(ろまんちか ななみ様より)
風呂から上がったカカシは、自分を待ち構えていた四代目の姿を見て眉を寄せた。
「先生……。一体何が言いたいんですか?」
何が言いたいのかと問われて流石の四代目も答えに詰まる。
自分は先程から解り易い程にカカシに意思表示しているというのに。それなのにこの反応はどういう事だろうかと頭を悩ませる。
「何って……。俺はキミの事を…。」
「スキなんて言ったら殺しますよ?」
「いやいや。何、それ。何その物騒な発言。」
「俺は今そんな冗談を笑って聞き流せる程大人ではありませんから。−なんですかあれ。」
あれ と言いながら振り向き顎で指し示すシャワールームへ四代目も視線を移し、何だか弱気になってきた。
「駄目?」
「駄目だとか、駄目じゃないだとか、そういう問題じゃないんですよ。どうして部屋にシャワールームを作るという面倒且つ迷惑な真似をするのかって事を聞きたいんですよ。」
厳しい口調でポンポンと語るカカシに対して四代目は内心ガッカリした。
カカシなら、もっとノリの良い反応を示すかと思われたのだが、どうやら根っからの生真面目さが出てしまったらしい。
「家に帰って風呂に入るのが億劫な時もあるから……。」
苦し紛れの微妙な言い訳にカカシの眉間に深い皺が刻まれる。
「それが鏡張りなんですか?」
「珠にはいいだろう?」
「よくないですよ。おちつかないでしょう。あんた馬鹿だろ。本当の馬鹿だ。」
「何もそこまで言う事ないだろう?俺は仮にも……。」
「ええ、師匠ですよ。今その事を激しく恥じてますよ。」
「風呂に入っといてそれはないんじゃない?」
「それは何となく、ノリで入ってみましたけど。何やってんだ俺って思いましたしね。」
「え〜〜。」
「え〜〜。じゃないですよ!だったら先生も入ってみればいいじゃないですか!どれだけ自分が馬鹿か解りますよ。」
「………。」
真剣に怒っているカカシを見てショックを受けた四代目だが。そこまで嫌がる理由を知りたいという好奇心も止める事ができないまま、渋々と自分もシャワーを浴びてみる事にした。
「俺は別に汗なんてかいてないけどね。」
苦し紛れにそう言ってみるが、
「いいから入れって言ってるんだ。」
と凄まれてはそれ以上何も抵抗できなくなる。
(……カカシ…急に男らしくなった…。)
などと馬鹿げた事を考えながら渋々と衣服を脱ぐ。
火影服を床に落とし、ベストにも手をかけようとしたその時。
「!!!!!!」
予想外の衝撃が背後から四代目の腰に加えられ、勢い余ってそのまま床に倒れた。
痛みと驚きで何がなにやら解らなくなりそうだと思いながら振り向くと、鬼のような形相のカカシが腕組したまま片脚を挙げたままの状態で睨みすえている。
あ。もう少しで見えそうだ。
などと馬鹿な事をうっかり言おうものなら確実にこの世から消されてしまうと思い、敢えてそれは口に出して言わないまま「何?」と尋ねてみた。
四代目の半ば涙目になった瞳を見下ろしカカシは呆れたように眉を上げる。
「あんた、何火影服を床に脱ぎ捨ててるんですか。それはあんたにとって命と同じくらい重要でしょうが。それを脱ぎ捨てるだなんて、どうかしてる。キチンと畳んでから風呂に入れ。」
「……。」
それはカカシがしろよ。お前仮にも俺の弟子だろう?−とは流石に言えぬまま素直にキチンと折畳む。
その姿を満足そうに見つめ、「よし」と言っている姿を見て、将来カカシの弟子になる子は気の毒だなと思ったりもした。
こんなに融通が利かない性格をしているのだから。きっと逃げ出したくなるに違いない。
そんな事を考えつつベストを脱ぎ捨てるとやはり背中に衝撃が襲ってくる。
「何度も言わせるな!」
「………。」
今度は何も言わぬまま四代目は素直にベストも折畳む。
これでは何かの躾けか訓練みたいじゃないかと思いつつカカシを振り向くと、腕組したまま「何ですか。」と尋ねて来た。
「カカシ…俺の事嫌ってる?」
度重なる暴言と暴力に対し思わずそう尋ねる。もしかしたら自分はとんでもない勘違いをしたのではないだろうか。もしそうなら今すぐ全てを撤回し、カカシにも今回の事全ては悪い冗談だったと言って殴られておけばいいだろうと考える。
だがそんな事など知りもしないカカシは呆れたように溜息をつき、「そんな訳ないじゃないですか。」と答えた。
「俺にとって先生は大切な人ですよ。」
「カカシ!」
「−正直時々イラッときますけど。」
「………。」
肩を落としてシャワールームに入って行った四代目を見送り、シャワーの蒸気で全く中が見えなくなっている様子をチラッと振り返り溜息をつく。
どこまで馬鹿なんだ。
そう心の中で呟き、先程四代目が丁寧に折り畳んだ火影服の背の刺繍を指で辿り、目を細めた。
少し前まで彼が身につけていたものだ。
それだけでとても大切に扱わなければと思ってしまう。
流れるシャワーの音を聞きながら室内をグルッと見回したカカシは心底呆れたような溜息を漏らし、もう一度肩越しにシャワールームを振り返った。
馬鹿でどうしようもない男があそこにいる。だが、その馬鹿でどうしようもない男を憎みきれない自分も自分だと思いながら…。
もう一度火影服に視線を移し、ふっと柔らかく微笑んだ。