お願いだから・・・ 1
オレとアイツは、ガキの頃からのマブダチで。
アカデミー時代も相当問題児だったが、中忍、上忍とあっという間に昇格し、そして暗部に入ってからは、一緒に組んだりもしてた。
それはそれはいろんな意味でオレ達の名前は、木ノ葉だけじゃなく、里の外にまで轟くようになっていた。
いつも連るんで遊んでいた。
酒も喧嘩もそして女も。
何をするのもアイツは半端じゃなかった。
もちろん、任務に支障が出るようなヘマは絶対しないし、任務は完璧にこなし、期待以上の成果をちゃんと出しているから、どんなに遊んでも文句は言われない。
戦乱の世が続く厳しい時代、明日の命も保障されないような日々の中で、それでもオレ達は精一杯楽しい青春時代を送っていたと思う。
あれは、去年のアイツの誕生日のことだった。
任務報告を済ませて帰ろうとすると、火影室の前の廊下で呼び止められた。
「ねぇ、シカク、今晩、空いてるよね?」
にっこり笑うその笑顔の裏を一瞬の内に読み取らなくてはならない。
(えっと・・・ 今日は・・・ 何だ? 何かあったけか・・・ 約束はしてねぇよな・・・
何日だ? 25日・・・ ん!!! そっか誕生日だ!!!)
この間僅か1秒、頭の回転が速いシカクは、忘れてたというような顔はこれっぽっちも悟られないようにこう言った。
「あぁ、もちろんだぜ。 オマエの誕生日だもんな!
みんなでぱぁ〜っとお祝いしよう! えっと、場所は・・・」
「あっ、今年はね、カカシやオビト達がお祝いしてくれるっていうからいいんだ。
その・・・ 終わったら、シカクの家に行ってもいい?
食事は済ませてくるから、何にもいらないからね」
「あっ、そう・・・ じゃぁ家で待ってればいいんだな」
「うん、9時過ぎには行けると思うから」
そう言って、アイツは手をひらりと振りながら消えて行った。
オレは、何もいらないとは言ってたが、せめて、ケーキとアイツの好きな酒くらいは買っていってやろうと思った。
家に帰ったオレは飯を適当に済ませ、ビールを飲みながら、テレビを見て待っていた。
毎年、アイツの誕生日は・・・
女の子達が、豪華な誕生日パーティを計画してくれて、大勢で賑やかに祝っていた。
オレは、会場の店に行き、お金を出すだけで、プレゼントなんかも用意されてたから、個人的に何かをあげるなんてことはしたことなかった。
今年は別の日にするのか・・・
それとも、アイツが断ったのか・・・
そういえば・・・
最近、女遊びに誘われることもなくなっていた様な・・・
オレは、ふとそんな事を考えては、もしかして・・・
と、ある結論を引き出した。
今まで、決して本命を作ることのなかったアイツに・・・
へへぇ〜 そういうことか。
こりゃ、面白いことになったなと、一人でにやけていた。
なんて、妄想を巡らせていたら、
コンコンとドアをノックする音がしてアイツが部屋に入って来た。
「お邪魔しま〜す」
手には教え子から貰ったのか大きな紙袋を大事そうに持って、満面の笑みを浮かべている。
「シカクの部屋久しぶりだな〜」
「おぅ、そっかな・・・
飯はいらないって言ったけど、小さなケーキだけ買っておいたし。
オマエは、このくらい別腹で入るだろう?
酒は何でもあるからな、何にする? オマエの好きな酒もちゃんとあるぜ」
「ありがとう、お腹いっぱいなんだけどね。
せっかくシカクが買ってくれたんだから、戴くよ!
とりあえず、ビールでいいや」
シカクは、冷蔵庫から、ケーキとビールを取り出した。
「じゃ、誕生日おめでとうってことで」
「ありがとう」
「乾杯!」
二人はビールのグラスをかちんとぶつけて一気に飲み干した。
ケーキは小さないちごのバースディケーキだったけれど、ちゃんとお誕生日おめでとうと書かれたプレートも乗っていた。
「一応、ろうそくも付けてもらったが、どうする?」
「さっきもしてくれたけど、これはシカクからだもんね。
何度しても嬉しいもんだよ。 火付けてよ」
シカクが、火を付けて、歌を歌ってあげると、嬉しそうに、ふうっと火を消した。
「悪いな・・・ プレゼントはこれだけだぞ」
「いいんだよ、急に来て悪かったね」
「まっ、酒はいくらでもあるから、じゃんじゃん飲んでくれよ。
子ども達と一緒じゃまだそんなに飲んでないんだろ?」
「あぁ・・・ うん・・・」
アイツはケーキを美味しそうに食べながらも、何か言いたそうだった。
「よぉ〜し、朝までぱぁ〜っと飲むか!」
「シカク・・・」
「ん? 何だよ」
何だかいつものアイツとは少し様子が違う。
そっか、やっぱオレの直感は当たってたんだな。
何か相談でもあるのか。
いつも何でも言いたいことはズバズバ言うアイツが何なんだこの有様は。
オレは、おかしくなってきて、このままもう少し、めったに見られないアイツを見ていようかと、意地悪な気持ちも湧いてきたのだが。
アイツは覚悟を決めたかの様に、オレの目をまっすぐ見てこう言った。
「オレ・・・ 好きな人が出来た・・・
だから・・・
もう、遊びで女は抱かない・・・」
(おぉぉ・・・ やっぱな・・・)
「へぇ、よかったじゃないか。
俺達もいつまでも遊んでばっかじゃな。
今年は、パーティやらなかったから、もしかしてそうかななんて思ったけど。
っていいのかよ? こんなところで酒飲んでて?
あぁ、これから彼女のとこ行くのか?
もしかしてオレにわざわざ報告に来てくれたのかよ。
それはそれはありがとうさん。
もう、オマエと遊べなくなるのは残念だが、まっ、うまくやれよ!」
オレは、本当に嬉しくなって、心から祝福してそう言ったんだ。
なのに、アイツの口から出てきた言葉にオレはビックリした。
「何言ってるんだよ・・・
ちゃんと人の話最後まで聞いてよ。
オレ・・・ その子には、まだ好きって言えないんだ・・・
たぶん、これからも、言えないし・・・ オレじゃ・・・ 幸せには出来ないと思う・・・
シカク〜 オレ、こんな思い初めてで・・・
どうしたらいいのか分からないんだ・・・
苦しくって、苦しくって。 一人で悩んでたら、おかしくなりそうだから、
とにかくシカクに聞いてもらおうって思って・・・」
オレは思わず吹き出して笑いそうになったが、アイツの真剣な顔見てたら、そんなことは出来なかった。
確かに女に不自由したことはなかったが、よく考えてみれば、どの娘も真剣に付き合っていたというわけではなかったし。
この歳で、これが初恋ってことなのか。
「オマエがそこまで思い詰めるなんてよっぽどのことなんだな。
本当に好きだったら、それこそ、見ているだけで胸が高鳴って。
とてもじゃないが、手を出すとか出来ないだろうな」
「そうなんだよ・・・
今まで意識していなかったのに、何だか最近急に眩しく見えて・・・
これまでとは全然違う感情を持ってることに気がついた・・・
そうしたら、もうだめ・・・
自分でも信じられないくらいだよ」
「ホント、あのオマエがね〜
それにしても、幸せに出来ないって何だよ。
まだ、何にもしてないのに、そう決めることはないだろ。
もっと自信もって、告ってみたらどうよ」
「ダメ!ダメ! そんなこと絶対出来ないよ・・・
オレなんかが・・・ 嫌われたくないし・・・ いいんだよ・・・ このままで」
「へぇ〜 意外と純愛ってか・・・
まっ、あんまり思い詰めるなよ。
誰にも言えないんだったら、オレが何でも聞いてやるからな」
「ありがとう」
アイツがその娘の名前を言わなかったから、オレから聞くことは敢えてしなかった。
いつか、教えてくれるだろうと思ってもいたし、ああ見えてアイツは結構顔に出るタイプだから、そのうちに分かるんじゃないかなとも思っていた。
とにかくあんなに思い詰めた顔は今まで見たことなかったから。
アイツをそこまでにするんだから、それはそれはたいした娘なんだろうと思って、
何人か頭に思い浮かべてみたものの、オレの知ってる範囲には当てはまる娘は一人もいなかった。
そして、アイツは下を向きながら、顔を赤くしてもじもじしながら、驚くべきことを言いやがった。
「で、シカクにお願いがあるんだけど・・・」
「オレに出来ることだったら、何でも協力してやるよ!
一番大事な親友の初恋のためなら、一肌でも二肌でも脱ぐぜ〜!」
「本当?」
「あぁ、任せておけ。
オレがその娘に何気なく探り入れてやろうか?」
「そうじゃなくて・・・ そんなことはしなくていい・・・」
「じゃぁ、どうすればいいだ?」
言いづらそうで、中々口にださないアイツ。
オレは、少し待ってやろうとビールを一口飲んだ。
「あの・・・ その・・・
お願い・・・ オレを抱いてよ・・・」
オレはビールをプ〜っと思いっきり吹き出してしまった。
「はぁ!? 何それ? 意味分かんねぇ!
何でオレが? オマエを?」
顔を真っ赤に染めて、恥ずかしいのか、両手で顔を覆って下を向いている。
「だって・・・」
「だってもクソもあるか・・・」
アイツはそっと顔を上げ、上目使いでにっこり笑ってオレを見つめた。
「好きな人がいるのに、遊びでもう女は抱けないでしょ・・・
でもさ・・・ じゃぁ、溜まったらどうするのよ・・・
いいじゃん、シカクとオレなら友達なんだから!」
「あのな・・・ どうしてそういう発想が出来る訳?」
「さっき、一肌脱いでくれるって言ったよね?」
「バカヤロウ! 意味が違うだろっ!」
オレは頭を抱えて、大きなため息をはぁっとついた。
そんな顔でオレを見るなっていうの。
オレはアイツのこの笑顔はダメなんだよ。
別に弱みを握れられてる訳でもないんだが。
昔から、この笑顔を見せられると、不思議と何でも言うこと聞いちゃうんだ。
全く・・・ あぁぁ〜 何でこうなるんだよ。
急にアイツは立ち上がり、オレの隣に身体を寄せてきた。
「ね、いいでしょ〜 シ〜カ〜ク〜
お願いだから〜」
「ありえねぇ・・・」
と、言った次の瞬間、オレの身体はぱっと宙を浮き、隣の寝室のベッドの上に押し倒されていた。
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2007/8/5