Twilight Angel 4
にっこり微笑んで肩をぽんぽんと叩くと、今までの鋭さが嘘の様に抜けて、柔らかな表情になった。
シドが店の中に入ると、青年も黙って後に付いて入って行った。
店内はさっきの喧嘩でみんな出てしまったのか客は誰もいなかった。
カウンターに腰掛ると、年老いた店員が何も言わずメニューを指差した。
「好きなものを注文しなさい」
「水」
「遠慮はするな。 酒でも何でも頼むがいい」
「あれだけ動いたんだ、今は水が飲みたい。それにオレはまだ未成年だ!」
「はっはっはっ〜 そうかそうか、おいマスター、氷をたくさん入れた冷たい水を出してくれ」
青年は目の前に出された水をごくりごくりと一気に飲み干した。
シドはこの街で、未成年だから酒は飲まないなどとそんな事を守っている事自体が驚きだった。
遠くから見ていた時は分からなかったが、なるほど近くで見ると確かにまだあどけない顔をしている。
「いくつだね?」
「18」
「なら酒も飲まないのに何でこんな店に来てた?」
「ここは飯が美味い」
「おぉ そうか、なら好きなものを食べたらいい。
あれだけ動いたんだ、腹も減っただろう?」
見ず知らずの人にご馳走になるのが嫌なのかずっと黙って下を向いたままだ。
「マスター、 何でもいいから、お薦めのものをじゃんじゃん作ってくれ」
しばらくするとカウンターの前に美味しそうな料理が次々と並べられた。
シドがどうぞと手を青年の前に出すと、恥ずかしそうに微笑んで頭をぺこりと下げた。
「いただきます」
服は質素だったかが、育ちは良いのだろう。
料理にがっつくこともなく、綺麗な食べ方だった。
シドは安い酒で喉を潤しながら、この青年に何か直感のようなものを感じた取った。
(18か・・・
18ね・・・
そっか・・・ 18か・・・)
そう何度も心の中で呟いた。
「18!!!
そうだよ、18だよ!!!
あぁぁ、何で気が付かなかったんだ!
あそこのボルトは18mmだ〜!!!」
突然大声で叫んだシドに青年はびっくりして、思わずフォークを置き、顔を見る。
シドは胸ポケットから手帳を取り出し、何やら難しい計算を解き始めた。
するするとペンが動く。
「よし! 出来たぞ! ありがとう!
君のお陰だ! これで、ここのところずっと解けなかった式が解けた。
私は仕事に戻るから。これも何かの縁だ。 良かったら私のところに遊びに来ないかね? 君、仕事はあるのか? そういえば、まだ名前を聞いてなかったね」 興奮して機関銃のように話しかけるシドに呆然としていた青年だったが、
悪い人ではなさそうだと、一瞬戸惑ったものの少し間を置いて名前を告げた。
「・・・ ガブラスと申します」
「そうか、ガブラス君、これが私の仕事場だ。 受付には君の名前は通しておくから、いつでも遊びにおいで。 リーフもこれくらいあれば来れるだろう」 そう言って、シドはガブラスに名詞とリーフを十枚程手渡した。
「じゃぁ」
支払いを済ませ、手を振りながら、あっという間にシドは店から出て行った。
名刺を見て、ガブラスはびっくりした。
そこには、この国の人間なら知らない人はいないだろうという名前が書かれていたのだ。
「ドラクロア研究所所長
シドルファス・デム・ブナンザ」
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2008/1/31