。
また、ミナトは魔力を強く出来るのなら、早くすることも出来るのではないかとの発想で、次は、行動スピードをあげる「ヘイスト」という魔法を開発した。
この魔法も誰もが想像も及ばないような、画期的な大発明だったのだ。
そして、自分を「早く」出来るのなら、敵を「遅く」することも出来るのではないかとの、いたって単純な発想から、今回の新魔法「スロウ」を考え出したという。
それが可能なら、自分が3回攻撃している間に、敵は1回だけという様に、攻撃回数の差が大きくなり、圧倒的優位にたつことが出来るのだ。
ミナトは、この魔法を「時空魔法」と名づけた。
自分の行動スピードを上げる魔法「ヘイスト」は、味方にかけるので、すぐに使えるようになったのだが、しかし、敵にかける「スロウ」は、魔力のコントロールが難しく、中々うまくいかなかった。
その未完の魔法が、木ノ葉国の危機のこの時にまさに完成したのだ。
もちろん、ミナトが人に見えないところで、どれだけの修行をしているのか、筋金入りのド根性を持っていることも、自来也は知っている。
すべては、民のため、平和のために、自身を極めているのだ。
天才とは、時をも動かすような強い運を持ち合わせ、そして、民のためという強い一念がその才能をさらに開花させるものだと、この時、自来也は深く感じた。
こうして、木ノ葉軍は、無事木ノ葉城に戻ることが出来、すぐに城の守備に当たった。
城の四方を今までよりもさらに強い魔法障壁で守り、九尾の攻撃に備えた。
スロウをかけられ、その歩みは遅くはなったものの、九尾は一歩一歩、木ノ葉城に向かって近づいているのだ。
城内では、カカシ王子と戦闘に参加できない女性や年配者と子ども達を、地下壕に避難させ、男達は全員戦闘配置についた。
前衛には武器を構えた剣士が、中衛には弓使いと黒魔道士が、そして、後衛には回復役の白魔道士がつき、万全な戦闘態勢が整った。