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Twilight Angel    2

   

「ただいま〜 ファムラン!」
「おかえりなさい! パパ」
 
シドは仕事から帰って、真っ先にファムランの部屋を覗いた。
何やら寝転がってお絵かきをしていたようだ。
 
「お絵かきかね? どれどれパパにも見せておくれ」
「サンタさんにね、プレゼントに欲しいものをお手紙に書いていたの」
「ほほぉ、今年は何をお願いするのかな?」 
「もう少しで出来上がるから、全部書けたらパパに見せてあげるよ」
 
そう言って、ファムランはクレヨンをすらすらと動かした。
  
「じゃぁ、その間にパパはお着替えしてくるからね」
 
シドが着替えをして、もう一度、ファムランの部屋に入ると、得意満面な顔をして、完成した絵をシドに見せた。
 
「サンタさんへ
 えほんじゃないおとなのほんがほしいです。
 できたらきこうがくのほんがいいです。
 いっしょうけんめいおべんきょうするのでおねがいします。
                          ふぁむらんより」
 
一文字一文字必死に書いたようなたどたどしい文字と一緒に、飛空艇の絵も描かれていた。
シドは目を細め、ファムランをそっと抱き寄せ背中を撫でた。
 
「ファムラン・・・ 偉いね・・・ 絵本はもう飽きたのかな?
そんなにお勉強がしたいの?」
 
シドは豊かな人間性を育もうと、子どもたちには寝る前にいつも絵本の読み聞かせをしていた。
どんなに仕事が忙しくても、寝る時間には間に合うように吹っ飛んで帰って来ては、一緒にベッドに入って、絵本を読んであげていたのだ。
もちろん、ファムランも毎晩とても楽しみにしていて、どんなに眠くなってもお話の最後までは起きてようと頑張った。
それは二人にとって、かけがえのないひとときだったのだ。
 
しかし、今、シドはファムランの愛くるしい目を見て、胸がきゅぅっと締め付けられるような気がした。
実は来年からドラクロアの所長に昇格することが決まり、今日その内示を受けてきたのだ。
所長ともなれば、今までのようにファムランが起きている間には帰って来られない日も多くなるだろう。
もう、絵本を読んでやることも出来なくなるかもしれない。
もちろん、家には食事や掃除など身の回りの世話をしてもらっているメイドはたくさんいるが、ベッドに一緒に入って読み聞かせをしてもらう訳にはいかない。
 
シドは子どもの内は子どもらしく思いっきり遊ぶべきだ、勉強なんてアカデミーの初等科に入ってからで十分だと思ってた。
ただ、子どもの興味のあることは何でもさせてやりたかったし、欲しいというものは必要とあれば何でも与えてやった。
長男、次男とも聡明で初等科・中等科を主席で卒業し、今は二人共、高等科特進コースに通っている。
特進コースは国家のエリート育成機関でもあり、寄宿舎に入らなければならないのだ。
ファムランはそんな兄を見て育っているから、幼い頃から、好奇心旺盛でいつも兄達の後を付いて回っては、いろんなことを吸収していた。
兄達も年の離れた弟をそれはそれは可愛がっていた。
でも今は学校が休みにならないと家には帰って来られない。
シドは、来年からのファムランが一人でいる時間のことを考えると、何とかしなくてはいけないと思うようになった。
単なる遊び相手というよりは、ファムランの知的好奇心を満たせてくれるような家庭教師を雇った方がいいかもしれないと。
ふとそんなことが頭をよぎった。
 
ファムランは瞳をきらきらと輝かせ、シドを見ていた。
 
「とっても上手だよ、ファムラン。 こんなに良い子にしてるんだから、サンタさんはきっとファムランの願いを叶えてくれるよ!
大きな靴下を用意しなくてはね」
「ねぇ、大人のご本はやっぱり難しいかな?
パパ、読めないところは教えてね!
ボクも早く大人になって、ドラクロアに入ってパパと一緒にお仕事したいな〜」
「うんうん、パパもとっても楽しみにしているよ」
「そしたら、パパとボクですっごい飛空艇いっぱいいっぱい作っちゃおうね!」
  
そして、クリスマスイブの夜がやってきた。
兄達も帰ってきて、久しぶりに賑やかな食卓で、美味しいご馳走をたくさん食べた。
食後はみんなでトランプをしたり、ゲームをしたり、楽しい時間を過ごした。
サンタさんが来るまで起きていたいと頑張っていたファムランが目を擦り始めたので、
シドはそろそろ寝ようねと、ファムランを抱き上げて寝室へ向かった。
 
「パパ、まだ起きていたいよ〜 
ボク、サンタさんとお話したいんだ」
「ファムラン、サンタさんはね、起きている子どもの所には来ないんだよ!
さぁ、早くおやすみ」
「えぇ・・・ そんなのずるい・・・
じゃぁ、パパならサンタさんに会えるの?
サンタさんにバレないように、そっと起こしてよ!」
「ううん、パパも会えないんだよ。
サンタさんは、灯りが消えたお家からプレゼントを渡しに行くんだから。
だから、今日はパパも早く寝なくっちゃね。
おやすみ、ファムラン」
「分かったよ。 パパ、おやすみなさい。
明日は早く起こしてね」
 
シドはファムランの天使の様なほっぺにちゅっとおやすみのキスをした。
  
翌朝、ファムランが目覚めると・・・
 
「んん・・・ 何・・・?」
 
枕元には、右に大きな大きなモーグリのぬいぐるみ、左に赤いリボンがかけられ綺麗にラッピングされたプレゼントが・・・
ファムランはがばっと起き上がり、するするとリボンを解いた。
プレゼントは、“機工学入門”と書かれた本と飛空艇の写真集だった。
 
「やったぁ〜 サンタさんありがとう!」
 
ファムランはベッドの上で飛び上がって喜んだ。
すると本の間からカードが一枚するりと落ちた。
開いて読んでみると・・・
 
「ファムラン君へ
Merry Christmas!
きみにはまだちょっとむずかしいかもしれないけど、おとなのほんがほしいとおてがみをもらったので、
このほんをプレゼントします。
わからないとことはおとうさまにおしえてもらって、がんばってよんでくださいね!
それから、モーグリのぬいぐるみもいっしょにかわいがってあげてね!  
                                            サンタより」
「大丈夫! サンタさん、ボク、がんばるからね!」
 
ファムランは、本を抱きしめて、部屋を飛び出した。
 
「パパァ〜 パパァ〜
サンタさんがね〜」
 
まだ寝ていたシドの布団を捲り、身体をゆさゆさ揺すって起こした。
 
「んん・・・ ファムラン・・・ もう起きたのか?」
「パパ! やったぁ! サンタさんがボクのお願い叶えてくれたよ!
“機工学入門”だって! 凄い! 飛空艇の写真集もあったし。
ねぇ、早く、読んでよ〜!」
 
ファムランが嬉しそうに本を捲った。
 
「うわぁ〜 大人の本だぁ! 」
 
興奮しながら、次々とページを捲っている。
 
「わかった、わかった。じゃあ、顔を洗ってくるから、ちょっと待っててね」
 
シドは身体を起こし、ファムランの髪をくしゃくしゃと撫でた。
 
(こりゃ、もう絵本は卒業だな・・・)
 
きらきらと瞳を輝かせ、本を見ているファムランをシドは微笑ましく見守った。
 

                                                           2007/12/11
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