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鈴の音   5
   

「先生・・・」


「せ・・・ん・・・せ・・・え・・・」


ぎゅっと手を握られた。


「おい、大丈夫か?」


目を開くと、
目の前で黒い瞳がオレの顔を心配そうに覗いていた。

「寝言言ってたぞ。
怖い夢でも見たのか?」
「ううん・・・」

(いい夢だったよ・・・)

「起きれるのか?」

キッチンの方から美味しそうな匂いが漂ってきた。

「うん、おなか空いた」

サスケがにこりと笑って、ぐぃっと手を引いて起こしてくれた。
なんか、いつも、サスケに起こしてもらっているみたいだな、オレ。

「ご馳走、いっぱい作ったからな。
早く、食べようぜ」

テーブルの上は、豪華な料理で隙間なく埋め尽くされている。
誕生日の料理にはちょっと不釣合いな秋刀魚が、目の前にどんと置かれていた。
和食中心に、どれもオレの大好物ばかりだった。

「ま、とにかく、乾杯だ」

ビールで乾杯をして、食べ始めた。

「うわ〜すごいね〜こんなにたくさん!
二人じゃ食べきれないよ〜?」
「今日は、腹いっぱい食えよな。
あんた、一人だとろくなもん食わないだろ?
夜は酒ばっか飲んでいるし、少し痩せたんじゃないか?」
「そ、そんな・・・ちゃんと食べているよ。
なんか、オレ、サスケに怒られてばっかだね・・・」
「オレが里にいない間、あんた、一人でここまでよく生きてこられたなと、感心するぜ。
まったく」
「オレもサスケがこんなに料理が上手だったとは、感心しました」
「アジト暮らしなんて、サバイバルみたいなもんだ。
オレだけ何もしなくっていいってわけにはいかないんだよ。
それぞれが、何でもやらなくっちゃならなかった。
香燐は、ああ見えて、結構料理が上手かったからな」
「へえ〜そうなんだ。
香燐ちゃんが先生なの?今度、呼んで、一緒に飲もうよ」
「アイツは、ウザイからいい」

他愛もない会話が続き、あれほどたくさんあった料理もほとんど片付いた。
サスケはキッチンに戻って、冷蔵庫から、白い箱を取り出して持って来た。
そして、それをテーブルの真ん中に置いた。

「32本って言ったら、太いのが3本で、細いのを2本くれたぜ」
「え〜もうおなかいっぱいでケーキなんか食べれないよ」
「蝋燭消すだけもいいだろ」

そう言って、笑いながら蝋燭に火を灯して、そして、サスケがハッピーバースデイの歌を歌ってくれた。

「ほら、カカシ、消せよ」

それは、二人用の小さな小さなケーキだったけど、
ちゃんと、「カカシお誕生日おめでとう」
なんて、プレートも乗っていて。
サスケが、どんな顔して、このケーキを買ってきたのかと思うと、
吹き出しそうになった。

ふうっと消したら、フォークで一口ケーキをすくって、口元まで運んでくれた。

「あ〜んは?」

ちょっと、もう、すんごい、こっ恥ずかしいんですけど!!!
サスケって、平気でこういうことするんだよなあ。
いい大人に向かって。
ま、今日は、特別だからね。

「ん、そんなに甘くなくて、美味しいよ」
「あたりまえだ、特注で、甘さを抑えてもらったんだからな」
そう言って、サスケも一口、自分の口に運んだ。
サスケはフォークを置くと、腰のポーチから、何かそっと取り出した。

「カカシ、お誕生日おめでとう。
オレからのプレゼントだ」

にっこりと笑って、サスケがオレに渡してくれたものは・・・

え・・・

これって・・・???

そ・・・

そんな・・・

まさか・・・


オレはドキドキして、オレの掌に乗せられた綺麗な箱を見つめていた。
手も足も震えてきて、どうしようかと思った。

「開けて見ろよ」

何だか不思議な気持ちになった。
そして、どこかで、同じ場面を見たことがあるような気がして、
こういうのって、何て言ったっけか?
えっと、たしか・・・
そう、「デジャブ」って言うんだっけ?

「あんた、欲しいもの何にもないって言うから、
迷ったんだけど・・・」

頬をほんのりと染めたサスケが、恥ずかしそうな顔で、オレを見つめてくる。

震える手で、箱をそっと開けようとした瞬間!

思い出した!!!

そうだ!

あれは、先生が祝ってくれた最後の誕生日だ!!
あの時、オレは・・・


懐かしさや、
嬉しさや、
暖かさや、
そして、先生を失った悲しさも。

それから、
サスケと初めてあった日のことや、
下忍試験の鈴取りのことや、
波の国の任務や、
中忍試験や、
木ノ葉病院の屋上のことや、
サスケを抜けさせてしまった日のことが、

一瞬にして、走馬灯のようにオレの頭の中を駆け巡っていった。


受け取って欲しい。
サスケに。

あの鈴を。

オレの一番大切な宝物を。

そう、心から思ったんだ。

中々箱を開けないオレを不思議そうに見ていたサスケに、
こう告げた。

「ありがとう、サスケ。
欲しいものはないんだけどさ、
ひとつだけ、オレの願いを聞いてくれる?」

「何だよ、急に。
別に、いいけどよ。
カカシの願いだったら、何だって聞いてやるぜ」
「オレからのプレゼントも受け取ってくれる?」
「はぁ!?
何で、カカシの誕生日なのに、オレがプレゼントもらわなくっちゃならないんだよ。
おかしいだろ?」
「いいの!いいの!夢を叶えてくれるってことが、
オレにとっては、最高のプレゼントになるんだけど」
「なんか、訳わかんねえけど、
カカシが喜んでくれるなら、何だって貰う」
「ちょっと、待っててね」

オレは、寝室の机の引き出しの奥からあの箱が入った桐の箱を持ってきた。

きょとんとするサスケの顔が可愛い。

「さ、手を出して。
はい、これがオレからのプレゼントだよ!」
「あ、ありがとな」
「ん、じゃぁ、サスケのプレゼント開けるね」

オレは、ゆっくりとその綺麗な箱を開けようと思ったら・・・

「いや、いい。
そ、その、オレの方から開ける。
ん、その方がいい」

サスケは、包んであった黄色い絹の袱紗をするりと解き、桐の箱の蓋を開けた。

「こ、これって」

サスケは、目を大きく見開いた。
同じような色、
同じような形の箱を見て、サスケがびっくりしている。
そう、さっきオレが貰ったものと、とっても似た形の箱が出てきたからだ。

「どうしたの?サスケ?
さぁ、開けてみてよ!」
「う・・・ん・・・」

サスケが、ゆっくりとその箱を開くと・・・・

「え?この鈴って・・・?」
「オレの一番の宝物だよ!
ずっと、サスケに貰ってもらいたいと思ってたんだよね〜
受け取ってくれる?」
「カカシ・・・この鈴って、
もしかして、あの時の・・・?」
「そうだよ。サスケの下忍昇格テストの時のね。
これは、元々、自来也様から四代目へ、四代目からオレへと受け継がれたものなんだ。
そして、オレは、これをサスケに受け継いでもらいたい。
これから、サスケだって、上忍師として下忍を担当する時が来るんだよ。
この鈴には、自来也様の火の意思も、四代目の火の意思も、そして、オレの火の意思もいっぱい込められているんだ」
「オレ、下忍担当なんか出来ないよ・・・」
「いつまでも、綱手様から逃げられやしないと思うよ、いいかげん腹くくれば?」
「綱手様やあんたのおかげで、以前に比べれば、抜け忍という目では、見られなくなったけど。
上層部や一部の大人達の中には、未だにオレのことよく思っていない奴もいる。
そんなオレが、里の未来を担う下忍の担当に就かせてもらえるなんて、正直、思ってもいなかった。
オレはどこまでも裏の任務に徹して、里を護ることが出来ればそれだけいい、と思っていたし」

なんか、どっかで聞いたことのあるようなセリフだよ。
どんだけ似た者同士なんだろうね、オレ達は。

ねえ、サスケ。
だったら、オレも同じ言葉を返してあげるよ。
先生から、もらった大事な大事な言葉を。

「あったりまえじゃ〜ん!サスケだったら、いい先生になれるよ!きっと!
そうだ、もしもオレが結婚して、子どもが生まれたら、サスケに担当になってもらおうかな!
うん、決まりだね!今の内に、予約しておこうっと!サスケ先生!」

「ばかやろう!!!何てこと言いやがるんだ!
あんたが結婚なんて出来ると思ってのかよ!!!
ああ、クソ!腹が立つ!
とにかく、いいから早くあんたもオレのプレゼント開けやがれ!」

え?サスケったら何怒ってるのよ?

「おら、早くしろ!」
「はいはい」

オレはゆっくりとその同じ形の箱を開いた。

「ええええええええ〜!!!
ちょっ、これって????
え〜何これ?どうすんの?」

「どうも、こうもねえだろ!
左手出せ!」

サスケは、それを箱から取り出すと、
オレの左手の薬指にはめてくれた。

「いいじゃん、サイズぴったりだな」
「サスケ・・・?
あの、これってどういう・・・意味?」

「カカシ、結婚しよう!」



                                                                               2009/10/4

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                                 5話で終わるつもりが、長くなってしまいました。
                                あと1話で終わります。
                                最後は、もう〜 ギャグですので!笑っていただけると、嬉しいです!