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秘伝封印術巻ノ五   2
   



「あれは・・・夢だったのか・・・?
それにしても、リアルだったよなぁ・・・」

明け方、妙な感覚にはっと目を覚ましたシカクは、不思議な気持ちになった。

「確かに、アイツの声が聞こえたような気がしたんだが・・・」



* * * * *


今日も壮絶な暗部任務だった。
カカシの活躍のお陰で何とか任務を終え、無事帰還を果たしたシカクは大門前でほっと息をついた。

「今日は散々だったな。予定より遅くなったから、報告はオレとカカシだけで済ませてくる。
任務完了!ここで解散とする。お疲れさん」

隊長のシカクがそう告げると、暗部五班は一瞬の内に煙とともに消えて行った。

「無理をさせてすまなかったな」
「いいえ、自分に与えられた任務をしただけです」

今日のように、無茶苦茶に敵に突っ込むカカシの戦いぶりを見て、シカクは引っかかるものを感じとっていた。
多分・・・
行きたいのだろうと思う。
アイツの元へと。


シカクと一緒に三代目に報告に済ませて、カカシが帰ろうとすると、肩をぽんと叩かれ引き留められた。

「カカシよ〜、おまえちゃんと飯食ってんのか?
また、少し痩せたんじゃねぇのか?」
「大丈夫です。しっかり食べてますから」
「カカシ・・・今日は・・・?」

カカシはゆっくりと首を横に振った。
過酷な暗部任務の後は、昂った熱を解き放つために、暗黙の了解の元、肌を重ね合う二人だったが、
どうやら、今日はカカシからの要求はなかったようだ。

「明日の晩は・・・予定入ってんのか?」
「いえ、別に」
「なら、おれん家に来いよ」
「・・・え・・・あ・・・あの・・・」

何も言わないが、多分、明日がどういう日だか知っていて、この人は誘ってくれているんだと、カカシにはわかった。
だが、家族がいる家に呼ばれるということに、驚きと戸惑いとが混ざり合って、何て答えてよいのか、咄嗟に言葉が出て来なかった。

(どうしよう・・・今のところ、誰からも何も言われてないけど・・・)

「ま、明日、来れたらでいいからよ。たまには、ウチで飯でも食おうや」
「は、はい・・・行けたら・・・お伺いします」
「シカマルがよ。カカシに会いたがってるんだ」
「は?」
「前にスーパーで会った時、遊んでくれただろ?」
「え・・・そう、だったかな・・・」
「カカシは食べられないものはあったっけか?」
「あ・・・はい、揚げ物とか・・・甘いものはちょっと苦手で・・・」
「よし、わかった。明日は久しぶりの非番なんだ。ゆっくり身体を休めろよ」
「はい、失礼します」


上忍宿舎へと戻ったカカシは、ドアの隙間に紙切れが入っているのを見つけた。
開いてみると、ゲンマからの手紙だった。

「オレとアスマとガイの3人共、急に明日から国外の任務に出ることになっちまった。
悪いけど、カカシの誕生日は、帰ってきてからな。
たぶん、週末には戻れると思う。帰ってきたら、連絡する」


「そっか・・・どこに行くのかな・・・?
雷との国境警備がヤバイって言ってたから、行ったら最後、しばらく戻って来られないだろうに・・・
オレの誕生日なんかどうでもいいけど、みんな無事に帰って来て欲しいな」

柔らかな月の明かりが差し込んでいるだけの部屋で、灯りも点けないまま、カカシはベッドに倒れ込んだ。
カカシは窓の外の満月を見上げて、まるで、そこに人がいるかのように語りかけた。

「先生・・・
早く・・・
先生に会いたいよ・・・
写輪眼を使いまくって・・・
チャクラが底をついたら・・・
先生のところに行けるんじゃないかってさ・・・
そう思って・・・
無茶苦茶突っ込んでいくと・・・
隊長がいっつも、止めるだよね。
あの人には叶わないよ。
全部、見透かされてる」


背中を丸め、膝を抱えて、声を押し殺す。
胸の底から込み上げてくるものを、ぐっと飲み込んだ。


「先生・・・
先生は今何をしているの?
オレのこと、見える?
先生、手を・・・
手を伸ばしてよ・・・
オレのところに・・・
ねぇ・・・
明日が来る前に、
早く・・・オレのことを呼んで・・・」

我慢し切れずに、透明な雫が溢れ出て、カカシの頬を濡らした。



 * * * * *



次の日、カカシは一日中部屋に引き籠り、一歩も外に出ていなかった。
晩になっても、友達はみんな任務に出払っていて、カカシは結局何の予定もないままだった。
何をするのも気だるくて、身体も重たかったのだが、このままでいても、ろくなことしか考えないだろう。
いつもお世話になっているシカクが自分のことを心配して、わざわざ声をかけてくれたのだから、
その思いには答えなくてはならないとカカシは思った。
とりあえず、着替えを済ませ、外に出た。
手ぶらで行くのも申し訳ないと思い、八百屋で果物を買って行った。


「こんばんは」
と、声をかけて玄関の扉を開けると、シカクの息子のシカマルが、だだだだだっと廊下を走ってきてカカシを迎えてくれた。

「カカシが来たー!父さん、カカシが来たよ!」
「おう、悪い、今手が離せないんだ。上がっててくれ」

廊下から顔だけひょこんと覗かせて、シカクがそう言うと、カカシはシカマルにぐいっと手を引っ張られて、部屋に上がった。

「こっち、こっち!」

シカマルに連れて行かれたところは、縁側だった。

「ねー勝負しようよ!カカシ!
オレ、すごっく強くなったんだぜ」

将棋盤の前に無理矢理座らせられて、カカシは戸惑った。

「シカマル君・・・
オレ、将棋なんて、最近してないから忘れちゃったな・・・」
「え、そうなの?じゃ、オレがカカシに教えてあげるから!」

「これはここね」と、得意げに言いながら、もみじのような小さな手で将棋の駒を並べるシカマルに、幼い頃の自分を重ねて、胸がじんと温かくなってきた。
サクモが謹慎中、兵法と合わせて将棋もカカシに教えていたからだ。

シカマルが一生懸命ルールを教えてくれる。
カカシはにこやかに笑いながら、それを聞いていた。

「カカシは父さんと一緒にやったことないの?」
「え、何を?」
「将棋だよ。父さんが誰かをウチに連れてくるのは、将棋をしたいからなんだ」
「将棋はないな、任務は一緒にしたことあるけどね」
「父さんはとっても強いんだよ。
木ノ葉じゃ、父さんが一番だよ!」
「へぇ、すごいんだね」
「でも、いつか、オレの方が強くなってみせる!絶対にね」
「それは、大きな目標だね。
だって、木ノ葉で一番なんだろ?」
「うん、父さんより強くなって、火の国一になるんだ!」

それから、しばらくシカマルに付きあって、適当に将棋を打っていたカカシだったが、気がつくといつのまにか真剣勝負になっている。
この歳にして、中々鋭い手を打ってくるシカマルに驚いていた。

「お〜い、シカマルー!準備出来たぞ、カカシを連れて来い!」
キッチンの方から、シカクの声がした。

「え〜もう少しでオレが勝ちそうなんだから!もうちょっと待ってよ!」
「シカマル君、じゃぁ、このままにしておいて、ご飯終わってから続きをしようよ」
「だめだよ。もう、先の先まで手を考えてるんだから!」

中々来ない二人を呼びに、シカクが縁側までやってきた。

「折角父さんが作った料理が冷めちまうだろ。
シカマル、後でしろよ」
「だって、だって、オレがカカシに勝つんだもん!」
「シカクさん、シカマル君、本当に強いですね。
オレ、このままやっても勝てそうにないですよ」
「ま、将棋だけ強くってもな」
「オレ、アカデミーに入ったら、忍術だって頑張るもん!
父さんみたいに、強い忍になるんだから!」
「はいはい、楽しみにしてるよ。
わかったから、今は飯の時間だ。
シカマル、今日はカカシの誕生日のお祝いなんだからな」
「あ、そうだった!さっき、母さんがケーキを焼いてたから、オレの誕生日はまだなのに、どうして?って聞いたら、カカシ君のケーキだよって、母さんが言ってたんだ」


もう一度、シカマルの手に引っ張られて、カカシはダイニングテーブルに座らせられた。
テーブルの上には、これでもかという位たくさんの料理が並べられていて、真ん中には甘いものが苦手だというカカシのために、生クリームのないチーズケーキが置かれていた。

「これなら、多分、カカシ君にも大丈夫だろうと思ってね。
チーズケーキだから、そんなに甘くないのよ」

ヨシノがにっこりと笑って、ろうそくに火を点けた。

「誕生日おめでとう、カカシ!」

シカクとシカマルが歌を歌ってくれて、カカシは照れながら、火をふうっと消した。


賑やかに、
和やかに、
楽しいひとときは過ぎていった。

食事が終わって、また、将棋の続きをして、
カカシを離さなかったシカマルの瞼がいつのまのか、閉じられたままになり、
シカクが抱き上げて、ベッドまで運んで行った。

温かくて、
笑い声の絶えない家。
どこにでもある平凡なこの場所は、
自分には、無縁の世界だとカカシは思っていた。

だけど・・・


ダイニングに戻って、もう一度飲み直していたシカクが、カカシを真っ直ぐ見つめて、話し始めた。

「なぁ、カカシよお〜
シカマルの、師になってくれないか」
「え?オレが・・・シカマル君の?」
「あぁ、親馬鹿ちゃんちゃこりんで、笑ってくれてもいいけどよ、
こいつ、親の目から見ても、かなり、できると思うんだよ。
時々、将棋打ってて、はっとさせられるんだ。
只、記憶力がいいとかいうレベルじゃなくて、
こう、何て言うか、こいつ、どんだけ先を読んでるんだって」
「オレは・・・多分・・・ずっとこのまま暗部で・・・
そんな・・・上忍師になるなんてこと・・・」
「カカシなぁ、お前だっていつまでも暗部だけってわけにはいかんだろ。
今日、一つ歳をとって。十八になって。来年も、再来年もってさ。
そして、いつか、上忍師になって、下忍の面倒見ることになるんだよ、なぁ」

過激な裏の任務を請け負う暗部の忍は、短命か、もしくは、精神を病んで除隊になるか、
いずれにしても、暗部をシカクのような年齢までこなす忍は滅多にいなかった。
カカシは、ここにいれば、早く先生の元に行けるとの思いだけで、暗部にいたのだ。
まさか、暗部を引退してから、上忍師になるなんてことは、今まで考えたこともなかった。
シカクはそんなカカシのことを何もかもお見通しだ。
カカシに少しでも未来を見つめて欲しかったのだろう。
だから、まだ幼い息子の師になって欲しいと、敢えてカカシに頼んだのだ。

「オレが・・・下忍に・・・教えるなんて・・・」
「ばーか、お前の師は誰なんだ?」

シカクはにやりと笑って、ビールをぐいっと飲み飲み干した。



* * * * *



「ねぇ、ねぇ、シカクったら〜
ちゃんとオレのカカシ君の面倒見てよ〜
ちょっと、あれじゃ酷いんじゃない?
カカシ君、一人で突っ込ませてさ!
あんなことしてたら、カカシ、オレのところに来ちゃうじゃないのー!
もしそんなことになったら、シカクのこと許さないよ!
そりゃぁ、シカマル君が可愛いのはわかるけどさ!
オレとの約束、しっかり守ってよね!
オレには何でも見えてるんだから!
隠そうとしたって、無駄だからねー!
じゃ、頼んだよ!よ・ろ・し・く・ね!」


「はいはい。
ったく、いつまで経っても、おまえって奴は・・・」




                                                                               2011/09/22

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                              2話目は、シカクカカ+シカマルのお話です!
                                   忍界大戦で、大活躍中の奈良親子!
                                   シカマルも我愛羅の補佐でも実質隊長で!
                                   シカクパパも雷影の代理で忍連合の指揮を取ってるし!
                                   
                                   ウチでは、若い頃はシカク四なんて設定もありますんで(笑)
                                   四はシカクにも会いにいってると思います。
                                   もちろん、カカシのことを頼みにね。
                                   ま、四に頼まれなくっても、シカクはちゃんと面倒みてますけど!
                                   シカマルがちっちゃい頃も、シカクの家に呼ばれて遊びに行ってたんじゃないかなぁと妄想して、今回のお話を書きました。
                                   仔シカマルに「カカシ」と呼ばせたかったんです。
                                   「カカシ兄ちゃん」とか絶対言わなさそうですよね。
                                   奈良親子書けて、とっても楽しかったです。
                                   
                                   
                                   シカマル、お誕生日おめでとうー!