「皆のもの、下がれ!」
サクモの大きな声が轟き渡った。
近くにいては、サンダガの巻き添えを食らってしまう。
兵士達は一斉に避難をし、国王の背後に陣列を整えた。
サクモは城門の中央に立ち、両手を高く掲げ天空を見上げた。
あっという間に、鉛色の雲が城の上空を覆っていった。
突然、雷鳴が響き、一瞬、空を真っ白い閃光が走った。
サクモは、雷雲を呼び寄せることに成功したようだ。
「これは・・・もしかして・・・あの伝説の・・・」
皆、今まで見たことのない雷系最強攻撃魔法「サンダガ」を目の前で見ることが出来るのかもしれないとの、興奮を抑えられなかった。
通常の雷系攻撃魔法に、さらに、自然界の雷力エネルギーを加え、究極の破壊力を備えているサンダガ。
攻撃範囲も広く、このくらいの距離からでは、逃れることは出来ないだろう。
この魔法が当たれば、いくらあの九尾の妖狐でも、一撃で仕留めることが出来る。
と、誰もがそう信じていた。
「ミナト、もうよい。お前も下がれ」
「申し訳ありません。スロウをかけられなくて」
「サンダガは、魔力を全部使い果たすから、一発しか打てない。
もし、私が失敗したら、お前が後を引き継げ。
雷雲は集めた。サンダラに雷力エネルギーを加え、一旦留めた後、一気に解き放つイメージだ。
お前の黒魔法のセンスは、中々のものだ。お前なら出来るかもしれない」
最高難度の魔法をこのくらいの説明で、教えることは不可能だと二人とも分かっているが、しかし、今は、ゆっくり説明する時間がないということも、分かっている。
サクモは、ミナトの魔道士としての実力を信じていたし、ミナトも、その思いに答えるしかないと腹を決めた。
「ミナト!よく見ていろ!」
「はいっ!」
サクモは、右手の人差し指と中指の2本を胸の前に立て、左の手は天高く翳した。
そして、目を瞑り、呼吸を整え、大きな声で魔法を詠唱した。
「サンダガ!!!」
大きな稲妻が、天空から、サクモに左手の先に集まり、そして、今度はその稲妻が九尾の妖狐の方に向きを変え、一直線に向かって行った。
「うわぁぁぁぁ」
しかし、次の瞬間、その稲妻は九尾の妖狐から跳ね返り、サクモとその周りにいた兵士達を直撃した。
サクモは、その場にどさっと倒れた。
「ぎゃぁぁぁぁ」
「助けてぇぇぇ」
叫び声があちこちから上がり、兵士達もバタバタと倒れていく。
よろけながらも、何とか立ち上がり、ミナトはサクモの元に歩み寄った。
「サクモ陛下!陛下!」
「失・・・敗だ・・・」
苦しそうに顔を歪めている。出血がかなりあるものの命に別状はないだろう。
「リフレク(※1)で跳ね返されたのだと思いますが・・・?」
「甘かった。リフレクまで考えてなかったな・・・
しかし、完璧なサンダガじゃなかったから、このくらいで済んだのだ、皮肉なもんだ」
「やりますね・・・九尾の奴め」
「あぁ、油断するなよ、ミナト、後は頼む・・・」
ミナトは、動ける兵士達を呼び寄せ、サクモ国王を城の地下にお運びするよう命じた。
「父様!父様!」
最後方で見守っていたカカシが駆けつけた。
血まみれのサクモの姿に泣きじゃくるカカシ王子。
「大丈夫です、王子。早く傷の手当をしてもらってください。
陛下は木ノ葉の国王です。こんなことで、やられるお方ではありません。
ご安心なさってください」
ミナトはカカシ王子の手をそっと握り、落ち着かせるように、優しく言った。
「私が、陛下の後を継いで、戦います。一緒には、行けませんが、王子が陛下をお守りするのですよ」
カカシは、手の甲でぐいっと涙を拭い、「うん、わかった」と頷いた。