ゴオオオオオオオオオ
地鳴りのような呻き声が上がり、空の色が真っ赤に染まったかと思うと、九尾の妖狐がその巨大な姿を、城壁の前に現した。
ミナトは、正面の大門の一番上に立ち、構えていた。
「来たぞ!」
「攻撃用意!」
スロウの完成の報告は、すぐにサクモの耳に届いた。
まず最初に、ミナトがスロウをかけ、それから、サクモの一声で、総攻撃が始まる。
軍師シカクの立てた陣形は、城壁正面の左右に配置されていた。
九尾が近づいて来たら、背後に回り、四方から囲む作戦だ。
「さぁ、いくよ!みんな準備はOK?」
「オオー!」
兵士達は、武器を掲げて、雄叫びをあげた。
「スロウ!!」
ミナトの大きな声が、轟き渡った。
しかし、今度は九尾のスピードに変化はなかった。
「くそっ、まだ成功率100%って訳にはいかないか」
ミナトは、目を瞑り、指に魔力を集中させる。
「スロウ!!」
九尾は、物凄い勢いで城壁の正面に突進して来た。
「うわぁぁ〜!」
ミナトは、突風に煽られ、後方に吹き飛ばされてしまった。
待機していた兵士達に、上手く受け止めてもらったので、怪我はなかった。
「ちぇっ・・・シェル(※1)をかけていやがったか」
それから、あっという間に、九尾が強固な鉄で出来ている大門を突破した。
「攻撃開始!」
サクモの声で、全軍あげての攻撃が始まった。
九尾は暴れ、尾を一振りするごとに、建物は破壊され、人も吹き飛ばされていく。
しかし、木ノ葉軍は勇敢に戦った。
木ノ葉の民の尊い命を守るんだ!
との、強い一念で、全力を尽くした。
あちこちで、悲鳴が響き、倒れる兵士。
必死の攻撃も九尾には効いていないようだ。
なす術もなく、逃げ惑う兵士もいる。
それは、言葉に出来ない壮絶な光景だった。
どんな、物理攻撃も魔法も効かない。
力の差は、あまりにも大きく、決して縮まることはない。
九尾は、尾を振り、地面を揺らす。
そして、口からは炎を吹き、破壊の限りを尽くした。
美しかった城下の町並みは、そのほとんどが無残に焼き尽くされ、灰となった。
指揮を執っていたサクモも、打つ手もなく途方に暮れていた。
城内がこんなことになるのなら・・・
あの時撤退はするべきではなかったと、今更後悔しても、時すでに遅し。
サクモは、最後の手段と、あの魔法を使う覚悟を決めた。
ミナトだって、未完の魔法を成功させたのだ。
木ノ葉を守るために、自分に残された力はもうこれしかない。
はたけ家は、先祖代々、雷系の魔法を専門としていた。
サクモも雷魔法の使い手なのだ。
雷系の下位魔法の「サンダー」は、とても攻撃力の高い魔法だが、その上位魔法、「サンダラ」となると、さらに、数十倍も威力が上がる。
ほとんどの魔物は、「サンダラ」一撃で仕留められるほど強力な魔法なのだ。
しかし、サクモは国王の座に就いてから、国に万が一のことが起こったらと、国主として、その日に備えて、手を打っていた。
密かに、「サンダラ」のさらに、上位魔法の「サンダガ」開発を進めていたのだった。
ただ、「サンダガ」の威力は、計り知れない程強力で、1発でもかければ、木ノ葉の森のかなりの範囲を破壊してしまう。
だから、中々実践での練習が出来なったのだ。
しかし、理論は完成している。
後は、運が自分に味方してくれるかだけだった。
九尾は土系魔法と炎系魔法を使っていたが、雷系魔法は土系魔法圧倒的な強さを誇る。
ここまできたら、もう、「サンダガ」をやるしかない。
―――――木ノ葉をお守りください
サクモは天空を見上げ、祈るような思いで、拳をぎゅっと握り締めた。