Twilight Angel 3
新しい年が明け、ドラクロア研究所の所長に就任したシドは、さらに多忙な毎日を送っていた。
自分の決済で新たな仕事が自由に出来るようになったのだ。 今まで暖めていた開発プロジェクトをいくつも立ち上げ、精力的に仕事をこなしていた。
シドは朝から機嫌が悪かった。
ここ数日どうしても計算が合わずに、新型飛空挺の図面とにらめっこしている。
おかしい。 方程式は合っているはずなのに。
幾度やり直しても出る答えは一緒だった。
たとえ0.1mmの誤差でも許されないのに。
どこか当てはめるものが間違っているのか。
「ふぅ・・・」
今日何度目か分からない深い深い溜息をついた。
椅子から立ち上がり、うぅ〜んと背伸びをしてみる。
「気分転換に散歩でも行くか」
シドは上着を取り研究所から出た。
あてもなくぷらぷらと歩いていたが、これと言って、見たいものも、食べたいものもある訳でもなく、さてどうしたものかと思いながら、さらに歩き続けた。
いつの間にか市街地のはずれまで来てしまった。
「ここを歩いていても何も閃くものはなかった・・・
こういう時は、いつもと違う空気を吸った方がいいものだ」
そう呟きながら、旧市街への階段を降り始めた。
くねくねと折り曲がった道を歩く。
人々の視線は気にしない。
向かい風の路地から橋を渡り、しばらく歩くと少し開けた場所に出た。
いつもここより遥かに高い高層ビルの上から空を見上げているのに、地べたで見上げる空の方が近いような気がするのは何故だろう。
周りに高層ビルがない分、視野が広くなり、空が近くに感じられるからだろうか。
手を額に翳して、空を見上げながら、シドはふっと笑った。
結構歩いたので喉が渇いた。
潤すことが出来るのなら、安い酒でも何でもいい。
何処か店に入ろうと辺りをぐるりと見回した。
少し先に酒場らしきものが見えた。
店の近くまで来ると、突然大声がして、数人の男達が店の中から飛び出して来た。
あっという間に喧嘩が始まった。
野次馬も大勢加わり、威勢のいい掛け声があっちからもこっちからも掛かる。
回りではどっちか勝つかと、賭けが始まった。
喧嘩なんて日常茶飯事のこの街では当たり前の風景だった。
シドは折角入ろうとした店の前で喧嘩が繰り広げられてしまい、
他の店を探そうかと戸惑ったが、何せ人が大勢集まって来て思うように歩くことも出来ない。
仕方なく、この喧嘩が収まるまで待つことにした。
少し高くなっているところに移動して、そばに転がっていた木箱に腰掛て見物した。
酒場の喧嘩だ、原因はどうせたいしたことではないだろうけど。
何を怒鳴りあっているのかまでは聞こえないのだが、どうやら一人相手に四〜五人が順番に飛び掛っている様に見える。
こんな街の喧嘩だ。ルールもくそもない。どんな汚い手を使ったって勝てばいいのだ。
一人の方の金髪の青年は強かった。
次から次へと向かってくる相手をぶん投げている。
相手側は自分達だけじゃ敵わないと思ったのか、仲間を呼んだようだ。
いつのまにか金髪の青年は20名くらいに囲まれている。
それでも、動じることなく、堂々と仁王立ちになり、「どこからでもかかってこい」と威勢のいい声で叫んでいる。
周りの野次馬達もいつのまにか金髪の青年に声援を送っている。
あれよあれよという間に加勢に来た奴等も倒してしまった。
鋭い碧眼が光り、粗末な服から見えた筋肉が隆々と波打っている。
その光景は圧巻だった。
「ありゃぁ素人じゃないな・・・」
野次馬達はさぁっと引いていったが、
シドは何だか金髪の青年の目が気になってしょうがない。
服に付いた埃をぱんぱんと払っている青年に近づき前に立った。
「喉が渇いただろう? 一杯ご馳走するよ」
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2008/1/15