「あ、ライドウとゲンマ、今日はちょっと残ってもらいたいんだけど、いいかな?」
四代目火影は、山の様に積まれた報告書に火影印を押しながら、爽やかな笑顔で二人に声をかけた。
いいも何も、断る選択肢など、ライドウとゲンマにはないというのに、わざわざ同意を求められ、二人は焦った。
(何か、失敗をしたのだろうか・・・?)
「火影になったからといって、木ノ葉の頂点に立ったという意識は持たない。自分は一番上ではなく、里のど真ん中にいるのだ」というのが四代目の自論だった。
里はピラミッド型ではなく、火影を中心とした大きな円なのだという。
四代目は火影に就任してから、気さくに下忍に話しかけたり、中忍や上忍達と飲みに行ったりと、大勢の忍達との交流を重ねていた。
それは、力による上下関係が厳しい忍の世界においては、本来なら有り得ない異色の振る舞いだった。
里の忍はもちろん、忍以外の里民、老若男女誰からの人望も厚く、就任後間もないのに、四代目は木ノ葉隠れの里を照らす大きな太陽の様な存在になっていた。
しかし、その自由奔放な行動力に、里の相談役達も悩ませられることも度々であった。
「木ノ葉の黄色い閃光」の通り名のごとく、その早さは、誰にも止められるものではないからだ。
大陸中探しても対等に相手をできる者は、極、限られた忍でしかいない。
四代目の護衛を務める暗部の苦労をもう少し理解するようにと、相談役から助言があったばかりだった。
ライドウとゲンマは、今年から新しく火影の護衛小隊に配属になった。
元々、火影の護衛小隊は、四代目が選抜した暗部の精鋭を3マンセルで3班が交代で行っていたが、
護衛が24時間体制なるので、やはり、3交代では体力的にも厳しいとのことで、もう1班追加されることになったのだ。
その時に、四代目がライドウとゲンマを指名した。
特別上忍の入隊は初めてのことでもあり、周りも本人達もその抜擢には驚かされたが、何か意味あってのことと、誰も異論を唱える忍はいなかった。
そう、誰にも気付かれてはならない理由があったということは、四代目しか知らない秘密の事。
配属後、ライドウもゲンマも先輩達の指導の元、必死に護衛任務にあたっていたが、自分達の知らない間に、今日は何か重大なミスをしてしまったのだろうかと、背中に嫌な汗をかいた。
「は、はい。承知しました」
二人は跪き、頭を垂れた。
何事かと緊張しながら、次の言葉を待っていた。
「この報告書終わったら、修行つけてあげるね!
もう少しで終わるから、ちょっと待ってて」
(四代目が修業を!)
(四代目が俺達に?)
四代目自ら修業をつけてくださるとの驚愕の思いと、やはり、自分たちでは力不足なんだなとの申し訳ない思いが重なって、なんて答えたらいいのかもわからなくなる。
「ありがとうございます」
二人共、只それだけしか言葉が出てこなかった。
リズムよく押される火影印の音が、ポンポンと火影執務室に響いていた。
それから半時程して、今日の仕事を終えた四代目は、二人を演習場に連れて行った。
夕暮れ時の演習場には、もう人影はない。
四代目は、誰にも入って来られないようにと結界忍術をかけた。
ライドウとゲンマは緊張した面持ちで四代目の前に立っていた。
「ちょっと〜 そんなに緊張しなくってもいいって!
オレに叱られるとでも思ってるのかな?」
「い、いえ」
「心配しないでいいから。ほら、肩の力を抜いて、楽にしてよ。
どっちかって言うと、オレの方がドキドキしてるかも〜」
(四代目がドキドキって、何だよ!意味わかんねぇ!)
と、思わず口から飛び出しそうになったのを、ゲンマは必死に抑えた。
「宜しくお願いします」
二人がぺこりと頭を下げると、
「こちらこそ、宜しくね」
と、四代目が頭を下げた。
二人はびっくりした。
(四代目が頭を下げるなんて、何事なんだよ!おい!)
(これ、只の修業じゃないだろう?な?)
ライドウとゲンマは顔を合わせて、言葉に出さずに目で会話した。
「これから、二人にオレの術を教えます!
ちょっと難しいから、すぐにはマスターできないと思うけど、
できるようになるまで、しっかり教えてあげるからね」
二人は、驚きのあまり声も出すことができずにいた。
(四代目が・・・俺達に術を教えてくれる?)
(俺の術って? 四代目の秘伝忍術?)
二人はプチパニック状態だ。
頭が真っ白になり、夢を見ているのでないかと思う。
「木ノ葉の黄色い閃光」の通り名を持つ四代目火影は、現役の頃から新術開発の天才と言われ、数々のオリジナル忍術を考案してきたのだが、その難易度は極めて高く、あの三忍の自来也でさえ、四代目の忍術を会得するのに、数年かかったとの噂もあった程だ。
それなのに、こんな一介の特上なんかが、マスターできるのだろうかと、二人は不安になった。
二人の顔色が変わったのを見て、四代目はくすりと笑った。
「大丈〜夫!カカシにもできたからさ〜!」
カカシにもできたからでは、比較にならないだろうと、二人は顔を益々顔を曇らせる。
カカシは年は下でも、アカデミー卒業後にすぐに中忍、上忍に昇進し、忍の実力は足元にも及ばないと思っているからだ。
「それに、一人でするんじゃなくってさ、こうしてほら、ね!」
そう言って、いきなり、四代目は二人の手を握り、三人で輪を作った。
「ね、こうすればできるでしょ!」
「は?」
「え?」
何が何だか分からないと首を傾げる二人に、四代目はパチリとウインクをした。
「ん!これで、一緒に飛べるはずだよ!
さ、チャクラを俺の手に集中させてみて!」