直線上に配置

LOVE NOTE   4
   

翌朝、いつもの時間にいつものように玄関のチャイムがピンポーンと鳴ってゲンマが迎えに来た。
 
朝が弱いカカシはサクモがいない時は、目覚まし時計を五つ掛け、やっとのことで起きるのだ。
寝癖のついた髪を直す間もなく、ネクタイを締め、片手にパンを持ち、慌しく玄関のドアを開けた。
 
「おはよ。 ったく、ちゃんと飯食ったのか?」
 
と、ゲンマが笑う。
 
カカシの肩にはファムがちょこんと座っている。
カカシは気になってしょうがない。

     「ヒュー こいつがゲンマねぇ・・・」
 
ファムが口笛を吹いて、ニヤリと口の端を上げて笑った。

     「結構、男前じゃん」
 
カカシは横を向きじろりとファムを睨みつけた。
 
「煩いな!」
「おいおい、どうしたんだよ? カカシ?
朝飯食ったか心配してやっただけなのに・・・
どっか調子悪いのか?」
「あぁ、ごめん、ゲンマ、何でもない」 
「オレらが、部活引退してから練習キツクなったってボヤイてたけど。
今度の部長はそんなに大変なのか?」
「えっ・・・ まぁ・・・」
「よし! オレからも少し言っておいてやるからな。ほどほどにしておけって」 
「ごめん・・・」
 
ゲンマはいつもとは様子が微妙に違うカカシに気が付いた。
よっぽど疲れているのかなと心配になってきた。
 
「なっ、まだオヤジさん、帰って来られないんだろ?
今日は部活ないよな? たまには、オレん家で晩飯食っていけよ!」
「いいよ、一人で大丈夫だから・・・」 
「煩い姉ちゃんがいて嫌なら、オレがカカシんち行くよ!
じゃぁ、帰り校門で待ってるからな!」
 
そう言ってゲンマがカカシに肩にぐいっと腕を回した。
 
「ひゃっ・・・」
 
いつもなら何とも思わないことなのに、今日はそんな行動一つでもびっくりしてしまう。
 
ファムは相変わらずニヤニヤしながら、カカシとゲンマを見ていた。

     「いい感じだねぇ・・・  ククク・・・」
  
それから、授業中もファムが気になって全然集中出来なかった。
お昼休みになったら、「腹減った」と言って、又オレンジが欲しいだの言い出すし。
「そんなもの学校には売っていない」と言うと、「じゃぁ、オレンジジュースでいいから飲ませろ」と、まったく煩いったらありゃしない。
オレは仕方なく、自動販売機でオレンジジュースを買ってやった。
でも、待てよ。 いくらファムの姿が見えないからっていっても、オレンジジュースは見えるだろ。
オレの肩の上でジュースのパックが動いていたら変だよな。
自分のパンも持って屋上に上がり、周りに誰もいない所でファムにジュースを飲ませてやった。
 
そんなこんなで、午後の授業もやっと終わった。
何だかどっと疲れた。 こんな毎日送っていたら、オレ、絶対おかしくなる。
とにかく、ファムを早く空の上に帰さないと、オレの身がもたないよ・・・
でも・・・ それって・・・ 
あぁぁ・・・ 考えただけでも頭が痛くなってきた。
 
バッグに教科書を詰め、ファムのいない方の肩にかける。
今日はやけに重く、ずしりと肩に食い込むようだ。
 
「そうだ、ゲンマと一緒に帰る約束してたんだっけ・・・
ご飯も食べるって言ってたよな・・・
これって、どうなのよ・・・ ただの偶然だよな・・・ 
アレのせいじゃないよな・・・」
 
オレはその思いを打ち消すように頭を左右に振った。
 
教室を出て、校門に着くとゲンマが待っていた。
校門前には、いつもの様に、女子高生達が携帯片手にオレを待っている。
毎度の事だが、オレはうんざりして、絶対に顔を撮られないように下を向いたまま
さっさと歩く。
今日はいつもよりちょっと多い。5〜6人はいるかな。
と思った瞬間、一人の女の子が小さなプレゼントを持ってオレ目掛けて突進してきた。
 
「あっ、あの・・・ はたけ君・・・ こっ、これ・・・ 」
 
するとゲンマがおれの前に立ち、きっぱりと言ってくれた。
 
「悪いな。 カカシは誰からも受け取らないことにしてるから。
さっ、帰るぞ、カカシ」
 
オレは、「ごめん」と一言謝って、ゲンマと一緒に歩き出した。
ゲンマが横にしっかり付き添いガードしれくれて、ほっとした。
一人の時にああなると、オレ一人で断るのにいつも一苦労するんだ。
 
「相変わらず、大変だな。
オレが卒業したら、どうするんだよ?」
 
ゲンマが心配そうに、カカシに囁いた。
 
「どうって言われても・・・ ここから帰るしか他に道はないしね。
しょうがないでしょ・・・」
「大学が早く終わる日は、迎えに来てやろうか?」 
「いいよ、そこまで・・・ 大学入ったら勉強大変なんでしょ?」
「ははは〜 大学なんて入るまでが大変で、入ったら後は遊びたい放題なんじゃね?」
「そんなもんなの?」 
「そっ、そんなもんさ。
さっ、晩飯、何食おうかな?
オレ、久しぶりにカカシの手料理食べたいな。
カカシのかぼちゃの煮物、母ちゃんより美味いんだよな〜」
なっ、カカシ頼むよ!」
 
ゲンマがにっこり笑って肩をぽんぽんと叩いた。
一瞬、びくりとしてしまった。
あぁ・・・ まただ・・・ いつもなら、何気ない仕草でも、今日は変に意識しちゃう。
自然に振舞わなくっちゃと、オレは自分自身に言い聞かせた。
 
「うん、いいよ。
後は簡単に焼き肉でいいかな? 
頂き物のお肉が食べきれなくって、冷凍したまま、まだ残ってるからさ、野菜だけ買って行こう」
「おぉ、いいねぇ〜!」
 
それから、二人でスーパーで買い物を済ませて、カカシの家に帰った。 
 
かぼちゃを煮物用と焼き肉用に分けて切って、先に煮物だけ鍋にかけておいた。
後は、肉と野菜を切って、ホットプレートを出して、焼くだけだから簡単だ。
準備している間に、かぼちゃも煮えて出来上がり。
 
「うわぁ〜美味そう! いただきま〜す!」
 
ゲンマがかぼちゃの煮物と焼き肉をガンガン食べる。
 
「おぉぉ〜 うめぇ〜
カカシ、料理の腕また上げたな!
オレん家の母ちゃんよりよっぽど上手だよ!」
「そんな・・・  お肉焼いただけなんだから、手料理ってほどのもんじゃないし。
でも、ホットプレート出したの久しぶりだったからさ、楽しいよ!
やっぱ、一人で食べると、ついつい簡単なものになっちゃうしね」
 
あっという間に、用意した肉も野菜も無くなった。
 
「ふぅぅ・・・ 食った、食った、ご馳走様!」
「お粗末様でした」
 
それから、ゲンマが片付けは自分がするとお皿を洗ってくれた。
そして、片付け終わると、リビングのソファーに座り、テレビを点け、お笑い番組を見てはゲラゲラ笑っている。
 
ファムは、腹が減ったとは言わずに、そんなゲンマを見てはニヤケている。
  
     「人間って面白いな・・・ ククク・・・」
 
カカシは時間が気になってしょうがない。
時計をチラリと見ると、もうすぐ9時になろうとしている。
昨日、あのノートにゲンマの名前を書いた時間だ。
確かあのノートには、24時間以内にって書いてあったよな・・・
このまま、何も起こらない・・・?
そうだよ、起こるはずないよな・・・
どうか、何も起こらないで・・・
カカシは願うように心の中で手を合わせ・・・
ゲンマとファムの顔を交互に見つめた。
 
 
 

                                                                                 2007/12/14

直線上に配置

BACK INDEX NEXT