「秘密の小部屋とガラスの箱」 (BLUE ROSE カオル様より)
あれれ?
カカシを受け止めるべく両手を思いっきり広げてスタンバイしていた四代目は首をかしげた。
せっかくステキなお部屋に両手いっぱいの薔薇まで用意して、ムードたっぷりに告白したのに、カカシといえばボケッと突っ立ったままなのだ。
オカシイ。
予定ではここで「ウレシイ。先生愛してる」と目に嬉し涙を溜めたカカシが俺の腕の中に飛び込んできて、そのまま目くるめく夜を突っ走るはずだったのに・・・。
あっ、そうか!
ポンとグーとパーにした手で音を鳴らすと、予想外のカカシの反応にちょっぴり悲しくなった四代目の顔が、ぱぁと綻んだ。
きっと、カカシは今、俺の溢れんばかりの愛の大きさに戸惑っているのに違いない。
そうだ。そうだよね。
火影室の隣にこんなラブリーなお部屋がある事だって今知ったんだもん。当たり前だよね。
だったらここは俺が優しくリードしてあげなきゃねv
「くふふ・・・」
「・・・あの・・センセ?」
不気味な忍び笑いに我に返ったカカシが恐る恐る声をかける。
・・・なにか変なもんでも食ったんだろうか。
四代目の言動が変なのはいつものことだけど、今日はチャクラも変だ。もわもわ〜と漂っている。
それが怪しげでヨコシマなピンク色に見えるのは気のせいだろうか。なんだかはわからないが、自分にとっていいものではないような気がする。
思いっきり不審者を見る目なカカシに気づかずに、四代目は無駄に華麗なターンを一つして、カカシとの距離を詰めてきた。
なんでここでターン?!
意味がわからなくて唖然とするカカシの細腰に四代目が手を回してきた。
「緊張してるんだね。愛しい人」
「は?」
「さあカカシ。シャワーを浴びて身を清めておいで」
四代目は芝居がかった大仰な仕草でカカシが抱えていた薔薇の花束を取り上げると、一輪だけ抜き出した薔薇の花弁に唇をよせ、弟子相手に無駄に華麗な微笑を向けてきた。
もう全っ然わけわかんない。
カカシの脳内をハテナマークが飛び回る。
それでも確かに任務直後に連れてこられ、汗もかいていたカカシは、素直にシャワー室に向かった。
装備を外してアンダーを脱ぎながら、カカシは全面ガラス張りの壁なんて意味あるんだろうかと、すでに数回目になったため息をついた。
「先生ってホント、突拍子もないことするよね。ここには先生しかいないってわかってても、こんなの落ち着かないよ。
でも壁をガラス張りにしたのってあれかな?先生はオレの姿を見ていたいって言ってたけど、そんなにオレの事が心配なのかな。
風呂まで見張られなきゃならないほどは倒れてないと思うんだけど。・・・ひっ!」
カカシは、突然目の前に現われた異様なものに悲鳴を上げた。
何かがガラスに張り付いている!
よくよく見直すと、なんとそれは四代目だった。まるで壁に投げつけられた蛙かなにかのように、火影の威厳もへったくれもない格好でぴったりとガラスにへばりついていた。
・・・心配してくれるのはいいけど、怖すぎる。
みょうちきりんな四代目の行動に我慢の限界だったカカシは素早く印を切った。
カカシの術は完璧だった。
「カカシく〜ん、見せてよ〜〜!!」
見事にスモークがかかりドアも密封されて、ただの黒いガラス箱と化したシャワー室。
何故か防音加工までもが施され、水音さえも聞こえやしない。
夢破れて山河あり。
秘密の小部屋には、カカシのシャワーシーンの夢破れ、泣き崩れる四代目の声が空しく響くのみだった。