「秘密の部屋と世紀の告白」 (無月の浪 トモ様より)
「で?」
「…で?って、さぁ。カカシってば冷た〜い」
明け方、その日の里外任務から戻ったカカシを暗部棟で待ち伏せて。
部隊長からの任務報告もそこそこに、あっという間にカカシを拉致った四代目火影は、閃光の名に恥じない素早さでもって、可愛い可愛い愛弟子を秘密の部屋へと連れ込んだ。
そして部屋に入るなり、見て見てv誉めて誉めて〜vvとばかりに、四代目は自信満々胸を張って、間取りの説明をしたのだったが。
けれどそんな四代目にカカシがかけてくれたのは、冒頭のクールな一言、ただそれだけだったのである…。
「ねぇ、カカシ。何か他に言うことはないの?」
「……ないです。つうか、もうなんか力が抜けて」
「あ!そうか。カカシは任務明けで疲れてるもんね」
「………いえ、そういうことではなく」
「ん?」
「あー。なんて言ったらいいのか…」
「まぁいいや、難しいことはさておいて、だ。とりあえず、カカシはココ、気に入ってくれたかな?」
「……というか、えーと、…まず訊いておきたいことがあるんですが」
「ん、なに?」
「あのですね、先生。その…、何でシャワー室の壁が、…全面ガラス張りなんです?」
「そりゃ、俺がいつでもどこでもカカシの姿を見ていたいから」
「………それじゃ、このムダに大きなベッドが、…円形をしてるのは?」
「もちろん、カカシを載せてぐるんぐるん回転させたいからに決まってるじゃない」
やだなーもーどうよ俺のこのセンス。俺の愛の深さを分かってくれたかなぁと、ニコニコ嬉しそうに頬を染める四代目を前にして、カカシは思い切り脱力した。
我が師匠ながら、ヘンだヘンだとコトある毎に呆れてきた四代目の突飛な行動ではあるけれど、今回はまたいつにも増して飛びぬけてヘン過ぎる。
カカシは溜息を零した。
が。いやいや待て待て、そもそも訊きたかったのはそこじゃない。
なんでまた四代目火影ともあろうひとが、執務室の壁をわざわざくり貫いてまで、ココにこんな出来損ないのラブホみたいな空間を作らなくてはならなかったのか。
しかも、特殊な結界忍術まで使って、何をそんな自慢げに…。
ムリヤリ四代目火影の秘密の部屋に連れ込まれ、その不可解な現実にただ呆然とするしか術のなかったカカシは、回答の出ない疑問の山に埋もれて、今にも窒息してしまいそうな錯覚を覚えていた。
…だが愛に目覚めた四代目にとってみれば、そんなカカシの途惑いなど、ほんの些末な違和感にすぎないものとしか受け止めることができない。
己の書いたシナリオに従い、そそくさと次のアクションを起こす四代目。
「じゃじゃじゃじゃーんvv」
四代目は、ベートーベンの交響曲第五番「運命」を口ずさみながら、一抱えもありそうなほど大きな薔薇の花束(真っ赤)をカカシに差し出すと、黙っていればナルト界随一の男前と噂されるその端正な美貌を殊更見せ付けるように微笑んで
「…カカシ、愛してるよ」
一世一代の告白をしたのであった。
けれども。
予想だにしない出来事の連続で、軽くパニック状態に陥ったカカシはといえば、四代目のそんな世紀の告白さえも、右の耳から左の耳。
挙句、このデカイ薔薇の花束は、いったいどこから出されたのだろう?マジックなのかそれとも忍術だったのか?
そんなどうでもいいようなことばかりを、ただヒタスラに考えていたのだった。
…もちろん、この丸い回転ベッドの下に、四代目火影が嬉々として用意したムチだの手錠だのなんだのかんだのが隠されていることなど、カカシは当然知る由もない。