木ノ葉隠れの里・バレンタインデー頂上決戦! 1
それはバレンタイデーがあと一週間に迫った日のこと。
任務報告書を提出し「お疲れさん」と手をあげ、部屋を出ようとしたゲンマの耳に、隣りの暗部待機所から、わははと大きな笑い声があがったのが聞こえた。 何だろうと気になり、待機所の扉を開け、中を覗いた。 そこには、ライドウ、アスマ、テンゾウ、ハヤテがいた。 皆の視線がいっせいにゲンマに向けられた。 「何、面白そうなこと企んでいるんだよ?」 「なっ、何でもないよな〜」 「う、うん、別に・・・何も・・・」 「今日の任務の話だよ」 ライドウとアスマがゲンマの顔を見ないで、惚けた言った。 ゲンマは、部屋入った時に、テンゾウが何やら紙を背中の後ろに隠したのを見逃さなかった。 テンゾウの前に行き、腰のポーチを指差した。 「オレにも、見せろよ」 「えっ・・・ボク・・・何も持ってないです・・・」 慌てるテンゾウの腰のポーチから、一瞬の内に、ゲンマは一枚の紙を取り上げた。 そこには・・・ 真ん中に一本の線が引かれていて、左側の一番上には、<カカシ>、右側の一番上には、<ゲンマ>と書かれていた。 そして、<カカシ>の下には、ライドウ・アスマ・テンゾウ・イズモ・コテツ・ハヤテ・アンコと名前が書いてあり、<ゲンマ>の下には何も書かれていなかった。 「何だよ?コレ」 (ここは年長者が)、との思いが一致したのか、皆の視線がライドウに集まった。 ライドウもそれを感じ取り、諦めた。 「あ、あのな、そ、その・・・」 「どう見たって、新しい任務の班編成には見えねぇよなぁ?」 ライドウは観念したのか、ふうと息を吐いた。 「じ、実はな、ほら、今週、バレンタインだろ。 で、何ていうか・・・ ま、カカシとゲンマの・・・」 その先の言葉が中々言い出せないライドウだったが、 そこまで聞いただけで、ゲンマにはあの紙の意味が分かってしまった。 「ほぉ〜 オレ様とカカシのどっちがたくさんチョコ貰えるか、って賭けてるの? お前らも暇人だねぇ」 「木ノ葉では、やっぱな、オマエとカカシだよな〜って」 「そうそう、ゲンマは、毎年たくさんもらってるな〜って」 ライドウとアスマは、冷や汗をかきながら、ゲンマの機嫌を損ねないよう、必死に煽てている。 「でも、オレに賭けた奴はいないじゃん! これじゃ、勝負にならないだろ?」 「いや、まだ、ここにいるだけしか書いていないからさ。 これから・・・」 「で、何賭けたんだよ?」 「あ・・・その・・・焼肉食べ放題、酒飲み放題」 ゲンマは、何かを企んだように、にやりと笑った。 「よっし!この勝負受けて立ってやる! お前らが勝ったら、オレが肉も酒も奢ってやる。 その代わり、オレが勝ったら、全員でじゃなく、お前ら、一人一回ずつ、奢れよ! それから、義理チョコのお返し代も出せよ!いいな?」 「本当に、いいのか?」 ライドウが心配そうな顔をして、ゲンマを見た。 「あぁ、見てろよ。オレ様の底力を見せてやるからな。 テンゾウ、お前、当日のチョコの受け取りを仕切れ。 オレもカカシも一人で、大勢から受け取るのは大変だからな」 「はい、わかりました! 何ならチラシでもお作りしましょうか?」 「おう、任せたぜ。 “木ノ葉隠れの里・バレンタインデー頂上決戦”だ!」 ゲンマは千本をくいと咥え、手をひらりと振って暗部待機所を出て行った。 そのまま、自分の部屋には戻らず、カカシのところに直行した。 皆にはまだ内緒だが、そう、ゲンマとカカシは所謂甘〜い関係なのだ。 「カカシ〜 帰ってるか?」 扉が開いていたので、部屋に上がった。 バスルームから音がしていたので、どうやらシャワーを浴びているようだ。 「ったく、鍵も掛けないで無用心だよな。ウチの姫は」 キッチンへ行き、冷蔵庫を覗いて、適当な食材を取り出し、簡単なつまみを作り始めた。 しばらくすると、カカシがあがってきた。 「おかえり〜 ゲンマ。 ごめんね。待機所に居なかったから、先に帰って来ちゃった」 キッチンに立つゲンマの後ろから抱きつき、おかえりのキスをちゅっと交わす。 「鍵開けっ放しだったぞ」 「だって、こんなとこ、ゲンマしか来る人いないよ」 「泥棒とか入られたらどうするんだ!」 「心配症だねぇ。ゲンマは。オレがやられるとでも思ってるの」 「そーじゃねえけどよ。カカシは何事にも無防備すぎるってんだよ」 ゲンマはカカシの額をつんと突いて笑った。 (ま、それが、何ていうか、可愛いところでもあるんだけど) 「ん〜いい匂い〜おいしそう!」 「あぁ、もうすぐ出来るからな」 激務後の食事はさっぱりめのものがいい。 朝はしっかり食べるが、夜は、お酒も飲むので、簡単なつまみ程度で十分なのだ。 手早く三品ほど作り終えると、ゲンマもさっとシャワーを浴びて、あがってから、ビールで乾杯した。 「なぁ、カカシ・・・今週末は・・・その・・・」 ゲンマが何か言い難そうにしていると、カカシはぽっと顔を赤らめ下を向いた。 風呂上りの肌が、さらに、ほんのり色づいている。 「うん、分かってるって。ちゃんと、オレ・・・がんばるから・・・ ゲンマ、楽しみにしていてね!」 カカシは、恥ずかしそうに、でも、嬉しそうに、ゲンマを見つめてそう言った。 「あ〜いや、その・・・実は・・・ オレとカカシがさ・・・みんなが・・・」 「ん?なあに?」 カカシが愛らしそうにちょこんと小首を傾げた。 (わわわ〜そんな可愛い顔して・・・ヤバイだろ・・・) ゲンマは、焼肉と酒を賭けて、カカシとチョコレートをもらった数で勝負するなんて言うのが恥ずかしくなった。 自分だって、カカシが木ノ葉ではナンバーワンだと信じている。 たとえどんな勝負だって、自分が敵うはずはない。 あの紙に書かれた名前が自分でなかったら、カカシの方に自分の名前を書いていただろう。 ただ、自分の名前の下に誰一人書いていなかったことに、腹が立っただけなのだ。 皆の前で自分が笑いものにされているような気がして、プライドが許さなかった。 まともに戦ったら、負けるのは分かっているが、ゲンマには、カカシが自分のことを想っているとの自信だけはあったので、裏の手を使えば勝てるとの勝算はあったのだ。 不知火ゲンマ、負け戦は決してしないと。 「カカシはさ、オレが皆の前で恥かかされたら嫌だよな?」 「う〜ん・・・そりゃあね」 「カカシは、何やっても里で一番だって、皆思ってるけど」 「そんなことないよ。オレなんか、真面目そうに見えても、結構適当なとこあるし」 「オレがカカシと勝負しても絶対に勝てない・・・よな・・・」 「何で、オレとゲンマが勝負するのよ?」 「みんなが見たいらしいんだ、オレとカカシの・・・」 「あ〜そっか!もしかして、さっきの・・・?」 「ん?ライドウ達に何か言われたか?」 「うん、何だか知らないけど、紙見せられて、ここに名前書けって。 でも、オレの名前はもう書いてあったんだよな。何の組み合わせなのか教えてくれなかったけど、ゲンマのチーム誰もいなかったから、 じゃぁ、オレはゲンマの方でいいよって書こうとしたら、そっちはダメ!ってさ」 「ったく・・・それだよ!オレとカカシのどっちがチョコをたくさんもらえるかって、賭けてたんだぜ」 「うわ〜何それ?ひっど〜 え、それで、もしかして、みんなは・・・」 「なぁ、カカシ、ここは、オレとカカシが組めば、アイツ等の鼻を明かしてやれるぜ。 オレを男にしてくれよな」 「うん、わかった、どうすればいいの?」 「そうだな・・・甘いものは嫌いとか言って、受け取らなければいいじゃん!」 「そっか、なら、そうするよ」 カカシは、何か言いたげにゲンマを見ては言葉を飲み込み下を向いてしまった。 「どうした?カカシ?」 「オレは・・・本当にチョコなんかいらないから、今年は断ろうと思ってたんだ・・・ で、でも・・・ゲンマは・・・ゲンマはやっぱ女の子からもらいたいの?」 ゲンマはそっとカカシの手を取り、指を絡めた。 「ば〜か。オレだって、カカシのだけで、十分だ。 オレも断るつもりだったし。 でもな、これは、アイツ等との勝負なんだ。男、不知火ゲンマ、皆の前で恥かかされてだまっちゃいらんねえだけだ。 分かってくれるだろ?」 「そっだね。みんなオレとゲンマのこと知らないんだしね! オレがもらわなければ、ゲンマの方が絶対勝つに決まってるよ!」 「よっし!アイツ等の財布が空になるまで、焼肉と、酒をおごらせてやるぞ〜!」 次の日、木ノ葉の里中に、テンゾウが作ったチラシがばら撒かれた。 「木ノ葉隠れの里・バレンタインデー頂上決戦! 今年のバレンタインデーは、はたけカカシと不知火ゲンマ、どっちがたくさんのチョコをもらるか? 14日の3時より、6時まで、火影屋敷屋上にて、特別受付所を設けます。 歴史的な世紀の頂上決戦に清き1個のチョコレートを是非!!! あなたのご参加をお待ちしてま〜す♪」 ゲンマは、すれ違う人々には、老若男女問わず、 「頼むね〜!」 「待ってるよ〜!」 と、手を振り、愛想笑いを振りまき、ウインクをしまくった。 もちろん、カカシの方にも、大勢の人が寄ってきては、 「がんばってね!」 「カカシさんの方が絶対勝つわよね〜!」 とか言っては、肩をバンバン叩かれる。 しかし、カカシはゲンマから言われたとおりに 「オ、オレ・・・甘いもの苦手だから・・・悪いけど、チョコはい・・・らないよ・・・」 今にも消え入るような小さな声で、カカシは恥ずかしそうに答えたが、みんなカカシにの言うことなんかまるで無視したかのように、 「数で勝負なら、私、たくさんあげるからね!」 「そうよ!私もたくさんあげる!絶対カカシの方が勝つに決まってるし〜」 「あの・・・その・・・だから、オレはチョコきらいでさ・・・」 「ねぇ、今から買いに行きましょうよ!」 「じゃぁね〜カカシ!がんばってね!」 カカシは、はぁぁと深い溜息を吐いた。 さっきから、ずっとこんな調子だ。 みんな自分の言うことをさっぱり聞いてくれない。 でも、すべては、ゲンマのためなんだと心の中で言い聞かせ、何を言われても、必死にチョコはいらないからと言い切っていった。 |
2009/2/14